まるで象とアリ「大手vs中小」賞与格差、大拡大

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■冬のボーナス平均89万円! ただし、大手76社の話

2015年3月期の上場企業の決算が過去最高益に迫る見通しの中で冬のボーナスに対する期待感が高まっている。

日本経済新聞が調査した3月期決算企業1254社のうち製造業の利益は8%増、非製造業のマイナス5%減益。全体で3%増となり08年3月期に記録した過去最高益に迫るという。

今年の冬のボーナスも各統計機関の集計を見ても昨年よりも支給額が増えている。

経団連の調査では前年比5.78%増の89万3538円(11月13日、第1回集計)。ただし、76社の集計であり、昨年(5.79%増)と同水準だ。

労働組合の連合の調査では約78万円(11月14日、第1回集計)。昨年より4万円増えている。

労務行政研究所調査の上場企業206社の平均額は70万9283円、前年同期比4.6%の増加となっている。

産業別では鉄鋼の16.4%増、輸送用機器8.1%増、電気機器7.0%増を中心に製造業の伸び率が高いのに対し、商業、倉庫・運輸、情報通信の非製造業はマイナスとなっている。海外好調、内需型不振という企業業績を反映した格好だ。

しかし、上場企業全体としては好業績の割にはそんなに高くないという印象を受ける。

労務行政研究所調査の08年の賞与は75万3180円であり、今冬はこれより5万円ほど低い。06年、07年に比べても低い額だ。加えて、物価上昇分を引いた実質賃金(9月)は前年同期比2.9%減と15ヶ月連続のマイナスであり、ボーナスが上がってうれしいという実感を持つ人も少ないのではないだろうか。

■なぜ好調輸出企業は利益を社員に還元する気がないか

業績好調の輸出企業はボーナスをもっと上げてもいいのではないかと思うが、じつは海外で稼いだ分を日本の従業員に還元する気はないようだ。

配当など企業が海外から受け取った「純受け取り額」は2013年度は約17兆9000億円もある。しかし、ボーナスを決めるのは海外事業を含めた連結業績ではなく、国内事業に限定した単体業績を重視するようになっているのだ。

経団連の調査(13年11月)では賞与・一時金を決める基準を「単体業績のみを判断材料にしている」に企業は36.6%、「どちらかといえば単体業績を重視する」27.3%。合計63.9%を占める。これは賃金決定の基準でもほぼ同じ比率だ。連結業績重視は14%(賃金は8.9%)にすぎない。これでは国内業績が伸びない限り、ボーナスが上がることはないのだ。

海外で稼いだ分に日本人社員も貢献していないわけではないのだが、経団連はこう主張している。

<海外の事業投資先なども含めたグループ経営が重視され、海外収益が拡大していく過程にあっても、引き続き国内従業員の貢献は決して小さくなるものではない。しかしながら、企業の売上や生産に占める海外比率が高まる中、国内従業員だけを対象とした定期昇給制度を維持していくことの合理性は、今後ますます問われることになろう。>(経団連『2014年版経営労働政策委員会報告』)。

つまり、国内の社員だけを優遇するわけにはいかないと言っているのだ。円安効果で海外事業が好調でもその恩恵は受けられない。しかも、一方では輸入原材料の高騰による物価高でサラリーマン世帯の暮らしは厳しくなる。アベノミクスの負の側面がますます拡大していく可能性もある。

■中小の4割はボーナス支給「ゼロ円」

大手企業の海外移転や原材料の高騰で苦しんでいるのは中小企業も同じである。

中小企業の冬のボーナスが決まるのはこれからであるが、労働組合の国民春闘共闘委員会集計の夏のボーナスの従業員100人未満の支給額は約61〜62万円。大手企業に比べると10万円近い差はあるものの、それほど低くはない。だが、中小企業でボーナスを支給していないところも多いのだ。

大阪シティ信用金庫が大阪府内の1108社を対象に実施した夏のボーナスの支給状況調査によると、支給すると答えた企業は59.4%、支給しない企業(小額手当含む)は40.6%に上っている。従業員規模別にみると、50人以上の企業で支給するのは86.2%、20〜49人で77.3%、20人未満で53.6%。規模が小さい企業ほど支給しない企業が多い。また、支給する企業でも平均額は約26万円とそれほど多いとはいえない。前年比も0.8%増と大手企業の約6%に比べても低率だ。

ボーナスを出してやりたくても出せない、上げられない企業が多い実態は、今冬も同じと見られる。

経済産業省の中小企業1万0380社の調査では、2014年度のボーナスを増額すると答えた企業はわずかに31.0%。69%の企業が増額しないと答えているのだ。

その背景にある経営的理由としては「業績の低迷」「原油・原材料価格の高騰」「消費税率引き上げ」といったものが多い。中小企業にボーナスを出す体力が徐々になくなっていることを示すものだ。

大手と中小の年収格差も拡大の一途をたどっている。連合の調査によると、1000人以上規模の企業と10〜99人規模の企業の年間賃金の格差は1995年に14ポイントであったが、しだいに拡大し、2013年の格差は産業計で19.2ポイント、製造業が23.5ポイントにまで拡大している。

大手企業といえども、ボーナスの先行きの見通しが暗い中で、同時に中小企業との格差が開いていく。サラリーマンの所得水準がいびつな形で縮んでいく方向にある。

(溝上憲文=文)