『池袋ウエストゲートパーク』宮藤官九郎/角川書店
名作でござります
日曜劇場、宮藤官九郎脚本「ごめんね青春!」(TBS日曜9時〜)最終回を目前にして、こわいものなし、自由に解き放たれ、猛ダッシュをはじめたもようです。
一時は視聴率が5%代まで落ち込んだものの、11月30日放送の第8話では8.8%に上昇しました。おお、8並び。末広がり! 

縁起が良かった8話の、大まかなあらすじはこう。
息子・コスメこと守(小関裕太)が性同一性障害から、女子の制服を着用していたことを知った村井理事長(津田寛治)が激怒して、とんこーと三女の合併計画をご破算にすると宣言。準備していた文化祭までなしという大ピンチに、平助(錦戸亮)が奔走します。どうなるコスメ? どうなる合併? どうなる文化祭? という紆余曲折の果てが描かれました。

なにより秀逸だったのは、コスメと理事長が歩みよる場面です。
その小道具に、宮藤さんは、「ロッキー・ホラー・ショー」のDVDを使いました。正確には、「ロッキー・ホラー・ショー」のパッケージとその中身です。
爆笑と感動のカオスを生んだこのエピソードは、宮藤さんしか描けないものでしょう。
涙の駅伝とか転校などのエピソードは、正直、宮藤さんでなくても描ける気がするんですね。だからこそ、絶対誰もマネできそうにない「ロッキー・ホラー・ショー」のパッケージとその中身のDVDのエピをメインディッシュにもってきた回で視聴率が上がったことは喜ばしいです。
しかも、イケメンが「脱ぐ」のではなく「着る」(女子の制服を)という昨今のドラマの風潮に反したエピソードであることも、たまたまかもしれないけれど、拍手したい。

8話はいつにも増して驚愕と爆笑の連続で、特に平助が共学じゃない驚愕しまくっていました。
開始15分頃には、あの蜂矢祐子(波留)がついに登場! 
21分頃には、カバさん(生瀬勝久)の正体が判明!
25分頃、村井理事長の女装!
33分頃、蜂矢りさ(満島ひかり)の告白!
びっくりとCMが見事に連携を見せたり、東京に転校した中井さん(黒島結菜)が早くも再登場したり、サービスサービスで、36分頃には、平助が制服姿で登場(コスメが「3年B組金八先生」の第6シリーズ、上戸彩演じた性同一性障害の生徒のエピのオマージュとしたら、学ランは金八先生の第1シリーズの金八が長ラン着るエピソードのオマージュでしょうか?)。

そして、いよいよ「ロッキー・ホラー・ショー」(のパッケージとその中身)です。平助は「いろんな性癖の人がでてきてためになる」(すごい紹介の仕方ですよね)と言って村井に渡します。
これだけでも驚愕ですが、大事なのはこの後。中身をさして「息子さんはこういう状態なんです」と言う。
いったいどういう状態なのか。
見た人は知ってるからここで書くこともないでしょう。この記事を読んでいるにもかかわらず、まだ見てない人が万が一いらしたら、いますぐオンデマンドで確認してくださいね。

38分頃の平助の台詞と、シスター吉井(斉藤由貴)のツッコミも爆笑でした。
お父さんの理事長は「守(コスメ)はこっちに入るはずだったんだ!」とか言いだす42分頃は、涙と笑いで身も心もぐちゃぐちゃです。
「男らしくとか女らしくとかそういうの捨てるために合併したんじゃないの!」
という中井さんの台詞や、「悔しいのと嬉しいのと両方だよ」という神保さん(川栄李奈)の台詞なども合わせて、やっぱり宮藤さんのドラマは、あれもこれも、
かわいさとギスギスの共存も、女装しているのに思わず「俺」と言ってしまうのも、なにもかもまるごと合併された時に爆発します。

その象徴が「「ロッキー・ホラー・ショー」(のパッケージとその中身)です。
それを使って、平助は「見た目も中身どっちも大事です」と言う結論を導きだします。

ここで、「池袋ウエストゲートパーク」(2000年)の第10、11話を思い出す人もいると思います。このドラマには、ヒカル(加藤あい)という二重人格のヒロインがいて、脚本集を見ると、10話のト書きには彼女のもうひとつの人格が「ヒカルB」と称されています。
そして、彼女を心配する主人公マコト(長瀬智也)は11話で「ほらCDだってさ、レコードだった頃はA面B面だったけど、CDは全部表じゃん。だから……がんばれ、早くCDになれ……(以下略)」と励ますのです。
私はこの台詞が大好きで、宮藤さんのことを書いたり話したりする時、何度も何度もこれを引用していて、完全にバカのひとつ覚えみたいになっているのですが、今回、DVDのパッケージと中身が出て来て、ついにCDの進化系が現れたと嬉しくなりました。

レコードのA面B面を、CDの全部表面でいいじゃないかと説いた宮藤さんが、もはや、A面B面、表面という問題を超えて、パッケージと中身が違っていてもいいじゃないか、どっちも大事という境地に、我々を連れていってくれた、忘れられない「ごめんね青春!」第8回。
現代社会を語る評論家のアタマのいい人たちなら、コスプレやSNSの匿名性などと重ねて語るのではないでしょうか。知らんけど。

難しいことはどうでもうよくて、息子の状態に悩み、性同一性障害について100冊も本を読んだ挙げ句、自ら女装を体験してみるお父さんの姿や、コスメを素直にかわいいと認める生徒たちがちゃんと愛情込めて描かれているから、
「ロッキー・ホラー・ショー」も生きるのだと思います。

あと、40分頃の吉井の「女性観が歪んでるわ」というツッコミや「合併」と言う言葉に「はしたない」と照れるところなども良くて、8話はニマニマしっぱなし。
これですべて丸く収まり、ハッピー! かと思ったら、「忌まわしい女」がふたりも登場してかき回してくれそうな9話。一層盛り上がりそうです。
(木俣冬)