目覚しい活躍を見せる杉野希妃写真/山川哲矢

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映画を支えるプロデューサー、スクリーンを彩る女優とさまざまな顔を持つ杉野希妃。アジア合作など世界を見据えた作品に意欲的に挑んできた杉野が、長編監督デビュー作「マンガ肉と僕」に続きメガホンをとった「欲動」は、神秘の地バリで生と死の狭間で揺れる人間の心の機微をやわらかく浮かび上がらせる。映画人としてまい進する杉野に、今の思いを聞いた。

京都で撮影した「マンガ肉と僕」から一転、「欲動」はインドネシア・バリ島でオールロケを敢行し、現地スタッフとともにつくり上げた。「日本では、計画通りに進めるシステムや慣習のようなものがいまだに強く残っています。そういうつくり方もあるべきだと思いますが、インドネシアのスタッフさんと撮ることで『こんなに自由な撮り方があったんだ』と思わせられたんです。その瞬間ならではのものが生まれる環境があるんですよね」と大きな刺激となった。

6年前の企画始動時から、杉野はまだ見ぬバリ島に魅了されていたという。「『この異様な世界観はなんだろう』と心が揺さぶられる感覚と、いつか行きたいというあこがれがずっとあったんです。同時に、私は役者としても一人の映画人としても、表現したいようにできない、自分の中でぶち当たる壁があって。それを解放してくれるものに出合いたいという願望があったんです」と振り返り、「バリには壁を取っ払ってくれる何かがあるのかもしれないと思い、バリで解放される物語を撮ってみたいと思ったことがきっかけでした」と語った。

バリでの撮影は「自分の中の固定観念が少し溶かされた気がします。世界観も少し広くなったかな」と新たな発見につながったが、「だからといって、自分が表現者として突き抜けられたかというと、まだまだだなと強く思います」と真摯な姿勢は崩さない。

「この世界って役者、プロデューサー、監督はこうあるべきだという暗黙のルールがあると思うんです。そういうものが息苦しくて、役者が映画をつくってもいいと思うし、私はいろいろなことに挑戦したい。そんな世界で固定観念を取っ払いたいという気持ちを持っていると『女とは、男とはなんなのか』と考える機会が多いんです。女性の映画人が負けないように男性と張り合おうとしてしまうと、もったいないと思います。だからといって、ありのままの自分ってなんだろうと考えた時に、やっぱり他者を気にしている自分もいて、本当の自分がわからなくなっていく。『欲動』では、自分自身の本能や本性と向き合う瞬間が描かれていると思います」

杉野が参加した作品には、「おだやかな日常」など「生」というテーマが息づいている。本作は、不治の病によって不安定になっていく夫・千紘と妻ユリを軸に、「生」という主題に男女の「性」が絡み、より濃密な物語となっている。当初、表現に悩む女性歌手がバリで自分を見出すというストーリーで、自ら主演も務める予定だったという。しかし、6年の間に杉野の中で描きたいテーマに変化が生まれた。そんな中女優・三津谷葉子と出会い、「一心同体で、生と死の狭間で揺れ動く女性像をリアルに表現してくれそう」と直感。撮影の1年前から企画開発・物語の構築までともに進めることで、本作にたどり着いた。そんなユリに対して、渦巻く不安や苛立ちをぶつける千紘を演じたのは、独特の存在感を放つ斎藤工だ。オファー前から「あて書きしていた」というキャラクターに挑み、これまでとは違った繊細さを見せている。

「英題『Taksu』はバリオリジナルの言葉で、何かを表現するときの精神的な境地という意味があるのですが、その意味のままの映画だと思います。ユリが死と生に向き合いながら、何をつかむのかということを淡々と描いている作品ではありますが、女性の本能、静かな狂気みたいなものを感じてもらえたらいいなと思います」

「欲動」は、11月22日から新宿武蔵野館ほか全国で順次公開。

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