先週の2歳牝馬女王決定戦・阪神ジュベナイリフィリーズに続き、今週は2歳牡馬チャンピオンを決める朝日杯フューチュリティステークス(阪神競馬場、芝1600m)が行なわれる。1949年に創設以来、これまで一貫して中山競馬場で行なわれていたが、今年から装いも新たに阪神競馬場で開催されることとなった。枠順によるバイアスが強かった中山競馬場の1600mに比べ、阪神ではその差が少なく、実力馬が力をあますことなく発揮できる舞台とされている。

 この、新装なった2歳GIで注目を集めているのが、超良血馬アッシュゴールド(牡/池江泰寿厩舎)だ。

 父ステイゴールド、母オリエンタルアートという血統は、8年前にこのレースを勝ち、後に宝塚記念、有馬記念の両グランプリを制したドリームジャーニー、そして3年前の三冠馬で、2度に渡って凱旋門賞で2着となったあのオルフェーヴルとまったく同じ。つまり、この2頭の全弟にあたる。華麗なる血統に加え、ちょうど昨年末、全兄オルフェーヴルが圧巻のパフォーマンスで有馬記念を制したのを置き土産に引退し、その記憶がまだ鮮烈で、両全兄と同じく池江泰寿厩舎所属ということからも、デビューのかなり前からすでに、今年の2歳馬の中でも最も大きな注目を集めていた馬と言っても過言ではない。

 デビュー前の評判が高い馬でも、実際にデビューして活躍するのは簡単なことではない。それだけに、世代最初のGIレースに駒を進められたことから、俄然期待が高まるのも当然だろう。

 7月のデビュー戦では断然の1番人気に支持されながら中団追走のまま6着に敗れてしまい、大きく期待を裏切ってしまったが、レース後の池江調教師の「現状は体が小さくて非力。これから良くなると思う」というコメントからは悲観の色はなかった。

 事実、この日の芝は良馬場発表ながら力を要する状態。426kgと小柄な馬体では、最内の1番枠から終始荒れたインを走らされ、しかも揉まれる競馬では直線までにスタミナを消耗してしまったことが大きかったようだ。もともと、育成時代はもう少し馬格もあったようで、そう考えるとデビュー戦のこの日は、評判馬アッシュゴールドの姿からほど遠かったとも考えられる。

 デビュー戦から3ヵ月後、立て直しが図られたアッシュゴールドは休み明けの未勝利戦(京都、芝1600m)を、後方一気の末脚を炸裂させて快勝する。さらに中2週でGIIデイリー杯2歳ステークス(京都、芝1600m)に駒を進めると、先に抜け出したタガノエスプレッソ(牡、父ブラックタイド/五十嵐忠男厩舎)こそ捉えきれなかったが、ここでも一瞬のキレを見せて2着と、着実に本来の存在感を示し始めた。デビュー戦からこの間に馬体も12kg増えており、一頓挫こそあったものの、ここに来て期待されていた姿に近づいてきた印象だ。今週末も人気の中心となりそうなのも頷(うなず)ける。

 しかし、軌道に乗ったように見えるアッシュゴールドだが、決して不安要素がないわけではない。

 ひとつは朝日杯の歴史だ。GI競走となってこれまで30回行なわれたうち、30頭の勝ち馬全てがデビュー戦で掲示板を確保(5着以内)している。つまり、逆を言えば、6着以下に敗れた馬がこのレースを勝ったことは、GIになって以降1度もない。

 過去には後の三冠馬となるナリタブライアンが1200mの新馬戦2着となっており、アッシュゴールドの全兄ドリームジャーニーも1400mの新馬戦を勝っている。アッシュゴールドは、確かに馬体が減っていた時期に加え、荒れた内枠、揉まれる競馬と、明らかな敗因があるとはいえ、それでも6着というのは、ここからの成長が加味されるクラシック以降ならまだしも、現状の完成度の高さが要求される2歳GIにおいては、むしろマイナス印象を受ける。

 競走馬のデビュー戦は、必ずしもその馬の適性に合致したものとは限らない。特に2歳戦においては、中長距離に適性の高い馬でも短い距離のレースでデビューを迎えることも少なくないのである。しかし、GIを勝てるだけの力を持った馬ならば、そうした不適な条件であったり、完調でなくともそれなりの格好をつけるはずで、それが最低限掲示板確保という共通項に繋がっていると考えられる。

 もうひとつが、ここまでのレースレベルだ。まず新馬戦で、アッシュゴールドに先着した5頭のうち、新馬・未勝利を突破したのは勝ったヒルノマレットと2着のウインソワレの2頭のみ。また負かした10頭を含めても、これまでに2勝を挙げている馬は1頭もいない。前出ウインソワレが牝馬限定GIIIファンタジーステークス(京都、芝1400m)で3着となったのが唯一の活躍例と言っていいだろう。同じように、2戦目の未勝利戦に目を向けると、その後このクラスを抜けたのは2着のヴェルテスキングと3着のアイファーサンディのみ。一見、鮮やかな勝ちっぷりでも、相手のレベルを考えると、やや物足りなさすら感じる。

 また、好走した2走(未勝利戦、デイリー杯2歳S)はいずれも終始外を回ってのもの。新馬戦での足元の悪い内で揉まれたことが、アッシュゴールドにトラウマとして残っているのかもしれないが、同じようなレース運びで勝てるほどGIは甘くないだろう。

 逆にこの逆境を跳ね除けられるようであれば、偉大な兄たちに一歩近づく。新装した2歳チャンプ決定戦は伝説の幕開けとなるか。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu