自衛隊員といっても28万人もいるわけで……

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 インターネット上に掲載されていた記事を転載したり、拡散させた者も法的責任を負う──。

 2013年9月、東京高裁は「ヤフー知恵袋」に書き込まれた中傷記事を2ちゃんねるに「転載した者」の発信者情報開示を求めた裁判で、こう述べた。「転載により情報を拡散させ、社会的評価をさらに低下させた」と認定し、プロバイダー側に発信者情報開示を求める判決を下した。

 これにより、インターネット上ではたとえ自分の意見ではなくともネット上に掲載されている書き込みを「転載」し「拡散」させた場合も法的責任を負うことが明白となった。

 ネット問題に詳しい弁護士によると、2ちゃんねるへのコピー&ペーストやTwitterのリツイートでも、「インターネットという広いメディアに自分の責任で掲載した」わけだからその法的責任は転載・拡散させたユーザー自身が負わなければならないという。

 2014年、タレントのエド・はるみさんが亡くなったというデマがTwitter上で流された事件もあった。これも各種報道によると、デマとなる画像をツイートしたユーザーは、「画像は転載しただけ」だと弁明したが、これをもって責任なしとは認められなかったようだ。Twitter上での「画像転載はもちろん、画像転載されたリツイートしただけでも名誉毀損になり、その責任を負う」(前出の弁護士)というのが今のネット社会のスタンダードなのだ。

防衛省が問題視した現役2尉のリツイート

 さて、2014年秋、防衛省本省と海上自衛隊である幹部海上自衛官のリツイートが問題視された(リツイートしたのは2012年でかなりの時間が経過していた)。

「韓国は日本の領土」

 こうリツイートしたのは海上自衛隊所属の2等海尉だ。この2尉は2006年、都内にある理系の国立大学在学中にその優秀な頭脳が認められ「自衛隊貸費学生」に採用。“みなし公務員”として防衛省・自衛隊から給与を貰いながら同大学、同大学院を修了後、2010年海上自衛隊幹部候補生学校に入校。卒業時には卒業生を代表して「国民の負託に応えます」と宣誓した理系畑のエリート幹部自衛官である。



 この2尉のTwitter上での発言やリツイートが防衛省倫理審査会並びに海上幕僚監察部補任課で問題視され、内部調査が行なわれた。先述の「韓国は日本の領土」リツイートの他にも、「???ジエータイの人って戦争したくてしょうがないんでしょ? 僕、定時で帰りたい」など問題となった発言は多数あったという。この2尉は、横須賀基地内の様子や、JAXA宇宙研究所内、自身のゴスロリ女装姿の写真をFacebook上にアップしていた。

防衛省回答「リツイートでも本人に注意喚起」

 幹部(将校)、曹士(下士官)問わず、現在、自衛隊では「自衛官がその身分を標榜して外部に意見発信する場合、上司の許可を得なければならない」(陸・海・空各幕僚監部広報室)という。2尉のこれら発言は、はたして上官、すなわち自衛隊側の許可を得たものなのだろうか。

 これについて防衛省倫理審査会から次のような回答を得た。

<該当自衛官以外の者が行った「韓国は日本の領土」という発言のリツイートについては、該当自衛官がただ印象に残ったとの理由によりリツイートした事実は確認されました。この行為に関しては公務員としての職務の公平性等に疑惑や不信を招く恐れのある行為であることから、本人に対し注意喚起を行っております>

 リツイートでも「本人が拡散させた」ことから注意喚起するというのが防衛省の見解だ。

 その他の発言については、海自によると「現在、隊員の規律違反を取り締まるセクションである海幕補任課服務室が処分性の有無について調査に当たっている」という。現在、この2尉が所属する部隊では上司が、「相当、厳しく指導」(防衛省)しており、結果、問題となったTwtter並びにFacebookは閉鎖されている。なお、これら閉鎖されたSNSアカウントは上司の許可なく行なわれていたもの」(海幕関係者)だという。

 なお、ゴスロリ女装姿のFacebook上のアップについて2尉は調査に対し、「学生時代に撮影した写真だ」と回答したというが、これも“みなし公務員”時代であれば、「品位保持義務違反」の観点からの問題を含めて慎重に調査されていると海幕関係者からの取材で今回明らかになった。

女装写真については現状で処分のしようがない

 海自内では今、この2尉への対応に大変、苦慮しているという。女装姿写真について処分も注意もできない可能性が高いからだ。「品位保持義務違反ではなければ自衛官が今後女装姿をネット上に晒すことがOKと理解されるのが怖い」(海幕関係者)ことに尽きる。

 防衛省関係者は、「防衛省・自衛隊への理解が深まりつつあるなか、SNS上で著名になる自衛官もいると聞く。自衛官のみならず公務員が各種メディアに出てもてはやされることを喜ぶようでは困る」と苦言を呈す。

 前出の海幕関係者は、SNS上で注目を集めつつあ一部の現役自衛官たちに対し、「防衛大学校第1回卒業式で吉田茂元首相が卒業生に餞として送った言葉の意味を今一度考えてもらいたい」と言う。

<自衛隊が国民から歓迎されちやほやされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡の時とか、災害派遣の時とか、国民が困窮し国家が混乱に直面している時だけなのだ。言葉を換えれば、君達が日陰者である時のほうが、国民や日本は幸せなのだ。どうか、耐えてもらいたい>

 この吉田茂の言葉が「自衛官とネット社会」の関係に問いかける意味は大きい。

(取材・文/鮎川麻里子)