「お母さん、それやっちゃだめ!」本当は間違っている教え方

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「算数が苦手という多くの親が子供に間違った教え方をしているんですよ」と指摘するのは理数系専門塾の村上先生。間違った教え方のポイントを5つ語っていただきました。今日から算数の教え方を変えてみましょう!

「算数が得意な子は、もとから頭のできが違う」

そう思っている親は少なくありません。特に、算数や数学が苦手だった人に多いように感じます。算数はひらめきで解けるもので、ひらめくことができる子はもとから脳の作りが違うと考えているのです。

しかしそれは幻想です。算数が得意な子は、問題を解いたとき「(この問題)知っている!」と言います。決して「ひらめいた!」とは言いません。なぜなら、彼らは、基礎をしっかり身につけ、演習を多くこなす中で、いくつもの思考パターンを持っているからです。何もないところから「ひらめく」なんてことはないのです。

算数は才能ではありません。どんな子でもかならず、算数がわかります。しかし、親が間違った教え方をしているがために、子供が算数嫌いや苦手になってしまっているというケースが多く見られます。そこで、子供の算数の力を妨げる親の「やってはいけない教え方」を紹介しながら、算数を得意にする方法をお伝えしていきます。

■Case1 「単純な計算問題はやらせません」

算数の土台は計算力です。私の塾では、小学3年生の終わりまでに分数のかけ算・わり算を含め小学6年生までに習うすべての計算を教えます。そして基本的な計算問題を徹底的に繰り返しさせます。

最近は、論理力や応用力などを重視する風潮があるためか、単純な計算問題に取り組むことを軽視している親が多いです。計算力は算数を解くときの“体力”のようなもの。スポーツをする際、いくらテクニックを磨いても、体力がなければうまくはいかないことと同じです。

「自分が子供の頃、計算はあまりやっていなかったからさせる必要はない」という親もいます。しかし、30〜40代の親が子供だった頃に比べて、今は小学校での演習量が減っており足りていません。家庭で計算練習をさせることは今の子供には欠かせないものなのです。

家庭で計算力をつけることは難しいことではありません。私の塾で使っている計算問題は市販の計算ドリルと同じものです。どれでもいいですので、1冊買って毎日1ページずつやらせてください。時間は気にしないでください。ノートは使わず、ドリルに直接書き込ませましょう。ノートに書くのは子供にとって「面倒くさい」こと。子供たちの取り組みへの障壁はできるだけ減らしてあげて計算に集中させましょう。

子供が解き終えたら、必ず親がマルつけをしましょう。そして、間違えた場合は、もう一度解き直させて、再度マルつけをする。これを毎日繰り返してください。

なぜ子供にマルつけを任せないか。子供は、親にいいところを見せたいという思いやプライドから採点が甘くなりがちです。正確に解く習慣をつけるためにも、間違えた問題の解き直しは重要で、厳しく採点するべきです。

マルつけの際は、景気よく大きな丸をつけてあげてください。それが子供の勉強へのモチベーションになります。

計算問題に取り組むことは、毎日勉強するという習慣づけの訓練になります。ほかにも、毎日続けることで、根気と集中力が身につきます。また、計算が正確かつ速くなるため、算数にかける勉強時間を圧縮でき、別の教科に時間がさけるようになります。

毎日続けるのは難しいことです。子供が嫌がったら、親もくじけてしまうでしょう。しかしそれこそがチャンス。辛くても苦しくても、我慢してやり遂げるという経験になります。ときにはごほうびを与えながらでも、継続する習慣を大切にしてください。1年生から毎日1枚計算ドリルをしていたら3年間で相当な力になります。

小学3年生以降になったら遅いかといえば、そんなことはありません。今日から始めれば確実に数カ月後、1年後には力がついています。

■Case2 「同じミスをするので叱っています」

正解した解答というのは、どの子もほぼ同じ解き方です。そこに個性はありません。しかし、間違えた解答には、その子らしさが出てきます。

例えば、いつも7×6を48と計算してしまうなど、その子なりの癖があるので、間違えたことに対して叱っても萎縮して苦手意識が募るだけ。逆効果です。それよりも、その個性から根源的な原因をつきとめてあげることが大事です。

そのためにまずは、間違えた問題の横にかならず、理由を書いておいてください。例えば、「7×6の計算間違え」など。小6くらいになれば自分でできますが、それまでは親が書いてあげるといいですね。それが20問、30問とたまってくると、どんな理由で間違えているのかがわかり、8割ほどは同じ理由で間違えていることに気づくと思います。

その根源的理由を洗い出し、気をつけていくように促してあげると、次第に苦手なポイントが消えていきます。

■Case3 「小3で『つるかめ算』を教えています」

つるかめ算は中学受験の典型的な問題で、特殊算といわれるものの一つです。中学受験を少しでも有利に進めたいと、先取りして勉強させる親がいますが、つるかめ算のような文章題を小3で解かせるのは危険です。小3はまだ文章の読解力が育っていない時期。長めの文章題を解かせようとすると、問題文の内容を理解せずに、出てくる数字をいじって答えを出したり、解法を丸暗記したりするよくない癖がついてしまいます。

中学で習う方程式や三平方の定理などを小学生に教えるなど、先取りさせたがる親もいます。しかし、それもかえって算数を不得意にさせてしまうことにつながります。計算の先取りはよいのですが、子供の発達段階に合わない先取り学習はよくありません。

ちなみに方程式や三平方の定理は、数学を解くうえでの“便利な道具”です。便利な道具を早くから与えてしまうと、自分で工夫する習慣が身につかなくなってしまいます。

算数では制限された道具しかないため、解くには工夫が必要です。だから、賢くなるのです。中学受験の算数はその最たるもの。少ない道具でどこまで考えられるかを問われます。

また、算数が好きになり、自発的に取り組もうとする原動力は、試行錯誤の末に答えにたどり着いたときの感動です。“便利な道具”はその感動も奪ってしまいます。

私の塾の授業では、小3までは文章題はやらず、その代わり算数パズルをしています。ここでいう算数パズルとは、数字を組み合わせたり計算したりして解くパズルのことです。算数では、「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤しながら、答えにたどり着く力が必要です。算数パズルには試行錯誤がたくさん詰まっています。書いては消し、書いては消しの連続で、自ら手を動かさなければ答えにたどり着かないところがとてもいいのです。

試行錯誤という意味では、工作もいいです。自分が作りたい物に向かってプランを立て、完成させるために試してはやり直す。その過程が算数の力も伸ばすのです。

■Case4 「ひっ算をきちんと書かせています」

「間違えてもいいから、どんどん暗算で計算しなさい」と指導しています。

暗算しなさいという理由は、ひっ算で解くよりも賢くなるからです。算数は難しい問題の解き方を覚えるものではなく、頭をよくするためのトレーニングだと思っています。だから算数の問題を解くときにはできるだけ頭を使う方法で行うほうが、より賢くなれるのです。

ひっ算では紙に書くことを、暗算では、すべて頭の中だけで行うことになります。繰り上がりや計算途中の数字もすべて頭の中で一時記憶しながら、最後まで計算しなくてはならないので、頭のトレーニングになるのです。

算数がすごく苦手な子の場合、最初はたし算やひき算の暗算から始めましょう。その場合もその後2ケタ×1ケタのかけ算やわり算を暗算でできるようになってほしいです。

ひっ算だけではなく、文章題の場合も途中の式をできるだけ省略することをおすすめします。途中の式を書かないことで、先に計算した数字を一時的に頭の中に覚えておきながら、別のことを考えるという頭の使い方にも慣れてきます。解いた形跡を残すのは、何問かに1問で十分です。大切なのは、頭の処理能力を上げ、賢くなることです。

それに子供が字を書くスピードは速くありません。思考のスピードのほうが速いのです。ひっ算や式をきちんと書かせていると、書くスピードでしか思考ができなくなります。

文章題を暗算で解いている子の親に「うちの子、また計算ミスしたんです!」と言われたら、私は「計算ミスはあまり気にしないでください。考え方が合っていれば大丈夫です」と伝えています。中学受験を間近に控えた小6ならミスをしないようにするのは当たり前ですが、小4まではミスを恐れず、どんどん暗算させてください。

■Case5 「図形は丁寧に、定規を使ってかかせています」

図形をノートにかくときは、できるだけ定規を使わずフリーハンドでかくようにさせてください。

小3くらいまでは、定規を使わずに図形をかくのは子供にとって難しいことかもしれませんが、小4になれば定規は使わないほうがいいです。定規を使うと、かく途中で図形の一部が定規に隠れてしまい、図形全体を把握しながらかくことができません。

図形問題が得意になるためには、頭の中に形をきちんと思い浮かべられることが大事です。そして思い浮かべられる図形をたくさんストックすることで図形センスが身につきます。頭の中のストックを使って、ノートにフリーハンドで図をかけるようになれば、図形センスがついた証拠。そのためには練習が必要です。

最初のうちは線が曲がって図がゆがんでも大丈夫。だんだん上手にかけるようになっていきます。

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村上綾一(理数系専門塾エルカミノ代表)
東京に7教室ある、理数系専門塾エルカミノ代表。大手進学塾の指導経験を経て、小学生から高校生までを対象にしたエルカミノを設立。東大や御三家中合格者、数学・算数オリンピック出場者を送り出している。著作に『自分から勉強する子が育つお母さんの習慣』(ダイヤモンド社)、パズル問題集『面積迷路』(学研)などがある。

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(太田あや=構成 早川智哉=ドリル撮影 教える人:村上綾一(理数系専門塾エルカミノ代表))