ニッポンの「ジ・エンド・オブ・イヤー・ソングショウ」(NHK番組公式HPより)

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 気がついたら2014年もそろそろ終わりです。今年は「やっぱり聞こえてた」「盗作しても博士号取れます」「ウハーン号泣事件」「中二病を凌駕する小4病の出現」「伝統的な家庭に回帰しろと言い張る男ほど自分の家庭が崩壊している件」など伝説的な事件が目白押しで、ウォッチしている間にあっという間に時間が経ってしまい、その間にワタクシは股から血みどろの人間を捻りだしてみるといった活動にも取り組んでみましたが、皆様においても、素晴らしい2014年であったことを祈念いたします。

 さて、年末といえば待望の紅白歌合戦であります。

 ワタクシはこの年末の歌謡ショーを「ジ・エンド・オブ・イヤー・ソングショウ」と読んで、せっせとガイジンに布教して回っておるのです。

 ガイコクにいるときは、NHKの国際放送(ガイコクでも銭を払えば見れるのです)を見ながら、無声映画の弁士のごとく、歌詞の内容、出演者の背景などを、ガイジンに対して事細かに解説するという、国際交流を熱心にやっております。

紅白は焼きそばの紅ショウガのような存在

 ワタクシは普段日本の文句を書いておりますが、根は保守で愛国なのですから、このように日本文化の布教に熱心なのです。なにせあの愛国雑誌『SAPIO』様を高校生の頃から読んでおりました。その理由は、ワタクシが落合ノビー様の大ファンだからです。モサドと友達で空手チョップを駆使してCIAの要人をぶった切る様なダイナミックな国際ジャーナリスト、ノビー様。日本にノビー様を越えるいい男はいないのです。ワタクシの夢はノビー様の嫁になることだったのです。ですから、毎週売店で『SAPIO』様を購入し、電車やバスの中で熱心に読んでいたのです。

 ところでワタクシは数年前に『SAPIO』様より「超保守愛国なネット論壇の人」として公式認定されてしまうという名誉な事件がございました。この認定は、ガイジンへの紅白の布教や、熱川バナナワニ園などの国宝スポットを紹介したという功績によるものなのかどうかはわかりません。

 ちなみに、熱川バナナワニ園は、園内の喫茶店が崩れかけており、昭和30年代から変わってないんじゃないかという食品サンプルが鎮座し、どう見ても腐ってる植物標本が飾ってあって、かまれたらどう見ても死にそうなワニが温泉に浸けられてて、それがなぜか駅の真横にあるという、こんなもん日本以外にはないだろいうクールジャパンな場所なので皆様遊びにいってみて下さい。ワタクシのガイジンのフレンドは「おー、ジャパニーズ、ユーアーくれいじいい!!」叫んで泣きながら家に帰りました。

 ところで、紅白の話でした。紅白というのは、年の終わりに、「お前、まだ結婚しないのか。年金はちゃんと払ってるか」と突っ込んでくる親のダイレクトな視線を交わしながら、ちらちら観察する存在です。手を伸ばせば届く場所に全ての必要物資を配置し、こたつからは一歩もでずに全ての作業を完了できる状態にしておいた上で、ペヤングにマヨネーズをかけてすすり、鼻をかんだティッシュもなにもその辺に投げ捨てるという中で見る、そういう国民的イベントです。どうでもいいんだけど、でもないとやっぱり気合いが入らないという、焼きそばの紅ショウガのような存在なのです。

 紅ショウガの神髄とは、あってもなくてもいいが、ないと何かが違う。そういう存在感であり空気です。食べてもたいしてうまくありませんが、ないと何かが違う。そして、みんな紅ショウガのことは知っている。

 そういう空気のような存在の物体の神髄とは、変わらないこと。大きなマンネリ、退屈、大げさ、いつまでたっても洗練も革新も起こらない保守性であります。

 これは、いつまでたってもチョコレート入り納豆は売り出されないとか、カツオは危険ドラッグを吸わないとか、いつまでたっても角のラーメン屋のナルトがまずいとか、そういうものと同列なのです。

その筋の方々と仲の良い歌い手さんが見たいのに

 あなたはアラフォーで、紹介予定派遣なのに今年もまだ派遣のままで、小学生の頃の家に親と住んでいます。正月に帰省してきた同級生たちに出会うと、みな結婚して子供が産まれており、頭髪が薄くなっていて、話すことは嫁の悪口と正社員で働いている会社の愚痴です。自分は今年も紅白を見て、小学生の頃と同じ年末年始を過ごしていると思い込んでいたのに、同級生と出会ったその瞬間に、時は流れており、小学生の頃とは、何もかも変わっているという現実を実感し、ドンヨリと暗い気持ちになって、原チャリで家に帰るのです。家にある漫画を読んで、子供の頃から親しんでいるアニメをネットで見て、いつも一緒の家族や親戚に囲まれ、コンビニで一日の労働のご褒美にちょっと高めのお菓子を買って、ペヤングを食べている分には、何も感じなかったのに。

 紅白もペヤングや焼きそばの紅ショウガと同じなのです。毎年決まりきった歌い手が登場し、同じ歌を歌い、様式美に昇華したぬるま湯の様な予定調和の中で、くす玉が割れる場面をみて、今年も変わってないことを再確認して安心する空気のような存在。それが紅白なのです。

 親が死んでも、友達が部長になっても、前の家のお婆さんがボケても、絶対に変わらない紅白。ダサくてあか抜けない紅白。ずっとそのままでいたい自分を裏切らない紅白。紅白とは、自分がどこに引っ越しても、帰っておいでと待ってくれている実家の家族の様なものなのです。

 しかし、ここ最近の紅白は惨憺たるものです。その筋の方々と仲の良い歌い手さんは顔を見せなくなりました。芸事はその筋の世界があるからこそ輝くのです。口には出さないがみんな知っている裏の世界を何となく感じるのも紅白の醍醐味なのです。裏切りや怨念たっぷりの歌を、今年も辛いことばかりだったなと思いながら聞くのも大いなるマンネリであります。そして終盤に登場する日本野鳥の会の場違いな感じと、あか抜けないチェックのシャツ。バードウォッチングは皇室の皆様もたしなむ高貴な趣味です。それを年末に再確認させてくれたのが、あの日本野鳥の会でありました。

 しかし、そんな歌い手や歌は紅白の舞台からは消え、今や紅白を支配するのは、隣国の喜び組に負けている小学生の集団と、偽黒人踊りをやるお若い方々と、J様の所の男の子ばかりです。野鳥の会は消えてしまいました。我が国の政府はクールジャパンなるものを売り出しておりますが、今の紅白からは、そのクールさは消えてしまったのであります。

 ガイジンが求めるのはその筋のものが登場するという凄い事実であり、自殺や裏切り満載の歌であり、日本野鳥の会のあか抜けなさであり、万年派遣社員のアラフォーが求めるのは、それらが変わらないということなのです。

 ガイジンも日本人も幸せにしない紅白はぶっ壊さなければなりません。

著者プロフィール

コンサルタント兼著述家

May_Roma

神奈川県生まれ。コンサルタント兼著述家。公認システム監査人(CISA) 。米国大学院で情報管理学修士、国際関係論修士取得後、ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経てロンドン在住。日米伊英在住経験。ツイッター@May_Romaでの舌鋒鋭いつぶやきにファン多数。著作に『ノマドと社畜』(朝日出版社)、『日本が世界一貧しい国である件について』(祥伝社)など。

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