競馬界に新怪物娘の誕生だ。牝馬で51年ぶりにGIIIきさらぎ賞を制したルージュバック(牝3)。しかし、この順風満帆に見える牝馬を取り巻く状況は‥‥。

 2月8日、京都競馬場で行われた“牡馬”クラシックの登竜門「きさらぎ賞」でみごと1番人気に応え、直線を先頭で駆け抜けたのは“牝馬”ルージュバックだった。同じ生産者のノーザンファーム出身、父ディープインパクト、母ポルトフィーノという貴公子ポルトドートウィユに2馬身差の楽勝劇。この瞬間、競馬ファンの誰もが競馬界の頂点「日本ダービー」への殴り込みを思い描いた。スポーツ紙記者も熱く語る。

「レース後、大竹正博調教師が『この先は私1人で決められないので』と言葉を濁したことで、むしろダービー挑戦の期待が膨らみましたよ」

 それもそのはず。ここまで圧勝の連続で3戦3勝だが、通常の牝馬が通る桜花賞(芝1600メートル)を狙うローテーションとは、明らかに違う過程を踏んできたからだ。記者が続ける。

「3戦とも1800メートル以上の長めの距離、しかも全て牡馬混合戦で競馬場も違う。言葉は悪いが、完全にドサ回りツアーですよ。これで桜花賞という流れは過去に例がありません」

 その背景には血統の先入観も影響しているという。

「マンハッタンカフェ産駒は、残念ながらディープ産駒のような切れ味に優れたスピードタイプには太刀打ちできないのが現状です。ですから産駒は脇役扱いが多い。良血お嬢さまと違い、牡馬とガチンコで走らされたルージュもそんな1頭だと考えられていたでしょうね」(競馬専門誌記者)

 共同馬主のキャロットファームでも、父親の成績に加えて、2頭の姉が競走馬として結果が出なかったこともあり、ルージュバックは2400万円、1口6万円という手頃な価格ながら、売れ残る寸前だったという。まさに“雑草娘”としてデビューしたわけだが、地味な道のりには他にも理由があった。美浦トレセン関係者が話す。

「ノーザンファームの有力馬は通常、東西のリーディング上位の調教師のもとに預けられる。過去に重賞1勝のみの大竹先生ではクラシック路線は厳しそうという先入観を抱かれてしまうんでしょう。しかし、先生はとても腰が低く、丁寧な仕事ぶりで知られる人格者。その先生を見習ってか、孝行娘のルージュも調教から全力疾走の素直な性格ですよ」

 こうなったらどうしても応援したくなるのが人情というものだが、どっこい、世界規模に視野を広げると、とんでもなく能力を秘めている可能性があると、ルージュの母と母父のGI勝利を生で観戦した競馬ライターの秋山響氏は話す。

「母は北米で12勝でGI6勝。ぶっちぎりの爆発力を見せたかと思えば、BCディスタフでは雨の泥んこ馬場の中、激しいマッチレースを制した。馬体を寄せられてもひるまない強さを秘めてましたね。その父は史上最強メンバーと言われたBCターフの覇者、種牡馬としても成功しました」

 そう、実は世界的に見れば、ルージュバックは才能あふれるお嬢さまということになる。では、そのベールを脱いだ今後は、順調にシンデレラストーリーを描いていけるのだろうか。

「結局、この春は異端ローテのまま、桜花賞へ直行のようです。そのあとでダービーは‥‥99%ないでしょう。キャロットファームにはシャイニングレイなど、牡馬クラシック候補が複数いる以上、彼らの種牡馬価値を下げかねないようなマネはできっこないからです」(スポーツ紙記者)

 なるほど、競馬界の“政治”にファンの思いが届かないことは確かに多いが‥‥。

「その代わり、秋の凱旋門賞挑戦がガゼン、クローズアップされてきました。斤量有利な3歳牝馬、きさらぎ賞で見せた自在な先行力。サークル内では後方待機で戦術に乏しいハープスターや切れ味身上のキズナよりも『勝つならルージュだ!』なんて声まで出てますよ」(競馬専門誌記者)

 こうなったら、ダービー制覇よりスゴい偉業を期待して、ルージュバックよ、秋まで勝ち続けてくれ!