パトリス・ルコント監督

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「仕立て屋の恋」や「髪結いの女房」などで日本でも人気を誇るフランス人監督、パトリス・ルコントが、自ら「集大成」だと語る恋愛映画「暮れ逢い」を引っさげて来日。映画づくりの秘密や映画に込めた思いを語った。(取材・文・写真/若林ゆり)

「暮れ逢い」は、オーストリアの作家シュテファン・ツワイクの小説が原作。野心と誠実さを併せもった青年フリドリックと、彼を雇い入れた実業家の若き妻ロットとの許されざる恋を、ルコント監督らしい官能を匂わせながら描いている。「恋愛映画を撮るのは久しぶりです。長らくやっていなかったので恋しく思っていたところでした。そんなとき、このツワイクの原作に出合ったのです。小説にはまさに私が昔から興味をもち、私を夢中にさせるテーマが現れていたので『ついに出合えたぞ!』という感じでした。いままで私はさまざまな作品の中でオブセッションやいろいろな形の愛、欲望を描いてきましたが、この作品はそういったものすべてが入った、ベストアルバムのような気がしているんですよ」。

言葉にできないからこそ、フリドリックとロットの愛は募っていく。セリフに頼らず、視線や音楽であふれる感情を描き出す手腕はさすがとしか言いようがない。「フランス映画は饒舌すぎるという批判をよく受けるのですが、この原作に関しては、あまり饒舌ではない、むしろ沈黙が雄弁に語るという作品を作るいいチャンスになったと思っています。私にとってはセリフがないシーンで感情を語るシーンを撮るときの喜びがとくに、非常に大きいものでした」。

若い2人の思いは燃え上がるが抑制され、あふれ出ることはない。しかしフリドリックの長期出張が決まったとき、2人は秘めてきたお互いへの思いをついに告白。それでも結ばれることはできず、ロットは「2年後にあなたが帰ってきたら、私はあなたのものになります」と言う。ところが第1次世界大戦が勃発したため、2人は会えないまま6年が経過。ルコント監督が興味を引かれたのは「愛が時を超えられるかではなく、欲望が時を超えて持続するかということ」だったのだという。「愛と欲望は、近いけれどすごく遠いのです。燃え上がり、確かめ合った愛は時が経っても存在し続けるのは当然かもしれない。でも、6年経ってもなお、男は女性のことを抱きたいと思うだろうか。それは愛とはまた違う次元のことなのです」。

監督は原作に敬意を払いつつ、実は「ツンデレ」な自分自身を作品に投影しているのだそう。「この映画でとくに好きなシーンがあるんです。(※以下、ネタバレ注意)6年後にフリドリックが戻ってくる場面。ロットはドキドキしている。6年は長い時間です。彼は不器用になって、ちょっとギクシャクしている。彼女が待ち望んでいた唯一のことは、彼が駆け寄ってきて抱きしめてくれること。でもそうはならず、2人の頭の上にモヤモヤしたものが浮かんでいるのがわかる。最後の最後まで2人が近づくという展開が訪れない、そのじらし感が私はたまらなく好きなのです! 再会してすぐに抱き合ったら下品ですよ(笑)」。

俳優たちから繊細な感情を引き出すコツは、ルコント監督自らがカメラをのぞき、構図を決め、俳優たちの近くで見ていることだという。「そうすることで私自身もシーンの中にいることができる。監督が自分でカメラをのぞくというのは稀なことなのですが、俳優たちをとても喜ばせるんです。監督自身が愛情を込めて直接見ているということが、とくに女優をやる気にさせます。自分でカメラのファインダーを見て構図を選んでいるので、その構図の中に私自身も一緒にいる、という感じ。感情を共有できるんですよ。彼女に恋をしているフリデリックの視線を自分も共有しているわけです」。

「僕の大切なともだち」(08)のPRで来日したとき、「あと3本撮ったら長編映画の監督はやめる」と宣言して日本のファンを驚かせたルコント監督。しかし今作は既に6作目で、7作目の喜劇もすでに撮っている。「撮りたい」という欲望は、時を超えて持続中だ。「ちょっと疲れているときに、ついそういう発言をしてしまったんですね(笑)。でも『暮れ逢い』のような作品を撮ったら、やめたいなんて気持ちにはなりませんよ! もっと撮りたくなる。アニメーションの『スーサイド・ショップ』はいい体験でしたが、撮影がないということが私にはキツくて、現場が恋しくてしかたなかったんです。足りない、足りない、撮影がないなんてつまらない、といつも思っていました(笑)。これからも撮りたいものがたくさんありますし、まだまだやめませんよ」。

「暮れ逢い」は12月20日から公開。

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