『パカパカファーム』成功の舞台裏
連載●第45回

2012年にダービー馬ディープブリランテを輩出し、その後もクラリティスカイ(牡3歳)などの活躍馬を世に送り出しているパカパカファーム。代表のハリー・スウィーニィ氏は、牧場の今後を考えるとともに、日本競馬の未来についても、いろいろと思いを巡らせているという。そこで今回からは、日本競馬のさらなる発展を望む、スウィーニィ氏からの提言を綴っていく――。

 1990年に初めて来日し、それから20年以上に渡って日本競馬と向き合ってきたハリー・スウィーニィ氏。来日したばかりの頃は、日本の馬が世界のレースに出る機会はほとんどなく、「日本の競馬について、何も知らなかった」という。しかしそれから彼は、日本競馬の"劇的な成長"を目の当たりにしてきた。スウィーニィ氏が、その変化を口にする。

「(私が来日して)この25年で、世界における日本競馬のイメージはとてもよくなりました。凱旋門賞では毎年のように有力馬を送り込んでいますし、香港やドバイ、オーストラリアやシンガポールなど、いろいろな国のGIで日本の馬が活躍しています。今では、世界中の人が『日本の馬は強い』と思っているのですから、これは素晴らしいことです」

 海外のビッグレースにおける日本調教馬の活躍はもちろん、近年はヨーロッパのトップジョッキーが短期免許を取得して日本のレースに参戦したり、あるいは、サンデーサイレンスを中心に日本で繁栄している血統が世界的に注目されたりと、世界における日本競馬の地位は飛躍的に向上した。スウィーニィ氏は、まさにその変革期を日本で過ごしてきたと言える。

 それほどの成長を見せた日本競馬だが、スウィーニィ氏は「これからすべきことがまだまだある」と語る。

「海外での日本競馬のステータスは一気に上がりましたが、今後大切になるのは、日本国内における競馬や馬主のステータスをもっとあげること。例えばヨーロッパでは、競馬や馬主はとてもステータスが高いんです。英国では、エリザベス女王をはじめ、サッカーの名門マンチェスター・ユナイテッドの元監督であるアレックス・ファーガソン、あるいは元イングランド代表選手のマイケル・オーウェンなどが馬主をしています。そして彼らは、競馬への関心が深く、自ら競走馬を所有することに誇りを持っています。そういう彼らを、世間の人たちも"セレブ"として認めています。日本ではそこまで、競馬や馬主のステータスは高くないですよね。今後は、そこに力を注がなければなりません」

 ヨーロッパの競馬は、もともと貴族の娯楽として発展してきた背景がある。そのため、競馬や馬主のステータスは非常に高く、競馬場に集うファンの姿を見ても、タキシードやハットなどのハイファッションに身を包んだ人々が多く見られる。競馬そのもののステータスが日本より高いのは明らかで、スウィーニィ氏は「その差を少しでも小さくすべき」と指摘している。

 スウィーニィ氏が、競馬や馬主のステータス向上を願うのは、日本社会特有の、競馬を"賭け事"ととらえているムードをできる限り払拭したい、という思いがまずある。さらに、競馬や馬主のステータスが上がれば、競馬への関心が一層高まり、競馬の根本を支える馬主になりたいという人も増えてくるのではないか、という思惑がある。

 では、どのようにして馬主のステータスを上げ、馬主になりたい人を増やすべきなのか。その方法として、スウィーニィ氏はあるアイデアを提案する。

「現在日本では、GIレースにならないと、馬主や関係者がレース前のパドックに入ることはできません。でも日本の競馬場は、どこもパドックが広いのですから、GI以外のレースでも馬主や関係者が入れるようにすればいいと思うんです。そうすれば、馬主は家族や友人、恋人などをいつでも連れてこられますから、自分の馬を紹介しやすくなるでしょう。こういったことが、馬主にとって『馬を持つ誇り』につながると思うんです」

 レース前のパドックには、GIレースに限り、馬主や関係者の入場が許されている。そこでは記念撮影をする姿を見かけることも多いが、GIレースだけだと一部の人間に限られてしまう。しかし、もしGI以外のレースでもそうしたことが行なえるようになれば、多くの馬主に楽しみや優越感を与えることができ、馬主の存在やその価値も上がるのではないか、とスウィーニィ氏は考えている。

「アイデアは他にもあります。毎年、JRAでは馬主のランキングが発表されていますが、これをもっとアレンジして、個人馬主部門や新人馬主部門などを作るのはどうでしょうか。そうすれば、もっといろいろな人が脚光を浴びるはずです。そのうえで、そういった人たちを表彰する機会を作ることも、馬主のステータス向上につながるかもしれません」

 競走馬やジョッキー、調教師に比べて、その馬のオーナーが脚光を浴びることは決して多くない。しかし、彼らがスポットライトを浴びる機会を増やさないと、馬主に憧れを持つ人は増えてこないと、スウィーニィ氏は言う。

「同様に、オーナーになることの魅力をPRすることも大切。例えば、2009年の日本ダービーを制したロジユニヴァースの馬主さんは、同馬が馬主になって最初にデビューした馬でした。自分の馬でダービーを勝つだけでもすごいことなのに、最初のデビュー馬がダービーを獲るなんて、ちょっと夢のような話。JRAはそういうサクセスストーリーやエピソードを、もっと大々的に紹介すべきではないでしょうか。そうすれば、馬主の存在価値も上がって、馬主に対する一般的な興味も高まっていくと思うんですけどね」

 競馬ファンを増やすためのプロモーションは多数あるものの、新たな馬主を増やすための取り組みはあまり多くないのが現状。その中で今後は、「もっと馬主という存在にスポットライトを当てるべき」というのが、スウィーニィ氏の提案だ。

「プロモーションだけでなく、馬主の人たちをサポートする仕組みも必要。例えば、馬の見方や競走馬を買ううえでの注意点などを教える機会があればいいかもしれません。今は調教師に任せている方が多いですが、自分の目で探せれば、オーナー自身も楽しいはず。生産牧場として、私たちもそういった試みができないものか、考えていきたいと思っています」

 日本競馬がより発展するためには、まずは競馬や馬主のステータス向上が不可欠だという、スウィーニィ氏。次回も、「まだまだ他にもやるべきことがある」というスウィーニィ氏の日本競馬に対する提言をお伝えしていく。

(つづく)

ハリー・スウィーニィ
1961年、アイルランド生まれ。獣医師としてヨーロッパの牧場や厩舎で働くと、1990年に来日。『大樹ファーム』の場長、『待兼牧場』の総支配人を歴任。その後、2001年に『パカパカファーム』を設立。2012年には生産馬のディープブリランテが日本ダービーを制した。

河合力●文 text by Kawai Chikara