マル暴とヤクザの知られざる関係とは(写真はイメージです)

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 日々のニュースをみていると、「暴力団」という言葉を目にするが少なくない。この暴力団の取り締まりに当たっているのが、警察内部で「マル暴」と呼ばれる暴力団担当の部署だ。東京の警視庁をはじめ、各道府県では捜査4課、もしくは組織犯罪対策課といった名称の部署がそれに当たる。

 マル暴刑事は、「紙一重の差で暴力団に入り損なった者たちの集まり」(元兵庫県警巡査部長)、「最強の警察官」(兵庫県警巡査)と、警察内部でも一目置かれる存在だ。そんなマル暴刑事の実態を追った。

マル暴は警察という代紋を背負ったヤクザ

 マル暴畑が長かったという元兵庫県警警察官は、マル暴の実態を、「警察という代紋を背負ったヤクザ」だとその実態を明かす。

「ヤクザが守るのは杯を交わした親分や。わしらは警察と杯交わした公務員や。その違いや。警察官の制服は着とるが、根がヤクザでなければマル暴なんて勤まらんよ」(元兵庫県警警察官)

 この元兵庫県警警察官がマル暴刑事になった頃、縦の繋がりを重視する警察にあって情報源である暴力団との関係性の秘匿から、ベテランが新人に仕事を教えることはほとんどなかった。新人は自分の手で暴力団に繋がる情報源を見つけ出さなければならない。

「日々、歓楽街に出向いては暴力団に繋がる者とも親しくなった。まだ杯も貰っていないようなチンピラのひとりと仲良くなった。目指す道は違えども“男”になりたいという志は同じやったから気が合ったもんや」(同)

 親しくなったチンピラが杯を貰っていっぱしのヤクザになった頃、この元兵庫県警警察官もまたマル暴刑事としては1人前と認められるようになった。

「ある日のガサ入れ(家宅捜査)ではヤツ(情報源としていたヤクザ)と鉢合わせになった。思わず、『おらぁ! おどれ何さらしとんじゃ』と大声出してボコボコにしたったわ。そうしとかんとヤツが警察にチンコロ(密告)しているという疑いをかけられとったという話を別のヤクザから耳にしたからのぉ。テレビ局の取材も来とったし、派手にやったった。まあパフォーマンスやな」(同)

テレビの前でヤクザをしばきまわしたのはパフォーマンス

 この元兵庫県警警察官によると、暴力団のガサ入れ時、新聞社やテレビ局が来ている際、警察官が大声を出し、ヤクザを締め上げるのは、ひとえに暴力団向けのパフォーマンスだという。

「俺が、ボコボコにしばきまわしたのもテレビの前でやったった。ヤツが俺にチンコロしたゆうのんを打ち消すパフォーマンスであると同時、矛盾しとるけどヤクザ連中に向かって『こいつのバックは俺や』ゆうことを示す目的もあったんや。そしたらそう簡単には組のなかでもやられることはない。俺の情報源は、歩く道は違ってもいつまでも同志や。やっぱり畳の上で死んで貰いたいからの」(同)

 だ がこうした警察官とヤクザとの志を超えた繋がりは、暴力団対策法の施行以降はほとんど皆無だという。

「新聞見ても暴力団絡みの記事が増えてるのは逆説的に暴力団の力が弱くなったからとわしは思う。今日明日には無理かもしれん。それでも日一日ごとに暴力団は壊滅に向かっているのは確かや」(同)

 暴対法により地下に潜ったといわれる暴力団。真の暴力団壊滅はこの地下に潜ったそれを壊滅させてはじめて成し得るものである。一日も早くその日が来るために今日もマル暴刑事たちは体を張ってわたしたち市民の安全を守っている。

(取材・文/秋山謙一郎)