画像は番組ホームページより

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 10月26日に始まったフジテレビの『オモクリ監督 〜O-Creator's TV show〜』が低視聴率にあえいでいる。これは、深夜に放送されていた『OV監督』をリニューアルした番組。レギュラー出演する千原ジュニア、バカリズム、劇団ひとりと毎回変わるゲストが、それぞれ面白いVTR(オモブイ=OV)の制作に挑んでいく。ゴールデンタイムに繰り上がって『オモクリ監督』になったのに伴って、司会として女優の吉田羊、審査委員長としてビートたけしがレギュラーに加わった。

 もともと面白いVTRを紹介するという地味な作りは、ゴールデンタイムの視聴者層には合わないのではないかという懸念は当初からあった。実際、『オモクリ監督』の初回放送でジュニア自身が、この番組は短命に終わると冗談めかして語っていたほど。

 しかし、この番組を数字だけで評価するのはもったいない。芸人やゲスト陣それぞれの個性が出たVTRはどれも面白く、見ごたえ十分。個人的には、いま最も楽しみに見ている番組のひとつだ。

 ただ、この手の作品性が高い番組はなかなか数字を取りづらいというのは事実。ゴールデンの視聴者は気軽にテレビを楽しみたいのであって、しっかり作り込まれた「作品」を鑑賞したいわけではないからだ。

 この番組を見ていて興味深いのは、審査委員長を務めるビートたけしの各VTRに対するコメントだ。面白いところを具体的に指摘して褒めたり、細かいカット割りなどについてアドバイスをしたりする。監督を経験している人ならではの、行き届いた視点があるのがいい。芸人たちも、大先輩であるたけしに評価されるということで緊張感を保つことができて、VTR制作にも力が入る。いわば、この番組自体が、北野武監督が講師を務める「芸人監督養成所」のようになっているのだ。

 となると、当然期待されるのが、この番組から次の芸人監督が出てくるのではないか、ということ。実際、『オモクリ監督』の出演者の中ではそちらの方面で仕事をしている人も多い。劇団ひとりは今年『青天の霹靂』で監督デビューしているし、バカリズムも『素敵な選TAXI』で初めて連続ドラマの脚本を手がけた。北野武の後に続いて映画を撮り始める芸人はこの番組から生まれるのだろうか。

芸人監督に必要な資質

 芸人監督をやるには、必要な条件がいくつかある。第1に、芸人としてそれなりに人気と実績があること。映画は、テレビ番組以上に予算も手間もかかる。ヒットする可能性のない映画を撮らせる余裕は映画界にはない。ある程度売れている芸人でないと集客も見込めない。監督本人の名前だけでそれなりに注目を集められるということが、企画が通るために最も重要な要素だ。

 第2に、ネタを書く力がある、ということ。芸人の中には、自分でネタを書く人とそうではない人がいる。例えば、コンビでは1人がネタ作りを担当し、もう1人はネタを書かないという場合がある。この場合、ネタを書かない方の芸人が監督をやるのは難しい。映画監督というのは純粋にクリエイティブな仕事。ネタ作りで創作に慣れていないと、きちんとしたものが撮れる可能性は低い。

 そして、映画が面白いものになるかどうかの分かれ目となるのは、映画そのものや映画作りへの興味や関心があるかどうか、ということだ。例えば、北野武に続く芸人監督の筆頭として、2作以上の監督経験がある内村光良と品川祐は、大の映画好きとして知られている。特に内村はそもそも映画監督を目指して上京してきたという筋金入りの映画マニア。映画が好きな人ほど、監督として自分のこだわりを存分に発揮することができるのだ。

 こういった条件から考えると、次の芸人監督候補として最も有力なのは、やはり爆笑問題の太田光ということになる。太田は、いずれ映画を撮りたいということはつねづね公言している。その日が来るのはいつなのか、お笑いファンは首を長くして待っているところだ。

バカリズムの鋭い発想に期待!

『オモクリ監督』の出演者では、やはりバカリズムが筆頭候補だろう。連続ドラマの脚本を務めたことで、物語を作ることに対しても自信を深めたはずだ。バカリズムは、2012年に『バカリズム THE MOVIE』という企画で「ほぼ監督」という立場で映画制作にも携わっていたことがある。『オモクリ監督』でも、彼が作るVTRにはどれも彼にしかない鋭い発想のキレが感じられて、監督としての資質は十分。本格的な形で映画監督業に乗り出すのも時間の問題だろう。

 個人的には、芸人監督で本格的なコメディを手がける人があまり多くない、というのが気になるところ。これまで多くの作品を手がけてきた北野武監督ですら、コメディ作品は1995年公開の『みんな〜やってるか!』の1作のみ。2015年公開予定の『龍三と七人の子分たち』が2作目となる。

 笑わせるための映画を撮るのはそれだけ難しいということなのだろうが、海外ではコメディアンが監督を務めた大ヒット作品はいくつもある。映画ファンをうならせるような本格的なコメディ映画を芸人監督が作ることができたら、そのときこそ「芸人監督」という存在そのものが、真の意味で認められることになるのではないかと思う。一お笑いファンとして、そんな日が訪れるのを楽しみにしている。

ラリー遠田

東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある