■4月特集 春競馬、クライマックス(2)

3歳牝馬クラシック第1弾の桜花賞(4月12日/阪神・芝1600m)がいよいよ間近に迫ってきた。今年の牝馬戦線は、いまだ負け知らずの実力馬が何頭かいて、素質を秘める伏兵馬も五指に余るほどいる。まさしく、近年まれに見るハイレベルな状況にあると言っていいだろう。そんな熾烈な争いの中、はたして桜花賞、そしてオークス(5月24日/東京・芝2400m)で上位争いを演じるのはどの馬か――。素人にはとても判断できないため、昨年に続いて今年も、競走馬を見る目に長(た)けている元ジョッキーの安藤勝己氏を直撃。牝馬クラシックで躍進が期待できる有力3歳牝馬の実力分析を依頼した。そのうえで、安藤氏独自の視点による「番付」を作成してもらった。

●横綱:ルージュバック(牝3歳)
(父マンハッタンカフェ/戦績:3戦3勝)

 今年の3歳牝馬は素質馬がそろっているけど、「横綱」はこの馬で揺るがないと思うな。3戦3勝で、前走は重賞のきさらぎ賞で牡馬相手に完勝した。デビュー戦でもラスト(3ハロン)32秒台の脚を使っているし、ここまでの実績は本当にすごいよ。

 また、過去3戦のレースぶりがすべて違う。つまりそれは、どんな競馬にも対応できるということ。決して目を引くような馬体ではないんだけど、相当な「器」の持ち主だよね。結局、見た目と違っていい走りができるのは、バネがいいからだと思う。フットワークがよくて、すごく柔らかい走りをする。それが、最後の瞬発力にもつながっている。一定のリズムで走れるし、距離が延びてもいいタイプだろうね。

 あと、ローテーション的にも余裕があるのが、好感が持てる。それだけ、陣営がこの馬に対して自信を持っていた証拠。前走で輸送も経験して、距離への不安もない。春は、桜花賞、オークスも勝って、秋には凱旋門賞挑戦......そんな期待を抱かせる馬だね。


●大関:ココロノアイ(牝3歳)
(父ステイゴールド/戦績:5戦3勝、2着1回、3着1回)

 うまくまとまっている馬だけど、チューリップ賞(1着)の前までは、正直そんなに強いとは思っていなかった。昨年末の阪神ジュベナイルフィリーズ(以下、阪神JF)で3着と好走したときも、馬の実力というよりは、ノリ(横山典弘騎手)が上手に乗った、という印象が強かったからね。

 それだけに、チューリップ賞の走りには驚いた。「この馬、こんなに強かったのか」と。こじんまりと完成された馬だと見切っていたけれども、思った以上に成長力を秘めていた、ということだろうね。それと、やっぱり暮れのGI(阪神JF)で上位に来るような馬は、それほどの実力馬ということ。ただ、ルージュバックを負かす、というイメージまではわいてこない。あくまでも、2着候補のトップと見ている。

●関脇:レッツゴードンキ(牝3歳)
(父キングカメハメハ/戦績:5戦1勝、2着2回、3着2回)

 阪神JFでは、この馬が2着でココロノアイが3着。反対に、チューリップ賞ではココロノアイが勝って、この馬は3着に敗れたが、ココロノアイとの実力差はなく、能力はほぼ互角だと思う。実際、チューリップ賞では、この馬は押し出されるような形で前に行かざるを得なくなって、その分、最後はココロノアイに差されてしまった。むしろ、自分の競馬ができずに3着に粘ったのだから、改めて力のあるところを見せた、と言うべき。やはりこの馬も、GI(阪神JF)2着はダテじゃなかったということだね。

 課題は、そのチューリップ賞の敗因となった"行きたがる面"をどれだけ抑えられるか。その問題が解消されていれば、桜花賞ではココロノアイに先着できるかもしれないね。


●小結:クイーンズリング(牝3歳)
(父マンハッタンカフェ/戦績:3戦3勝)

 桜花賞トライアルは、例年チューリップ賞組のほうが力上位で、フィリーズレビュー組はやや力が落ちる。今年もそんな印象に変わりはないが、フィリーズレビュー組の中でも、勝ったこの馬だけは見どころがあった。普通1400mのレースでは、出負けして、外、外を回されたら、致命的。にもかかわらず、この馬は最後にきっちり差し切った。こんな芸当は、相当な力がないとできないことだよ。

 気になるのは、そのフィリーズレビューで馬体重を大きく減らしたこと(20kg減)。ローテーション的にも、押せ押せできているから、桜花賞ではその辺の影響が出るかもしれない。とはいえ、そもそもデビュー戦では1800m戦を快勝。距離は長いほうが良さそうなタイプで、オークスでは面白い存在になりそう。

●前頭1枚目:キャットコイン(牝3歳)
(父ステイゴールド/戦績:3戦3勝)

 クイーンCの覇者で3戦3勝。道中、ちゃんと折り合うことができて、レースぶりにもそつがない。実績では、最上位に挙げられる一頭。ならば当然、桜花賞でも上位争いが期待される馬なんだけど、レースがうまくてそつがない分、インパクトに欠ける。勝っても、勝っても、「強い!」という感じがしないんだよね。

 GIで勝ち負けになる馬は、たとえ負けても、どこかで「この馬はすごい」というところを見せるものだけど、この馬からはそういうモノが伝わってこない。レースは上手だから、桜花賞でも掲示板(5着以内)に載るくらいは走ると思うけど、それ以上となるとどうだろうか......。


●前頭2枚目:ミッキークイーン(牝3歳)
(父ディープインパクト/戦績:3戦1勝、2着2回)

 クイーンCではキャットコインの2着だったけど、この馬のほうがレースぶりに光るモノがあったよね。特に、最後方から追い込んだ終(しま)いの脚。上がり(3ハロン)タイムも、唯一33秒台を記録。あそこまでの脚を使える馬というのは滅多にいないよ。しかも、馬体重が20kgも減っていて、決して万全な状態ではなかった。それで、あんな競馬ができるんだから、キャットコイン以上のインパクトをこの馬からは感じた。

 懸念されるのは、そのクイーンCで減った馬体重をどこまで取り戻して、どれだけいい体調を作ってこられるか。もしベストな状態でレースに臨めるならば、かなり楽しみな存在となる。実績面は劣るけど、ダークホースとして一番面白いのはこの馬だね。

●番外:アルビアーノ(牝3歳)
(父ハーランスホリデイ/戦績:3戦3勝)

 本来この馬を、ルージュバックに次ぐ大関と評価していた。3戦3勝の負け知らずで、前走のフラワーCも2着に1馬身半差をつける完勝だった。あのレースぶりには、大物感があふれていたし、能力的にもまだまだ奥があるような感じがした。「底知れない」という意味では、この馬が一番だった。

 ところが、どうやらこの馬はクラシック戦線には行かず、NHKマイルC(5月10日/東京・芝1600m)に向かうという。結果、この春はクラシックで同世代の牝馬と戦う可能性がなくなったので、能力は認めても「番外」とさせてもらった。できれば桜花賞で、この馬とルージュバックの戦いを見たかったのだが......。

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 他では、良血のコンテッサトゥーレ(牝3歳/父ディープインパクト)もまだまだ見限れないのだが、牝馬戦線は何にしても「横綱」ルージュバックの独壇場となりそう。桜花賞、オークスでどれほどの強さを見せてくれるのか、楽しみだ。

【プロフィール】
■安藤勝己(あんどう・かつみ)
1960年3月28日生まれ。愛知県出身。2003年、地方競馬・笠松競馬場から中央競馬(JRA)に移籍。鮮やかな手綱さばきでファンを魅了し、「アンカツ」の愛称で親しまれた。キングカメハメハをはじめ、ダイワメジャー、ダイワスカーレット、ブエナビスタなど、多くの名馬にも騎乗。数々のビッグタイトルを手にした。2013年1月31日、現役を引退。騎手生活通算4464勝、うちJRA通算1111勝(GI=22勝)。現在は競馬評論家として奔走している。

新山藍朗●構成 text by Niiyama Airo