■4月特集 春競馬、クライマックス(1)

まもなく開幕する2015年春のクラシック。今年、その舞台に初めて挑み、なおかつ活躍を期待されるのが、JRAの騎手免許(通年)を取得したクリストフ・ルメール騎手だ。そんな彼に、クラシック初参戦への意気込みと、勝ち負けが期待できる有力馬について話を聞いた。

 JRAの騎手免許を取得した僕が、一番楽しみにしているのは、春の3歳クラシック(※)に参加することです。
※牝馬戦線=桜花賞(4月12日/阪神・芝1600m)、オークス(5月24日/東京・芝2400m)。牡馬戦線=皐月賞(4月19日/中山・芝2000m)、ダービー(5月31日/東京・芝2400m)

 というのも、これまで短期免許を取って日本で騎乗していたのは、秋から冬にかけてのシーズンでした。そこで期限が切れてしまって、春のクラシックシーズンに騎乗する機会はありませんでしたからね。

 その分、日本のクラシックについては、いろいろな方々から話を聞いて、ビデオでも何度も見てきました。桜花賞、皐月賞、オークス、ダービーと、春の柔らかい日差しのもと、桜が咲き乱れていたり、新緑が輝いていたり、という景観の中で行なわれるレースは、すべてがとても華やいでいて、素晴らしいものに見えました。大観衆で埋め尽くされたスタンドもすごく盛り上がっていて、いつかこんな舞台で騎乗してみたいと思っていました。

 それが今年、念願かなって、ようやく実現します。すでに今、気持ちが高揚して、本当にワクワクしています。

 クラシックの騎乗においては、僕なりに研究し、勉強もしてきました。当然、今年の注目馬たちについても、しっかりとチェックしています。

 牡馬戦線は、レベルの高い馬が何頭かいて、かなり熾烈な戦いになりそうです。牝馬戦線は、粒ぞろいのメンバーがそろう中、一頭、飛び抜けてすごい馬がいる、という印象があります。

「すごい馬」というのは、ルージュバック(牝3歳/父マンハッタンカフェ)です。昨年の牝馬クラシックは、ハープスター(牝4歳/桜花賞1着、オークス2着)が中心でしたが、今年その役割を担うのが、ルージュバックと見ています。それほど、強い馬だと思います。

 ただし、ハープスターとは、タイプが違いますよね。ハープスターは、スピードがあって、末脚が強烈な馬でした。一方、ルージュバックは、とにかく安定感のある馬です。全身から自信に満ちあふれた"オーラ"を放っていて、とても3歳馬には見えない、大人の雰囲気を漂わせています。

 牡馬を相手にして、重賞のきさらぎ賞(2月8日/京都・芝1800m)を制したルージュバック。あのレースぶりを見る限り、ダービーに出走したとしても、きっといい勝負になるのではないでしょうか。それぐらいスケールの大きな馬だと思います。

 そんな大物がいる桜花賞。僕は、新馬戦(1着。2014年11月24日/京都・芝1400m)で手綱をとったコンテッサトゥーレ(牝3歳/父ディープインパクト)に騎乗します。

 新馬戦では、いい手応えで、ゴーサインを出してからの反応もよかったです。チューリップ賞(3月7日/阪神・芝1600m)では6着でしたが、良馬場ならもっとやれるはず。ルージュバックは強敵ですが、同馬を負かすくらいの気持ちでがんばろうと思います。

 一方、牡馬戦線では、サトノクラウン(牡3歳/父マルジュ)に騎乗します。

 サトノクラウンは、皐月賞トライアルの弥生賞(3月8日/中山・芝2000m)を快勝して、ここまで3戦3勝。本当にいい馬に乗せてもらえることになりました。

 レースで騎乗したことはありませんが、同馬は見た目にエレガントで、走るときの脚さばきがとてもスムーズです。弥生賞でも非常に強い競馬を見せてくれましたが、僕の中でそれ以上に印象に残っているのは、昨秋のGIII東京スポーツ杯2歳S(2014年11月24日/東京・芝1800m)を勝ったときです。

 道中、中団の後ろ目を追走していたサトノクラウンは、直線に入ってから前が壁になって、完全に行き場をなくしていました。しかしゴールまで残り100mを切ってから、最後の最後で凄まじい脚を使って、馬群を割って抜け出してきたのです。あんな芸当は、よほど強い馬でなければできません。

 そんなサトノクラウンで挑む牡馬クラシック。皐月賞も、ダービーも、大いにチャンスがあると思っています。

 強敵は、共同通信杯(2月15日/東京・芝1800m)の覇者リアルスティール(牡3歳/父ディープインパクト)、同2着のドゥラメンテ(牡3歳/父キングカメハメハ)、そして2歳王者のダノンプラチナ(牡3歳/父ディープインパクト)あたりではないか、と見ています。が、今年の3歳牡馬は他にも強い馬がそろっています。どの馬がライバルというよりは、まずはサトノクラウンにいい競馬をさせてあげることが大切だと思っています。

 僕はフランスにいたときから、「日本のダービーは素晴らしいなあ」と思っていました。競馬場の雰囲気が華やかで、スタンドの熱気も、歓声も、他のレースとは明らかに違いますよね。だから、日本ダービーで勝つことを、ずっと夢見てきました。

 そのチャンスが、日本のジョッキーになって1年目で早くもめぐってきました。サトノクラウンは、それだけの馬です。

 ともあれ、まず大事なのは、皐月賞。そこを勝って、ダービーに向かいたい。そうして"二冠達成"ということになれば、初めてにして、最高のクラシックになるでしょうね!

【プロフィール】
■クリストフ・ルメール
1979年5月20日生まれ。フランス出身。フランス競馬のトップジョッキーとして活躍。世界中で数々のGIを獲得してきた。日本でも短期免許を取得して高い手腕を発揮。これまでに重賞19勝(うちGI5勝)を挙げている。JRA通算246勝(4月5日現在)。

新山藍朗●構成 text by Niiyama Airo