一部講義内容が義務教育レベルという大学も…

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 2月19日、文部科学省は、新設大学や新たに学部を設けた大学など502校を対象とした調査の結果、改善や早急な是正を求めた253校を公表した。なかには「大学教育水準とは見受けられない授業科目がある」と指摘されている大学もある。

小中学生レベルの「大学講義」に国庫から3億円

 このなかで、特に世間の注目を浴びたのは千葉科学大学(千葉県銚子市)である。「講義内容が“be動詞”や“四捨五入”の仰天大学」としてネット上でも大いに話題を集めた。

 同大学は、日本初の危機管理学部を設置した大学として2004年4月に開学し、現在は薬学部と看護学部を加えた3学部がある。文科省より「大学教育水準とは見受けられない授業科目があることから、適切な内容に修正するか、または正規授業外でのリメディアル教育で補完すること」と早急な是正を求められたのは危機管理学部環境危機管理学科だ。

 同科のシラバス(学習計画の概要)を見ると確かに、『英語?』では「be動詞」「三単現のs」といった中学校で学ぶべき内容の授業がある。『基礎数学』はさらにレベルが低い。「百分率」や「四捨五入」などの単語に目を疑ってしまう。ちなみに百分率は小学校5年、四捨五入にいたっては小学校4年の単元だ。“数学”ではなく“算数”なのである。

 このことについて、「三単現や四捨五入を理解しないままの学生を卒業させるよりも、授業で教えたほうが世の中のためのではないか」という意見もある。たしかに、そうすることによって学生個人の能力はいくらかでも向上するだろう。しかし、国公立、私立にかかわらず、大学は、正規の授業では国が求める一定のレベルを保たなければならない。

 私立大学は国から「私立大学等経常費補助金」を交付されている。千葉科学大も例外ではなく、平成25年度に受け取ったのは約3億1600万円だ。国庫から税金が投入されている以上、基準に達していない授業は文科省が看過できなくて当然である。

少子化格差社会がレベル低下を加速させる

 一方で想像できるのは、学生のレベルに合わせたシラバスをつくらざるを得なかった大学側の事情である。

 同大における入学試験の過去問を調べてみたところ、シラバスと関連するような記述があった。2013年の数学で、金利を求める問題なのだが、但し書きとして「百分率は□.□□%の形式で答えなさい。ただし、割り切れない時は四捨五入をし、空白にせずに必要に応じて0を追加すること」と添えられている。百分率や四捨五入が理解できなければ正解できない問題なのはいうまでもない。これは一例だが、この類の入学試験を通して、学生にはごく初歩からの授業が必要との結論に達したことと思われる。

 大学のレベルにない授業を大学が行い、大学生のレベルにない学力の学生が通う。このおかしな状況をつくりだしているのは需要と供給の関係だ。大学進学率はピークである2010年の52.2%から下落傾向にあるものの、2013年も50.8%と過半数を超える。

「質は問わずにとにかく大学へ」というニーズは大きい。その受け皿となっているのは、少子化で学生の確保が困難になっている一部の大学である。少子化格差社会の本格化によって大学生の絶対数が減ると思われる今後、一部の大学のレベルの低下は止まらないだろう。

 前記したように、文科省が是正などを求めた大学は253校にのぼる。文科省のホームページで公開されている「設置計画履行状況等調査の結果等について(平成26年度)」には、教育現場の混乱や荒廃を伝える事例も散見される。

「授業科目『物理』『化学』『生物』について、大学教育水準とは見受けられない内容である」(つくば国際大学)

「調査時の質疑応答において、回答が二転三転し、事実と異なる回答がなされた」(太成学院大学)

「教学面の健全な運営がなされているとは言い難い」(宝塚大学)

「留年生が多数生じており、また、在籍学生の学年ごとの評定平均が下の学年ほど低くなっている」(宝塚医療大学)

 文科省に“問題視”された各校で発生している問題は、どれも日本社会を映していると言えるかもしれない。

(取材・文/永井孝彦)