砂漠の競馬場を舞台にしたカーニバルで、今年も国際競馬の幕が開く。5つのサラブレッドの国際GI競走を含む9つの国際競走を開催するドバイワールドカップ(以下、ドバイWC)カーニバルが、現地時間3月28日(土)、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにあるメイダン競馬場で行なわれる。メイン競走であるドバイWC(ダート2000m)は、今回20回目の節目を迎える。かつては僻地の競馬に過ぎなかったこのカーニバルは、この20年の間に、世界の競馬カレンダーになくてはならない存在となった。

 それを証明するかのように、日本からも毎年のように精鋭が送り込まれ、多くのドラマを演じてきた。2011年の開催では、ヴィクトワールピサがドバイWCを優勝し、東日本大震災直後の日本に大きな勇気を与えた。昨年はジャスタウェイがドバイデューティフリー(芝1800m、今年から「ドバイターフ」に改称)を圧勝。その内容が評価されて、昨年のロンジンワールドベストレースホースランキングの第1位に選出。ジェンティルドンナも絶体絶命の位置からの逆転で、ドバイシーマクラシック(芝2400m)を制している。これらに続けと、今年も日本から計7頭が、3つのレースに参戦する。

 メインとなるドバイWCには、昨年のジャパンカップの勝ち馬で、前出のワールドベストレースホースランキングで2位となったエピファネイア(牡5)と、昨年のJRA賞最優秀ダート馬ホッコータルマエ(牡6)が挑む。日本における目下の芝・ダートの現役トップホースが揃っての出走となる。

 今年のドバイWCを語る上で欠かせないのがオールウェザー(以下、AW)からダートへのコース素材の改修だ。

 このコースの歴史を振り返ると、2009年まで開催されていた旧競馬場であるナドアルシバではダートが使用されていた。ダートといっても、砂である日本のそれとは異なり、土をほぐしたようなタイプのもので、北米で使用されているものと近似していた。そのため、09年までのドバイWCは北米勢が強く、14回中8回が北米調教馬だった。

 2010年に現在のメイダン競馬場がオープンすると、それまでのダートに替わって通称「タペタ」を使用したAWコースとなる。タペタは砂にワックスと、廃棄された合成ゴム由来の繊維を混合させた合成素材で、水はけの良さやメンテナンスの容易さから、導入当初は歓迎する声が高かった。しかし、かつての主役だった北米勢の参戦が減り、さらに維持管理費用の増大、脚もとを傷める馬が相次いだことから、昨年のドバイWC後に再びダートへと転換することとなったのである。
 
「実はヨーロッパから来て、ダートで調整していた馬が、軒並み脚を傷めています。どうやら、ダートに深さはあるものの密度があまりなく、ダートの下の固い層に直接当たっているような感覚のようで、タペタとはまた違った形で脚にくるようです」
 
 そう話すのは、アイルランドで開業している日本人調教師の児玉敬氏で、ドバイWCに先立って行なわれているインターナショナルカーニバルに1月から参戦しているのだ。レースを前にして不安を感じる情報だが、児玉氏はフォローするように続ける。

「ただ、このタイプのダートは、意外に日本の馬に向く可能性も否定できません。ある程度前につけないと勝てない傾向があり、芝・ダートともに速い流れに慣れている日本の馬ならこなしても不思議はないでしょう。もちろん、それ以上にアメリカの馬にもおあつらえ向きな馬場でもあるので、そこが強敵になるとは思いますが...」

 そのアメリカからは、昨年の年度代表馬であるカリフォルニアクローム(牡4)が参戦する。カリフォルニアクロームは昨年の米国三冠のうち二冠を勝利。秋の大一番ブリーダーズカップクラシック(サンタアニタ、ダート2000m)こそ3着に敗れたが、返す刀で臨んだハリウッドダービー(デルマー、芝1800m)を勝利し、芝・ダートを問わない能力と適性の高さを示した。これは、未知の馬場で行なわれるドバイWCに臨むにあたって、大きなアドバンテージを感じさせる。

 また、地元UAE勢からは、昨年のドバイWCの覇者であるアフリカンストーリー(セン8)が連覇を狙って参戦する。3月7日に同じ舞台で行われた前哨戦アルマクトゥームチャレンジラウンド3(メイダン、ダート2000m)を快勝。昨年のチャンピオンが、今年も同様の結果を出したことは、昨年までのAWと適性が似ていることを示したといえる。

 そうなってくると、日本で芝のGIを2勝しているエピファネイアには追い風だろう。実際に、日本の芝GI馬は、前出のヴィクトワールピサのほかに、レッドディザイアも前哨戦を制しており、メイダンのAWに高い適性を示してきた。また、血統面でもエピファネイアの父シンボリクリスエスの産駒は、ダートでもしばしば大物が輩出しており、初めて挑むメイダンのダートでも十分こなすことが期待できる。

 一方のホッコータルマエにとっては、昨年、同レースに大敗していることから、向かい風が吹いている印象は拭えない。しかし、こちらの父であるキングカメハメハも万能型の種牡馬で、海外遠征でもルーラーシップ、ロードカナロアと相次いで産駒が成功を収めている。昨年の大敗も、振り返れば、その後に見舞われる体調不良の予兆だったと考えれば、むしろ悲観する要素はない。二度目の挑戦となる陣営の執念に期待したい。

 ドバイWCの前に行われるドバイシーマクラシック(芝2400m)には、昨年の日本ダービー馬ワンアンドオンリー(牡4)と、桜花賞馬ハープスター(牝4)の、4歳牡牝エースが揃って参戦する。ここもライバルは強力だ。中でも昨年のブリーダーズカップターフの1、2着であるメインシークエンス(セン6)とフリントシャー、そして香港現役最強馬のデザインズオンローム(セン5)は厄介なことこの上ない。

 メインシークエンスは3歳時に英国ダービー2着などの成績を残してはいたものの、目立った重賞タイトルはなかったが、昨年移籍したアメリカで一気に素質が開花し、1年で4つのGIタイトルを手にした。アメリカでの活躍は、平坦コースがプラス要因になったと考えられ、同じく平坦であるメイダンの芝コースはマイナスにはならない。
 
 フリントシャーは昨年の凱旋門賞(ロンシャン、芝2400m)でも2着となり、暮れの香港ヴァーズ(シャティン、芝2400m)では断然の人気に応えて勝利を挙げた。フランス、アメリカ、香港と転戦したように遠征慣れは証明済み。

 デザインズオンロームは昨シーズンのクイーンエリザベス2世カップ(シャティン、芝2000m)で前出のエピファネイア以下を子供扱いしており、昨年暮れの香港カップ(シャティン、芝2000m)でも大外から豪快な末脚で制している。管理するジョン・ムーア調教師にとっても、過去に2着(ヴィバパタカ)があるドバイシーマクラシックは悲願のレースのひとつだけに、ここでも侮れないだろう。

 ワンアンドオンリーは、期待された昨年の菊花賞での敗戦以降がいまひとつ奮わないが、それでもダービーはもちろん、秋緒戦の神戸新聞杯で見せた勝負根性は、海外のビッグネーム相手でもひけはとらないはず。父ハーツクライは、昨年ドバイで勝ったジャスタウェイと同じというのも心強い。

 一方のハープスターは2月の京都記念こそ、結果だけ見れば不満が残るが、敢えてこれまでとは違った位置取りでの競馬を試してのもので、悲観する内容ではなかった。もとより、昨年の凱旋門賞でも際立った末脚を見せており、また遠征も2度目で前進が期待できる。

 今年も中東に日の丸が掲げられる可能性は高い。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu