現役続行を明言しているイチロー【写真:田口有史】

「マリナーズは象徴的存在のイチローとサインした」

 ヤンキースからフリーエージェント(FA)となったイチロー外野手の快挙は、今後も忘れられることはないだろう。11月19日、そして11月20日。この2日がメジャーの歴史を変える“記念日”だったということが、米国内でも語り継がれている。

 今月19日、メジャーの歴史的な出来事にスポットを当てるツイッターアカウント「MLBマイルストーン」に、ある一文が投稿された。

「2000年のこの日、マリナーズが(チームの)象徴的存在のイチローとサインした」

 イチローがオリックスからポスティング・システム(入札制度)でのメジャー移籍に踏み切ったのは2000年オフ。すでにプロ野球史上最高の打者として地位を築いていただけに、安打製造機の新たな挑戦は日本で大きな注目を集めた。その反面、初の日本人野手に対する米国人には、冷めた見方も少なからずあった。

 マリナーズとイチローの間で結ばれたのは総額1400万ドルの3年契約。日本人野手がどこまで通用するのか。米国でも安打を量産できるのか。圧倒的なパワーを持つメジャーの強打者たちの中で、イチローは存在感を発揮できるのか。日本、そして米国で期待と不安が渦巻く中、イチローがこの日から新たなスタートを切った。

 そして、その答えは1年後に明確な形で出ることになる。

 今月20日、「MLBマイルストーン」は新たに一文を投稿した。

「2001年のこの日、イチローは同じシーズンにMVPと新人王を獲得したMLB史上2人目の選手になった」

 マリナーズと契約後、注目の中で1年目のシーズンに望んだイチローは、驚異的な活躍でメジャーを席巻した。リーグトップの242安打を放ち、打率3割5分で首位打者を獲得。盗塁王(56個)にも輝き、不動のリードオフマンとしてチームを牽引した。

 マリナーズは快進撃を続け、メジャータイ記録となるシーズン116勝を達成。プレーオフはリーグ優勝決定シリーズでヤンキースに敗退したものの、レギュラーシーズンでの強さは際立っていた。その立役者は間違いなくイチローだった。

新人王とMVPのダブル受賞は過去2人だけ

 2001年シーズン終了後の11月12日、イチローは新人王に選出された。全米野球記者協会の投票で28人中27人の1位票を獲得。CC・サバシア投手(当時インディアンス)に1つだけ1位票が流れたが、ほぼ満場一致での栄誉だった。

 そして同20日、イチローはMVPにも輝いた。全米野球記者協会の投票では11人の1位票を獲得。本命視されていたJ・ジアンビー内野手(当時アスレチックス)は1位票が8人だった。当時、イチローの打点の少なさや出塁率の低さを指摘する声もあったが、長年、メジャーを見続けてきた記者も最後はセンセーショナルな活躍に脱帽したということだろう。

 新人王とMVPの同時受賞は1975年のフレッド・リン(レッドソックス)以来。まさに歴史的快挙だった。マリナーズとの契約からたったの1年で、スピード、高い打撃技術、圧倒的な守備力などを武器に、メジャー初の日本人野手はスーパースターとしての地位を確立したのだ。当時、パワー全盛だった米国の野球に新たな風を吹き込んだという意味でも、イチローがメジャーデビューした意味は大きかった。

 イチローは今月上旬、MLBネットワークのテレビ番組に出演し、来季もメジャーでプレーを続ける意思を明言した。現在、メジャー通算2844安打で、過去28人が達成している3000安打まであと156本。日米通算安打数は4122本で、ピート・ローズ氏の誇る歴代通算最多安打記録(4256本)まであと134本と迫っている。

 ヤンキースと再契約する可能性は極めて低くなっているが、日米両国のメディアでは、すでにイチロー獲得に興味を示す複数の球団名が挙がっている。メジャーデビューから14年が経過しても、偉大な安打製造機を必要とする球団はまだまだある。来季はどのユニホームを着て、野球界に新たな歴史を刻むのだろうか。