「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」の一場面(C)2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

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第87回アカデミー賞で作品賞、監督賞を含む4部門に輝いた「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」が公開された。本作を見た映画ファンなら例外なしに驚くポイントは、この映画が、冒頭と最終盤の数カットを除いて、全編のほとんどが超絶長回しのワンカットで撮影されていることだろう。およそ2時間に渡り、カットなしのワンカメ映像が延々続くのだ。これは奇跡と言っていい。いや、魔術と言った方が正しいか。

正直、100年を超える映画の歴史の中でも、こんなにも長いワンカットは他に見たことも聞いたこともない。しかも本作のその超絶ワンカットは、ステディカム(手持ちカメラ)による移動撮影なのである。実際に本編を見ると、ステディカムは自在に動いている。部屋にいる主人公を映しているかと思えば、振り返ってドアを向き、ドアから部屋に入ってくるマネージャーをとらえる。2人が会話をしている画を映した次の瞬間、カメラはマネージャーを追って部屋から出て行く。

少しでも映画の撮影について知識がある方なら、この撮影がどんなにチャレンジングなものか理解できるだろう。そして、一体どうすれば可能になるのかと疑問を抱くに違いない。そんな魔術的なカメラワークがどうして実現したのか。映画.comが、特別映像やアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督のコメントを手がかりにその疑問に答えたい。

その長回しのショット群は、イニャリトゥ監督がすべての瞬間、すべての段階で、俳優の顔の向きや動作さえも事前に決めて1発勝負で撮影するという方法で実現している。実際のワンカットは数分間、ものによっては10分以上のカットもあるだろう。これらの長いカットを編集で切れ目のないよう巧みにつなぎ、全編がワンカットの(ような)映画が出来上がったのだ。

と、言葉で表現するといかにも簡単なように感じるかもしれないが、これは想像を絶する冒険だ。過去に誰も挑戦していないし、そもそも、そんな発想すら普通は思いつかないだろう。しかし、イニャリトゥ監督はこの前代未聞の撮影と編集方法を思いつき、見事実現してしまう。今回、撮影監督に指名されたのはエマヌエル・ルベツキだ。昨年「ゼロ・グラビティ」における宇宙空間での超絶長回しで世界を驚かせた男だ。

イニャリトゥは「照明もカメラワークも、相当な技術と経験が必要だった。エマニュエル・ルベツキでなければできなかったと思う」とその仕事を賞賛している。ルベツキは、本作で見事2年連続のアカデミー撮影賞を受賞した。映画を見れば、受賞は当然だと誰もが思うはず。

出演者のエドワード・ノートンは「イニャリトゥ監督ほど大胆で天才的な監督はいない。監督の視覚的な試みは連続した映像を作り出したことだ」と絶賛。一方、監督は「この撮影方法には綿密な準備が必要だった。カメラの動きや俳優の一挙手一投足に至るまで全部リハーサルしたよ」と述懐し、「全編が連続した映像だ。主人公がたどる迷路を観客にも通ってほしい」と訴えている。

そう、全編ワンカットにした意図がここにある。映画は終始、主人公の視点で描かれているのだ。彼のたどる道は迷路のごとく、そして彼の心がたどるのもまた迷路のようだ。揺れ動くステディカムの映像が、主人公の心象風景をこれでもかと吐き出していく。

本作のメガホンをとったことを「今までで一番難しく楽しい仕事だった」と話すイニャリトゥ監督は同時に、「あの撮影は恐ろしくて、無責任な実験だったよ」と吐露する。確かに、これまで「バベル」「21グラム」など時空間を断片化させて描く作品を手がけてきた監督にとって、本作の撮影は180度異なるものだったはずだ。「コンマやピリオドをつけずに文章を書くようなもので、シーンを分断しないと、内在するリズムや調和、つながりが見つけにくくなる。すべてを事前に計画し、頭に入れた上で撮影したよ」と語る監督。「俳優たちのその場の感情や臨場感を伝えたかった」という言葉通り、本作では実力派俳優たちの1秒のズレもない圧巻の演技を堪能できる。

「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」は公開中。必見ポイントのひとつは「撮影」である。

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