年末年始の過ごし方が次期選挙の結果を左右する

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【朝倉秀雄の永田町炎上】

年末年始は地盤培養の絶好のチャンス

 国会議員という人種は、総理や重要閣僚歴任者、派閥の領袖のように抜群の知名度と強固な地盤を持つ者や、小泉進次郎氏のように絶大な国民的人気を誇り、大して選挙運動をしなくともたやすく当選できてしまう者を除き、常に時期選挙での落選の恐怖に怯えている。

 特に、後援会組織の脆弱な一回性や二回生の、いわゆる「陣笠議員」には焦燥感が強い。これまで順調に当選を重ね、副大臣や委員長を務めた中堅議員といえど、油断できない。

 何か不始末をしでかせば、すかさず票が逃げてゆくからだ。

 去る12月に行われた総選挙では、父親から受け継いた強固な地盤を持つ渡辺喜美でさえ有権者から愛想を尽かされてしまった。かつては「渡辺王国」などと呼ばれ、刑事被告人の身でありながら選挙では負け知らずであった田中角栄元総理や中村喜四郎元建設大臣に匹敵するほどの強固な後援会組織があるにもかかわらず落選の憂き目を見るのだから、恐ろしい世界だ。

 もとより国会議員の本来の仕事は、国政に参加し、法案や予算案の真偽に参加することなのだが、そんなことよりも、次期選挙での当選を目指して1年中でも地元まわりをしていたいというのが多くの議員たちの本音だ。

 そんな議員たちにとって、年末年始は地盤を培養し、後援会組織を引き締め、新たな票の掘り起こしをする絶好の機会となる。だから秋の臨時国会が(今回のように年末に衆議院の総選挙があれば、選挙後に召集される特別国会が)終わるや否や、議員たちは先を争うように地元に取って返す。

 選挙巧者の小沢一郎などは、「選挙はどれだけ多くの人と握手をし、頭を下げたかで結果が決まる」と嘯くが、年末年始の過ごし方によって将来の議員生活が決まると言っても過言ではない。

国会議員は年賀状にも厳しい制約がある

 年末年始の恒例といえば年賀状だが、議員には一般人とは違い、厳しい制約があるから要注意だ。公職選挙法は、自分の選挙区の有権者に対しては「答礼のための直筆によるもの以外は出せない」としているから、奥さんに代筆させたり、印刷したものを出したりすれば法律違反に問われることになる。

 もっとも、そんな法律は誰も守る気がないから、印刷したものを宛名だけ秘書が代筆して堂々と送りつけるのが実情だ。

 また、国会議員は名目を問わず、自分の選挙区内で金や有価物を配ることは公職選挙法で厳しく禁止されている。しかし、物をもらって嬉しくない者はおらず、事実、絶大な集票効果を生むから、「法律なんかクソ食らえ」とばかりに公然と行なっているのもまた実情である。

 お歳暮はまず、同じ党の議員同士で配り合う。暮れが近づくと、秘書が台車を押しながら議員会館の同僚の部屋に持ってゆく光景が見受けられる。もっとも、議員はだいたいケチだから、さほど値段の張るものは選ばない。たいていはその議員の選挙区の名産品だ。例えば茨城なら干し芋、大分ならカボス、徳島ならスダチ、宮崎なら椎茸といった類である。

 いずれにせよ、自民党だけで400名以上の議員がいて、そんなものをもらっても持て余すことも多い。どうするのかというと、“業者”に引き取らせて金に換えてしまう議員もいる。そういった品を引き取る専門の業者が存在するのだ。もっとも、いくら議員同士送り合っても票にはならないから、あくまでも儀礼にしか過ぎない。

 そんなわけで、やはり本命は後援会幹部や有力な支持者に対するものということになる。

 これは、配り方の工夫ひとつで集票効果が違ってくる。なかには郵送で済ませてしまう者もいるが、筆者が仕えた選挙巧者のI議員などは実に巧妙で、秘書にお歳暮を山積みしたトラックを運転させ、自分はその後を車でついていき、秘書が相手にお歳暮を手渡した頃を見計らって、相手の家のドアをノックする。物が届いた直後に代議士本人が登場するのだから、相手は感激する。

 単純な話だが、衆愚政治が蔓延した日本では、これが絶大な集票効果をもたらす。実際、I議員は、選挙違反で捕まるまでは選挙には抜群の強さを発揮していた。

新年会や忘年会は「会費」を払えば法律違反

 年末年始になると、選挙区内のそこらじゅうで忘年会や新年会が開催される。主催するほうは気を遣い、国会議員には必ず「来賓」として招待状を送るから、議員たちは秘書や奥さんと手分けして片っ端から会場をハシゴ。愛想を振りまき、酒を注いで回ることになる。

 そこで問題になるのが「会費」だ。国会議員の選挙区内での寄付の禁止は、当然ながらこういった会合の会費にまで及ぶから、下手に払うと法律違反に問われる。合法と違法の線引きは難しいが、選挙管理委員会の指導では「額の定まっていない会費相当分を持参すれば違法」「あらかじめ実費を請求してもらい、適性な実費分を持ってゆく分には合法」「『寸志』や『お祝い』はいかなる意味でも違法」という扱いにしているようだ。

 もっとも、たとえ法律の建前はそうでも、実際問題として会費を持っていかず「タダ飲みタダ食い」などすれば必ず顰蹙を買い、「あの代議士はケチだ」と陰口を叩かれかねない。

 筆者の友人で、吝嗇な女房に財布の紐を握られていた某代議士などは、忘年会や新年会に会費を払わない「無銭飲食の常習者」であったから、秘書がさんざん嫌味を言われ、平身低頭謝罪して歩いていたくらいだ。

朝倉秀雄(あさくらひでお)ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。