有馬記念「フィナーレを彩る」実力馬(4)
【伏兵馬編】

 競馬界にとって1年の総決算となる、GI有馬記念(12月28日/中山・芝2500m)。今年は「ドリームレース」と呼ぶにふさわしい、豪華なメンバーがそろった。

 前走のGIジャパンカップ(11月30日/東京・芝2400m)を制したエピファネイア(牡4歳)を筆頭に、同レースで2着となった世界ランキング1位のジャスタウェイ(牡5歳)、GI6勝の実績を持つジェンティルドンナ(牝5歳)、有馬記念2勝目を狙うゴールドシップ(牡5歳)など、いずれもGIタイトルを複数持つ"猛者"たちばかりである。

 その他にも、今年の日本ダービー(6月1日/東京・芝2400m)を制したワンアンドオンリー(牡3歳)や、GI天皇賞・春(京都・芝3200m)を連覇しているフェノーメノ(牡5歳)、マイルGI馬のトーセンラー(牡6歳)と、実績馬を挙げればキリがない。出走馬16頭のうち、なんと10頭がGI馬というハイレベルな陣容になった。

 そんなレースだからこそ、実力馬の攻防を堪能したい気持ちはあるが、年末最後の「ドリームレース」である。やはり「穴馬券」に夢をかけたい人もいるはずだ。

 有馬記念の歴史を振り返っても、伏兵馬が"まさか"の波乱を起こした年がある。2007年には、9番人気のマツリダゴッホがウオッカやメイショウサムソンなどの人気馬をなで斬り。1991年には、14番人気のダイユウサクが断然人気のメジロマックイーンを破って金星を挙げた。まさに何が起こるかわからないのが競馬である。豪華メンバーがそろう一戦であっても、あえて実績の劣る馬たちから波乱の立役者を探してみてもよいのではないだろうか。

 そこで今年、まず注目したいのが、ラストインパクト(牡4歳)だ。

 ラストインパクトは、京都大賞典(10月14日/京都・芝2400m)、金鯱賞(12月6日/中京・芝2000m)と、重賞を連勝している好調馬。GIのタイトルこそ持っていないものの、今の成長ぶりなら、一気にGIの"壁"を破ってもおかしくない。

 さらに、強調すべきは、同馬の"臨戦過程"。近年、金鯱賞から有馬記念に臨んでいる馬が好成績を残しているのだ。

 以前、金鯱賞は春に行なわれていたが、2012年から秋開催になった。すると、その年の勝ち馬であるオーシャンブルー(牡6歳。当時4歳)が、続く有馬記念で10番人気ながら2着に粘って穴をあけた。昨年も、金鯱賞3着のウインバリアシオン(牡6歳。当時5歳)が次戦の有馬記念で2着(4番人気)と好走。そういった近年のトレンドを考えれば、ラストインパクトへの期待はますます膨らむ。

 ただ、勢いのあるラストインパクトは、人気が高くなる可能性がある。となると、大きな"夢"を見ている方はやや物足りなさを感じるかもしれない。ならば、より高配当を狙える穴馬を探ってみたい。

 有馬記念のデータを見る限り、狙うべきは、2、3着に飛び込んできそうな伏兵馬だろう。というのも、過去10年の優勝馬を見てみると、2番人気以上の"主役"が8勝も収めているからだ(1番人気=6勝、2番人気=2勝、4番人気=1勝、9番人気=1勝)。前述したマツリダゴッホの大金星はあったものの、基本的に有馬記念は人気馬の勝利が多い舞台なのである。

 まして、今年は豪華メンバー。伏兵に1着を求めるのは、少々酷な気がするのだ。が、そんな有馬記念も、2、3着馬に目を向けると、違った傾向が見えてくる。1着が人気馬ばかりなのに対して、2、3着には9番人気以下の穴馬が過去10年で6度(計7頭)も絡んでいるのだ。つまり、有馬記念は「2、3着が荒れるレース」と言える。

 そして、さらに興味深いのは、2年連続で3着以内に入っている伏兵馬が2頭いること。一頭は、エアシェイディ。同馬は、2008年に10番人気ながら3着と好走し、翌2009年も11番人気で3着に食い込んだ。もう一頭は、トゥザグローリー。2010年には14番人気の低評価をくつがえして3着と健闘し、翌2011年も9番人気ながら3着を確保した。

 この2頭は、明らかに有馬記念という舞台を"得意にしていた"と言っていいだろう。言い換えれば、有馬記念では「舞台適性」が重要であって、近走が振るわずに人気を落としていたとしても、"狙える"ということである。

 その例からすれば、今年の出走予定メンバーでは、昨年2着に入ったウインバリアシオンと、一昨年の2着馬オーシャンブルーが狙い目。それぞれ人気薄の存在であることは間違いなく、適性を重視すれば、十分に穴馬候補となりえる。しかも、2頭は前述した金鯱賞からの参戦。ローテーション的にも悪くない。

 唯一気になるのは、2頭とも長期休養明けで臨んだ、その金鯱賞で惨敗したこと(ウインバリアシオン=15着、オーシャンブルー=12着)。そこから一気に巻き返すのは、決して容易なことではない。その点を考慮して、あえてもう一頭、穴馬候補を推奨したい。

 トゥザワールド(牡3歳)である。

 同馬にとっては、今年が初めての有馬記念。適性はもちろん未知数である。しかし過去の伏兵馬として、先に名前を挙げたトゥザグローリーは、トゥザワールドの全兄。2年連続で3着した「有馬記念巧者」だ。その兄とまったく同じ血統構成の弟なら、「有馬記念巧者」のDNAを持っていてもおかしくない。

 実際、トゥザワールド自身、今回の舞台となる中山競馬場では2戦して、それぞれ好成績を収めている。一戦目は、GII弥生賞(3月9日/中山・芝2000m)で、のちのダービー馬ワンアンドオンリーを抑えて勝利した。続くGI皐月賞(4月20日/中山・芝2000m)でも、勝ち馬イスラボニータ(牡3歳)の切れ味には屈したものの、ソツのない先行策で2着となった。この2レースを見ても、中山競馬場への対応力は高そうで、有馬記念への舞台適性が垣間見える。

 前走のGI菊花賞(10月26日/京都・芝3000m)では、16着と惨敗したトゥザワールド。だが、これは明らかに距離適性に問題があった。加えて、終始外々を回されて自分のレースができなかったのも痛かった。この敗戦は度外視していい。兄と同じ有馬記念への「適性」を持っていれば、巻き返すだけの力は十分に秘めている。

 GI馬たちの華やかな競演に沸く、今年の有馬記念。実績馬たちがその実力を存分に示すのか、はたまたGI未勝利の意外な穴馬が台頭するのか。注目のスタートが刻一刻と迫っている。

河合力●文 text by Kawai Chikara