有馬記念「フィナーレを彩る」実力馬(1)
【エピファネイア編】

 12月28日に行なわれるGI有馬記念(中山・芝2500m)。前走のGIジャパンカップ(11月30日/東京・芝2400m)で、4馬身差の圧勝劇を演じたエピファネイア(牡4歳)が主役の一角であることは間違いない。

「史上最高」と称されるほど、今年のジャパンカップは豪華なメンバー構成だった。世界ランキング1位のジャスタウェイ(牡5歳)をはじめ、ジャパンカップ連覇中の「女傑」ジェンティルドンナ(牝5歳)に、天皇賞・秋を快勝したスピルバーグ(牡5歳)、さらには桜花賞馬ハープスター(牝3歳)、皐月賞馬のイスラボニータ(牡3歳)やダービー馬のワンアンドオンリー(牡3歳)など、今が旬の実力馬がズラリとそろっていた。そんなハイレベルな一戦で、エピファネイアは先行策から抜け出し、後続を寄せつけないワンサイドゲームをやってのけたのだ。

 エピファネイアは、昨年の菊花賞(2013年10月20日/京都・芝3000m)を制し、念願のGIタイトルを手にした。皐月賞、ダービーでも2着という結果を残して、同馬を「世代ナンバー1」と評価する声も多かった。が、菊花賞後は物足りないレースが続いていた。

 菊花賞以来となった今年の大阪杯(4月6日/阪神・芝2000m)では、見せ場のない3着。同世代の日本ダービー馬、キズナ(牡4歳)に勝たれるのはまだしも、格下と言えるトウカイパラダイス(牡)にまで先着(2着)を許してしまった。

 続いて挑んだ国際GIのクイーン・エリザベスII世カップ(4月27日/香港・芝2000m)でも、4着と敗戦。勝ちパターンと言える好位追走の競馬をしながら、直線で伸び切れずにあっさりと敗れた。

 これまでの実績からすれば、まさしく「不本意」と言えるふたつの敗戦だった。陣営は立て直しが急務と判断し、エピファネイアをすぐに放牧に出した。結局、その休養は5月から10月までの長期に及んだ。しかし、この6カ月が同馬にとって、復活の足がかりとなる。なぜなら、エピファネイアはこの休養中に"修行"とも言える、「夏の猛トレーニング」をこなしていたからだ。

 放牧に出たエピファネイアが身を寄せたのは、ノーザンファーム早来(北海道安平町)。まだデビュー前の同馬が鍛錬を積んでいた場所でもある。その当時からエピファネイアを見ていたノーザンファーム早来の森下政治氏は、5月にやってきた同馬の姿を見て、ある「変化を感じた」という。

「ひと目見て、体の寂しさを感じました。背中やお尻の筋肉が落ちていて、かなり疲れていることがわかりましたね。もともとエピファネイアは、とても見栄えのいい馬。デビュー前から、同世代の中では別格の印象だったんです。そのため、余計に体の寂しさが目立ちました」

 明らかに体の筋肉が落ちていたエピファネイア。その深刻な馬体を見て、最初は何より疲労回復に専念したという。焦らず、じっくりと体が回復するのを待った。その甲斐あって、暑さが増してくる頃には、馬体自体は本来のエピファネイアに戻っていた。

 そして、ここから「夏の猛トレーニング」が始まった。森下氏がその理由を語る。

「同世代と戦っていた昨年とは違い、今年はいろいろな世代と戦わなければなりません。だからこそ、一層パワーアップさせる必要がありました。そこで、エピファネイアには普通の馬ではやらないハードな調教メニューを課して、負荷をかけたんです」

 ノーザンファーム早来の馬たちは、通常なら週1回、坂路コースで速いタイムを出していく。だが、エピファネイアはこの夏、週2回〜3回の頻度で速い調教をこなしていった。春の疲れをいやすだけでなく、この休養期間にさらなるパワーアップを図ったのだった。

 通常はやらないようなハードメニューを行なっても、エピファネイアはへこたれなかった。ただ、この調教には別の苦労もあったという。精神面への配慮である。

 エピファネイアと言えば、レースではガツンとかかってしまい、騎手が懸命に手綱を引っ張る姿が思い出される。昨年の日本ダービーでも、引っかかって前の馬と絡んでしまい、危うく転倒しそうになったほど。そういった「気の強さ」を持つエピファネイアだからこそ、この夏のトレーニングでは、精神面にも気を配った。森下氏が語る。

「とにかく、エピファネイアは気の強い馬で、調教でも乗り手に抵抗してくることがあります。そういう気性ですから、ハードな調教によって馬自身がカッとなってしまう可能性もありました。ですから、調教で騎乗したスタッフたちは、『何とかテンションを上げないよう、気をつけて乗ろう』と丁寧にやっていましたね。馬の気持ちに注意しながら、速いタイムを出していったんです」

 スタッフたちの気遣いもあって、エピファネイアは変にテンションを上げることなく、夏の猛トレーニングを存分に消化。無事に"修行"を終えると、その馬体は一段とたくましさを増していた。優秀なスタッフによって、まさに体を作り直すことができたのだ。

 こうしてエピファネイアは、再びGI戦線に乗りこむこととなった。

 春以来の復帰戦となったのは、GI天皇賞・秋(11月2日/東京・芝2000m)。トレーニングの成果を見せるべき舞台だったが、エピファネイアはレースで終始引っかかり、6着に敗れてしまった。それでも森下氏は、「折り合いさえつけば、必ずエピファネイアの力を見せられる」と信じたという。
 
 そして、迎えたジャパンカップ。これまで主戦を務めた福永祐一騎手がジャスタウェイに騎乗することになったため、同馬はクリストフ・スミヨン騎手(フランス)とコンビを組むことになった。スミヨン騎手と言えば、ヨーロッパのトップジョッキーである。エピファネイアは、名手のエスコートによって、これまでとは違った姿を見せるのだった。森下氏がジャパンカップを振り返る。

「ジャパンカップでは、2コーナーでエピファネイアが引っかかりそうになったんですけど、そこでうまく騎手が抑えてくれたんですよね。走るフォームを見ても、力みが抜けていました。4コーナーを回ってくるときは、『これなら勝てる』と思いましたよ」

 直線で抜け出したエピファネイアは、近走のうっ憤を晴らすかのように後続を突き放した。豪華メンバーを相手に、終わってみれば4馬身差の圧勝。その走りは、明らかに進化を遂げていた。

 もちろんそれは、名手のテクニックが後押ししたこともある。だが、夏のトレーニングが実を結んだことも事実だ。森下氏の喜びもひとしおだったという。

「私はもちろん、スタッフたちも大喜びでした。夏の間、彼らはケアから調教の騎乗まで、本当に一生懸命やっていましたから。春の成績に対するもどかしさもありましたし、長い期間をこちらで過ごしていたので、エピファネイアには何とか結果を出してもらいたかった。それが叶って、もううれしいという思いしかなかったですね」

 ジャパンカップを制したエピファネイアは、有馬記念でGI連勝を狙う。今回はすでに帰国したスミヨン騎手に代わって、川田将雅騎手が手綱をとる。乗り替わりがどう影響するかは未知数だが、夏を越えて進化を遂げたエピファネイアなら、騎手が変わっても再びその強さを見せてくれるはずだ。森下氏も、エピファネイアの走りに期待を込める。

「有馬記念を勝てば、年度代表馬のタイトルも見えてきますからね。エピファネイアは、とにかくデビュー前から素晴らしいと思っていた馬。何とかここもがんばってもらいたいと思っています」

 厳しいトレーニングを経て、復活を遂げたエピファネイア。夏に培った力は、年末の大舞台でもう一度発揮されるのか。心血をそそいだスタッフたちの期待を背負って、エピファネイアがドリームレースの舞台に向かう。

河合力●文 text by Kawai Chikara