■4月特集 春競馬、クライマックス(3)

 今年の3歳春のクラシック(※)は、牝馬、牡馬ともに有力馬がズラリとそろっているが、とりわけ牝馬は過去に例がないほど、ハイレベルな状況となっている。3戦無敗の重賞勝ち馬が4頭もいるのだ。
※牝馬戦線=桜花賞(4月12日/阪神・芝1600m)、オークス(5月24日/東京・芝2400m)。牡馬戦線=皐月賞(4月19日/中山・芝2000m)、ダービー(5月31日/東京・芝2400m)

 そのうち、フラワーC(3月21日/中山・芝1800m)の勝ち馬アルビアーノ(牝3歳/父ハーランスホリデイ)は、桜花賞を回避。NHKマイルC(5月10日/東京・芝1600m)に向かうようだが、その他の3頭、きさらぎ賞(2月8日/京都・芝1800m)を制したルージュバック(牝3歳/父マンハッタンカフェ)、クイーンC(2月14日/東京・芝1600m)の覇者キャットコイン(牝3歳/父ステイゴールド)、フィリーズレビュー(3月15日/阪神・芝1400m)を勝ったクイーンズリング(牝3歳/父マンハッタンカフェ)は、いずれも桜花賞に出走予定。初の直接対決で雌雄を決することになる。

 桜花賞における無敗馬の対決と言えば、5戦無敗のイソノルーブル(1番人気5着)と3戦無敗のシスタートウショウ(4番人気1着)が激突した1991年、3戦無敗同士のダンスインザムード(1番人気1着)とムーヴオブサンデー(3番人気4着)が頂点を争った2004年を思い出す。興味深いのは、いずれの年も両雄がそろって崩れたことはなく、2頭のうちどちらかが勝利していること。つまり、今年も注目すべきは、3頭の無敗馬による争い。その戦いを制した馬が、栄冠を手にすると考えていいのではないだろうか。

 そこで、この"三つ巴"の戦いを専門家たちはどう見ているのか。どの馬が先着すると予想しているのか、聞いてみた。

 結果は、10人中、9人がルージュバックと回答。きさらぎ賞で牡馬を蹴散らした同馬が、圧倒的な支持を集めた。そして、ほとんどの識者が同じような見解を示した。その代表とされるのは、中日新聞・若原隆宏記者のコメントだ。

「直近の様子次第では違った判断を下すかもしれませんが、現状ではルージュバックの地力はやはり軽くは扱えません。単純にきさらぎ賞の相手関係を考えても、前に壁がなくてもコントロールが効いたレースぶりを見ても、一枚上の存在でしょう。ルージュバック>キャットコイン>クイーンズリングといった構図が順当な評価ではないでしょうか」

 確かにルージュバックの3連勝は圧巻だった。すべて完勝で、しかも相手のレベルが高かった。2勝目を飾った百日草特別(11月9日/東京・芝2000m)では、のちに京成杯の勝ち馬となるベルーフ(牡3歳)、毎日杯を制すミュゼエイリアン(牡3歳)をあっさりと撃破。さらに、きさらぎ賞でも、当時牡馬クラシックの有力馬と見られていたポルトドートウィユ(牡3歳)やアッシュゴールド(牡3歳)らをまったく寄せつけなかった。

「きさらぎ賞で下したポルトドートウィユ(2着)や、アッシュゴールド(3着)が、その後のレースでそれぞれ敗戦したことによって、きさらぎ賞のレベル自体に疑問の声が上がっていますが、百日草特別で破った相手を考えれば、そうした声は一蹴できます。他にアラを探せば、少し間隔の開いたローテーションというのもありますが、きさらぎ賞が3カ月ぶりのレースで快勝ですからね。それも取り立てて騒ぐことではないしょう。この馬の器は相当なもの。牝馬トップレベルの存在であることに変わりはありません」

 関東のトラックマンがそう語って、改めてルージュバックのすごさを強調する。

 だが、こうした意見に待ったをかける声もあった。唯一、キャットコインに一票を投じた、サラブレッド血統センターの平出貴昭氏だ。

「ルージュバックの能力上位は認めます。しかし、母の父がオーサムアゲインと、決してマイル向きではない血統背景や、速い流れを経験していない臨戦過程などを考えると、ハイペース必至の阪神・芝1600mという舞台では絶対の信頼は置けません。これまで、ゆったりと流れる1800m以上のレースしか使っていませんし、初の芝マイル戦はベストの条件とは言えないでしょう。負けるとすれば、ここだと思いますよ」

 また、ルージュバックがこれまで出走したレースの最多頭数は10頭。桜花賞で初めて多頭数(18頭立て)の競馬を経験する点も気になるところだ。

 そんな不安を抱えるルージュバックに代わって、平出氏が推すのはキャットコイン。

「キャットコインの母の父は、1998年のファレノプシス、2013年のアユサンと、2頭の桜花賞馬を出しているストームキャット。父ステイゴールドも、産駒が宝塚記念で5勝を挙げるなど、阪神コースと抜群の相性を示しています。そのうえで、キャットコインがこなしてきた3戦はすべてマイル戦。この距離の流れに慣れている点でも、好感が持てます。桜花賞に限れば、アドバンテージがあるのは、この馬でしょう」

 ところで、誰も推さなかったクイーンズリングは、何が問題なのか。2戦目の菜の花賞(1月17日)では、中山・芝1600m戦で最も不利とされる大外の15番枠発走ながら、ゴール前で楽々と抜け出して快勝。3戦目のフィリーズレビューでは、1400m戦のスピードに対応し、阪神コースも経験した。なおかつ、18頭立ての多頭数も難なくさばいて、不安要素は見当たらないのだが......。

 平出氏は、「血統は魅力的でマイル適性も低くないのですが、大幅な馬体減(マイナス20kg)の中、強烈な末脚を見せた前走の反動が心配」だと言う。

 繊細な牝馬にとって、20kgもの馬体減は明らかにマイナス要素。そんな状態にあって、非常にハードなレースをこなし、しかも本番までのレース間隔が短い(中3週)となれば、嫌われるのも仕方がないことかもしれない。さらに、フィリーズレビューの勝ち馬が桜花賞本番での活躍が少ないことも、識者たちの食指が動かなかった理由のひとつだろう。この点については、獣医師の資格を持つ前出の若原記者が補足する。

「馬の性周期はおおむね21日で、発情状態(=フケ)になると能力が減退しやすいことはよく知られています。また逆に、このフケの直前は競走能力が高まる、という説もあります。つまり、フィリーズレビューがこの能力の高まったタイミングだとすると、(4週間後の)桜花賞ではフケの時期と重なっている可能性が高くなります。それが、フィリーズレビューの勝ち馬の(桜花賞での)凡走につながっているのかもしれません」

 何はともあれ、3戦3勝馬が3頭も出走する、ハイレベルなレースは見逃せない。はたして、9割の識者が支持するルージュバックがそのとおりの強さを見せつけるのか、それとも、キャットコイン、クイーンズリングが真の無敗馬として、その存在を誇示するのか。4月12日、運命のゲートが開く。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu