競馬の世界における季節の経過は早い。つい先日、有馬記念でジェンティルドンナが感動のラストランを見せたばかりだというのに、もう、今年最初の中央競馬のGIフェブラリーS(東京・ダート1600m)を迎える。

 中心と目されるのは、昨年はこのレースを含めてGI級を3勝したコパノリッキー(牡5、村山明厩舎)だ。初GIタイトルとなった昨年のフェブラリーSでは、単勝万馬券という低評価を覆(くつがえ)して、ベルシャザール、ホッコータルマエの2強を下した。その後も、かしわ記念を強い内容で制して、フェブラリーSでの激走がフロックでないことを示したどころか、ホッコータルマエが復活するまでは、昨年のダート戦線を主役として牽引し続けた。他にGI級レースの勝ち馬が7頭いるが、それらを相手にしても頭ひとつ以上抜けた感が強い。

 GIチャンピオンズカップ(12着、中京・ダート1800m),GI東京大賞典(2着、大井・ダート2000m)は不完全燃焼に終わったが、前走の東海S(中京)ではこの馬の持ち味であるパワフルな先行力と、最後まで衰えないスピードを如何なく発揮して、再び上昇気配に乗り直してみせた。1900mの東海Sや、2000mのJBCクラシックを圧勝しているが、スピードを活かしたレースぶりからは1600mが適距離と考えられる。加えて、前々走までコンビを組んでいた田辺裕信騎手が、「右回りは少し外に張り気味になるところがあるので、現状では左回りの方がしっかりとパフォーマンスを発揮して走れる」とコメントしているように、まさに東京の1600mは、ベストの舞台といえるだろう。

 また、父ゴールドアリュールは03年にこのレースを制しているほか、過去5年で産駒が2勝2着2回と好成績を収めている。加えてコパノリッキーの場合は、母の父ティンバーカントリーが04年のこのレースの勝ち馬アドマイヤドンの父でもある。血統的な背景の後押しも大きい。

 こうした要素から、人気面では断然と思われているコパノリッキーだが、決して不安要素がないわけではない。

 ひとつは、チャンピオンズカップがそうであったように、この馬が「まったく走らない」タイミングが、いつどこで顔を出すかが判らないという点だ。確かに、あのレースではスタートで立ち遅れたという理由もあったが、中団から差すレースで勝ったこともあるこの馬としては、それだけが理由とは考えにくい。コースや距離に理由を求めようにも、同じコースで同じ距離の前走の圧勝ぶりから、それも該当しない。ペースが落ち着きすぎたとも考えられるが、レース後の田辺騎手が発した「全然(前に)行こうともしなかった」というコメントから、どちらかといえば気分的な要素のようにも考えられる。

 もうひとつは、実力は認められるものの、勝ったGIはそれぞれに恵まれた面もあったのではないかという点だ。昨年のフェブラリーSではホッコータルマエとベルシャザールに人気が集中したところで、出し抜けを食らわせたようなものだった。かしわ記念は、今ふり返ればメンバーにも恵まれており、圧勝したJBCもホッコータルマエが、まだ良化途上で、スピードを活かしやすい馬場も、コパノリッキーに有利に働いた。今回は当然マークもきつくなる。

 それを示すように、数人のトラックマンからはこのような声も聞こえている。「絶好調時のホッコータルマエほどに手がつけられないような相手、とは他のどの陣営も思ってはいないようです。それぞれに秘策を持っているようですよ」

 中でも一発の魅力を秘めるのが、明け4歳勢だ。同じ舞台のユニコーンSの勝ち馬レッドアルヴィス(牡4、安田隆行厩舎)は、休み明けの武蔵野Sこそ伸びあぐねて6着に敗れたが、前走のオープン特別すばるS(京都・ダート1400m)では1番人気にあっさりと応えた。

 父はコパノリッキーと同じゴールドアリュールで、半兄にNHKマイルCの勝ち馬カレンブラックヒルがいるという良血。脚質面も先行して抜け出すスタイルでコパノリッキーと似ており、コパノリッキーが少しでも仕掛けを待つようなところがあれば、昨年のコパノリッキーのように出し抜けを食らわせることが期待できる。

 カゼノコ(牡4、野中賢二厩舎)は、昨年のジャパンダートダービーを制した馬で、昨秋の復帰後はもどかしいレースぶりが続いていたが、前走の川崎記念ではホッコータルマエに3/4馬身差まで迫った。もともとゴール前の斬れ味を身上としていたが、前走はまくるように動いて行って好結果に繋げた。

「だいぶイメージに近づいてきた。次は距離短縮だけど東京コースなら面白いと思いますよ。試金石ですね」。指定交流GI川崎記念(川崎・ダート2100m)のレース後の野中調教師の言葉からも、距離が人気の盲点になるようなら、楽しみは大きい。父は02年にこのレースを制したアグネスデジタル、母はカブトヤマ記念(福島・芝1800m)を勝ったタフネススター。カゼノコ自身の良績は1800〜2000mだが、むしろ距離短縮は妙味とも言える。

 展開のカギを握りそうなのが、前走のオープン特別ファイナルS(阪神・ダート1400m)を勝ったコーリンベリー(牝4、柴田政見厩舎)。前走は積極的にハナを主張しながら、後半の600mもメンバー中最速でまとめる圧巻の競馬を見せた。当然今回も逃げることが予想される。父はサウスヴィグラス、母もやや短距離指向という血統面はマイナスだが、とにかく行きればしぶといだけに、コパノリッキーとしては早めに潰したい。しかし、早めに動けばそれだけ後続の的にされやすくなるのは、悩ましいところだろう。

 もう1頭、地方大井から参戦するハッピースプリント(牡4、森下淳平厩舎)も要注目だ。北海道所属だった2歳時に統一GIの全日本2歳優駿を勝利し、大井に移籍した3歳シーズンは羽田盃、東京ダービーと南関東二冠を楽々と制した。迎えたジャパンダートダービーでは、ゴール寸前でカゼノコの強襲に屈したが、その後も東京大賞典、川崎記念と強敵相手にともに4着と実力を示している。

 むしろ3歳以降の成績は、決して適距離ではない中でのもので、全日本2歳優駿が同じ左回りの1600m、父がサンデーサイレンスの仔アッミラーレということを加味すると、東京の1600mは好材料といえる。自在性のある脚質ももちろん、何より魅力的なのは、鞍上が金沢の若武者・吉原寛人騎手という点だ。古くはデビュー年にトゥインチアズとのコンビで中央競馬に挑戦し好成績を残し、地方競馬代表として臨んだ一昨年のワールドスーパージョッキーでは、世界の名手を向こうに、いきなり2連勝を飾った。昨年のJBCスプリントでもサトノタイガー(牡7、小久保智厩舎)で、あわやというシーンを作っている。中央のGIでも気後れはない。1999年メイセイオペラがこのレースを勝って以来の地方勢による中央GI勝利を狙っている。

 ここで4歳勢が上位を占めるようなら、一気に世代交代が進むかもしれない。ホッコータルマエほか、有力馬が回避したのは残念だが、今後のダート界を占う意味でも、見逃せない一戦だ。

土屋真光●取材・文 text by Tsuchiya Masamitsu