「品数が多い」ほうが好成績。※「熊本県学力調査」(2005年12月)をもとに編集部作成。

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朝食を食べるか食べないかで、学業成績が全然違う! 日本で初めて科学的に証明した名物教授が、最新データと「伝説の調査」をもとに、そのメカニズムを教えてくれた。

■2つの体内時計で頭も体も覚醒させる

毎朝、きちんと食事を摂取しなければいけない理由はもう1つある。朝食を抜くと“時計遺伝子”をリセットできず、体が目覚めないまま勉強することになるからだ。

人間を含む動物が体内時計を持っていることはよく知られている。

体内時計が概日リズム(脳の日周リズム)を刻むのは、後天的に学んだのではなく、生まれつき時計遺伝子という遺伝子を持っているからだ。ただ、時計遺伝子が刻む1日の長さは25時間。そのままでは時計遺伝子が刻む生体のリズム(1日25時間)と実際の生活のリズム(1日24時間)がズレていき、時差ボケのような状態になってしまう。

それを防ぐため、時計遺伝子にはリセット機能がついている。時計遺伝子を毎朝リセットすることでズレを修正して、朝すっきり目覚めて夜に眠くなるという健康的な1日を過ごせるようになるわけだ。

問題は、人間は2種類の体内時計を持っているということだろう。

「わたしたちは、脳の中枢にある主時計と、全身の臓器の細胞の中にある末梢(まっしょう)時計の2つの体内時計を持っています。脳の主時計の針は、朝の強い光を浴びることで網膜から視交叉上核(しこうさじょうかく)に刺激が伝わってリセットされます。一方、末梢時計のほうは朝食を取って胃腸が動きだすことによって針がリセットされます。それぞれリセットするきっかけが異なるので、朝起きたのに食事を取らないと、2つの体内時計がズレて活動の効率が妨げられるのです」

つまり朝食抜きだと、体は半分しか目覚めていない状態になる。これでは勉強もはかどらない。朝食を取る目安は起きてから2時間以内。しっかり朝食を食べて、両方の体内時計を合わせたいところだ。

■1品より2品、2品より3品のほうが成績がいい

成績を上げたければ、しっかり朝食を食べさせることが重要だ。ただ、とにかく食べさせれば何でもいいというものではない。香川先生は、その理由を次のように解説する。

「栄養バランスの取れた食事でないと、体内の末梢時計は正しくリセットされません。ネズミを使った実験では、炭水化物だけ、あるいはタンパク質だけのエサでは末梢時計を正確に調整できませんでした。炭水化物とタンパク質を交ぜると改善しますが、最も正確に体内時計をリセットできたのは、栄養バランスが取れたエサを与えたケースでした。これは人間も同じ。トースト1枚、おにぎり1つといった軽い朝食ではなく、栄養バランスの取れたメニューにするべきです」

それを裏付ける次のような調査もある。熊本の小学5年生を対象に朝食メニューと学力の相関を調べたところ、最も点数が低かったのは「何も食べていない」と回答した子供たちで、400点満点中216.7点。注目したいのは、朝食を食べてきた子供たちだ。朝食が「1品」の子供たちは230.0点、「2品」は252.5点、「3品以上」は262.8点というように、品数が増えるにつれて点数もアップしている(「熊本県学力調査」2005年実施)

■理想のメニューはアメリカン・ブレックファースト

栄養バランスが取れた食事といっても、具体的にはどのようなメニューをイメージすればいいのか。香川先生が例としてあげるのは、ホテルでよく見かけるアメリカン・ブレックファーストだ。

「ブドウ糖を補給するためのパンに、卵がついて、ハムやベーコンなどのお肉もある。さらに野菜、ミルクやジュースもついて、栄養バランスがすばらしい。ここから卵を抜くとコンチネンタル・ブレックファーストになりますが、それでもバランスは悪くない。もちろん和風定食だっていい。おみそ汁にはアミノ酸が入っているし、タンパク質も取りやすいです」

とはいえ、忙しい朝の時間帯にそれだけのメニューを用意するのは正直にいって難しい。もっと上手に手抜きをする方法はないだろうか。香川先生は、「冷凍食品や缶詰を使ったり、手間をかけずに調理する工夫を」とアドバイスしてくれた。

「豆の水煮の缶詰を使えば、簡単に『卵と豆のサラダ』をつくれます。また、冷蔵庫の残り飯やカット野菜があれば、『キムチ雑炊』もさっとつくれるでしょう。慌ただしくてキッチンで火を使う余裕がないという人は、『ココット』もいい。耐熱容器に卵を割り入れて電子レンジで加熱するだけなので、じつに手軽です」

このほかにも、和風ツナサラダやピザトーストもおすすめだ。最後に、今年81歳になる香川先生自身の朝食についても聞いてみた。

「おかずはひと手間かけますが、そのほかは冷凍ご飯を温めたり、電気ポットのお湯でレトルトのみそ汁をつくったりとうまく手を抜いています。いまもこうして元気に授業ができるのは、毎朝きちんと食事をつくって食べているからでしょうね」

■子供でも作れる!スーパーシンプル料理

記事で登場した香川先生自身も作っている超簡単朝食のレシピです。こんな簡単でいいの!? と思わず拍子抜けする人もいるかもしれませんが、簡単に作れておいしいならいいんです。

 

豆の水煮をサラダに盛るだけ「卵と豆のサラダ」
【材料(1人分)】
卵……1個、レタス……3枚、豆(水煮缶詰)……20g、和風ドレッシング……適量

 

【作り方】
(1)卵はゆで卵にし、適当な大きさに切る。
(2)レタスは一口大にちぎる。
(3)レタスを器に盛り、卵と豆をのせる。
(4)ドレッシングをかける。

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卵、野菜、ご飯を一緒に煮るだけ「キムチ雑炊」
【材料(1人分)】
ご飯……茶わんに軽く1杯、溶き卵……1個分、キムチ……30g、ネギ……3cm、シメジ……1/10パック、玉ネギ……1/8個、水……1カップ、市販のスープのもと……適量

 

【作り方】
(1)玉ネギは、2mmの厚さに切る。
(2)ネギは斜め薄切り、シメジをほぐす。
(3)鍋に水を入れ、沸騰したらスープのもとを入れる。
(4)玉ネギ、シメジを煮る。
(5)ご飯を入れる。
(6)キムチ、ネギ、溶き卵を入れる。

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包丁も火も使わない1品「ココット」
【材料(1人分)】
卵……1個、ロースハム……1枚、油……適量、塩・こしょう……各少量

 

【作り方】
(1)耐熱容器に油をぬる。
(2)ロースハムは適当な大きさに切る。
(3)ハムを容器に入れる。
(4)卵を静かに割り入れる。
(5)黄身に竹串などで穴をあけ塩、こしょうをふる。
(6)電子レンジで2分加熱する。
注意:黄身が破裂しないよう、(5)でしっかり穴をあける。レンジの加熱時間は機種によるので様子を見ながら加熱。

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香川靖雄 
女子栄養大学副学長。自治医科大学名誉教授。1932年東京生まれ。東京大学医学部卒業。聖路加国際病院、米コーネル大学生化学分子生物学客員教授、自治医科大学教授などを経て、現職に。専門は生化学、分子生物学、人体栄養学。著書に『時計遺伝子ダイエット』(集英社)など多数ある。

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(村上 敬=文 遠藤素子(人物)、市来朋久(料理)=撮影 神 みよ子=料理 教える人:香川靖雄(女子栄養大学副学長))