テレビで観戦していた人は、試合の途中でチャンネルを変えてしまったかもしれない。

 3月29日に行われたリオ五輪1次予選のベトナム戦で、手倉森誠監督率いるU−22日本代表は2対0で勝利した。

 苦戦を強いられたことは、指揮官も認めている。キックオフの1時間ほど前から降り出した雨は、ボールコントロールを難しくした。「ぬかるんだピッチでラストパスの精度を欠いた」と手倉森監督は話し、「前半はミスが多くて、なかなか崩せないところがあった」と、キャプテンの遠藤航(湘南)も振り返っている。

 中1日のスケジュールも、手倉森監督が「想像以上」と話す過酷さである。「東南アジアは中1日の大会が多いので、ベトナムも慣れているなというはつくづく感じた」とも付け加えている。

 アジアのサッカーのレベルは、相対的に上がっている。その一翼を担うのは日本人の指導者で、今回対戦したベトナムも三浦俊也監督が束ねる。かつて大宮と札幌をJ1へ昇格させた51歳は、ハードワークと規律を植え付け、負けにくいチームを作り上げている。

 それにしても、「ベトナム相手に2点しか取れないのか」との印象を抱いた方は多いはずだ。最終予選へ思いを巡らせ、予選突破を危惧する声も聞こえている。

 北京五輪の最終予選で、日本はベトナムと対戦している。2007年8月22日にホーム国立で行われた一戦の結果を、覚えている方がいるだろうか。

 1対0である。

 前半ロスタイムに右CKからあげた1点が決勝点となった。圧倒的な強さを見せつけての発進ではなかったのである。

 2004年のアテネ五輪2次予選で、山本昌邦監督が統べる日本はミャンマーと対戦した。ホーム&アウェイではなく、2試合とも日本国内で行われた。

 初戦の結果は3対0である。ホームにミャンマーを迎えながら、大勝とはいかなかったのである。

 ひるがえって今回のベトナム戦だ。スコアも内容も、率直に物足りない。ただ、今回は中1日のセントラル開催である。前半と後半の終了間際に得点をあげたのは、勝負強さと忍耐強さを示したものだったはずだ。「2点しか取れなかった」のは事実だが、しっかりと勝ちきったのは評価されていい。

 同時進行の他グループでは、韓国もオーストラリアも似たようなスコアのゲームを演じている。圧倒的なまでの実力差は披露できていない。中1日での連戦は、それだけ消耗が激しいのだ。

 ベトナム戦で試合を決めたのは、中島翔哉(FC東京)だった。揃って先発した久保裕也(ヤングボーイズ/スイス)と南野拓実(ザルツブルク/オーストリア)は、格の違いを見せられなかった。個人のパフォーマンスにおいても、周囲との連携においても、現状では不満が残る。

 とはいえ、ふたりの海外組に寄りかかるようでは困るのも事実だ。「彼らが違いを見せて簡単に勝てるようでは、競争もうまくいかないだろうなと。これで国内組も海外組も、より競争が激しくなるだろうと思います」という手倉森監督の見立ては、決して強がりではないだろう。

 明日31日のマレーシアとの最終戦を待たずに、日本の首位通過は確定的となった。黒星を喫したとしても、得失点差で1位は譲らない状況である。

 そもそも今回の1次予選は、結果を残しながらチームの底上げをはかることに目的がある。マレーシアで過ごしている日々を血肉として、チームが逞しくなっているのは間違いないのだ。