早くもベストセラーに

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 2月20日に配本され、21日にアマゾンや楽天といったネットショップで販売されると、いきなり第1位に躍り出たのが『百田尚樹「殉愛」の真実』(宝島社)である。

『殉愛』は、「関西の視聴率男」の異名を取るやしきたかじん(家鋪隆仁)の最後の妻・さくらの2年にわたる愛に満ちた看病生活を、人気作家の百田尚樹がまとめたノンフィクション。発売は、こうしたヒット作の仕掛けに定評のある幻冬舎。いきなり32万部のべストセラーとなった。

 だが、直後から、さくらの離婚歴が取り沙汰され、一度も取材を受けていないのに悪く書かれたとして、たかじんの娘が、幻冬舎に対して出版差し止めと損害賠償を求めて訴訟を起こすなど、波乱の幕開けとなった。

「騒動」の範囲を超え、「事件」だと思わせる内容

 知名度の高いたかじん、32歳年下の美人妻、人気作家の執筆とヒット作の条件は揃っていたものの、「白」と「黒」、「善人」と「悪人」をくっきりと色分けする“売れる小説”の作法に則った百田の作品作りが、今回は失敗した。さくらの実像が次々に明かされ、百田とさくらは攻撃の矢面に立たされた。

 だが、週刊誌やネット雑誌に攻撃される昨年末までの段階では、『殉愛』騒動のレベルだった。百田にもさくらにも言い分はあり、なによりさくらはたかじんの唯一の相続人であり、権利の受取人であり、それを示唆する自筆メモや遺言書も残されていた。

『百田尚樹「殉愛」の真実』が、これまでの告発や指摘、批判をはるかに上回るのは、証拠と証言によって、数々の「さくらの嘘」を暴いていることだ。それは言い逃れができないもので、「騒動」の範囲を超えて「事件」だと思わせる。

 さくらには3度の結婚歴があるのだが、最初の夫と親族、2番の夫の英会話講師(白人)を直撃。2番目の夫は、さくらの躁鬱的な気質とカネへの執着を語り、同時並行でさくらが年配の社長と付き合っていたという衝撃の事実を明かす。その人は、『殉愛』のなかで「金持ちの伯父」として登場している。

 それだけなら「さくらの裏面」に過ぎないが、講談社ノンフィクション賞作家である角岡伸彦、西岡研介の2人を軸とする取材陣は強力である。さくらが「たかじんメモ」を偽造、それを利用して、1億円の寄付先である桃山学院高校の校長に「遺贈放棄」を迫るシーンを描いている。

 そして、こう突きつける。

 これは刑法161条の「偽造私文書等行使罪」に相当する──。

 たかじん騒動の局面は変わった。「愛の物語」が、刑事事件に発展する可能性を秘めている。

伊藤博敏ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。近著に『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館)がある