アギーレ監督が就任して4試合を終えて、ここまで1勝2敗1分け。監督の志向するサッカーが縦に速く、アグレッシブということが、試合内容によく表れている。試合中、選手がボールを後ろに下げると、アギーレ監督が怒っていたことからもそれはよくわかる。縦パスを入れて前線に起点を作り、そこから素早くゴールへ攻め上がる。非常に現実的で、勝つためにファイトするスタイル。戦術として非常に理に適っている。

 ブラジルW杯後、世界のサッカーは「タテに速い攻撃になった」と言われている。たしかに、その傾向がより顕著になったといえる。だが、「タテに速く」ということは目新しいスタイルではない。

 たとえば、2004年アテネ五輪で五輪代表を指揮した山本昌邦監督(当時)も言っていたことで、「ボールを奪ったら3秒以内にゴール前へ攻め上がる」「カウンターやショートカウンターでゴールを奪う」ことを狙っていた。つまり、10年前からそうした考え方は存在していたのであり、トレンドというより、もはや当たり前の話だ。チャンピオンズリーグでも、何年も前からその傾向が現れている。

 だからといって、日本代表もそうした縦に速いサッカーだけをやればいい、ということにはならない。もちろん、そういう傾向が強くなっていることはしっかり把握して、対応できるようにしなくてはいけないが、それプラス、自分たちの特徴を生かすやり方、自分たちにしかできないことを見つけ出すことも重要だ。

 ブラジルW杯が終わってから、気になっていることがある。それは、やたらと「トレンド」ということを強調するメディアが増えたことだ。もちろん、トレンドは理解するべきで、世界のサッカーシーンで今何が行なわれていて、今後どうなっていくかを予測することは重要だ。

 しかし、日本代表は必ずしもトレンドを追いかける必要はないと私は思っている。もちろん、世界のサッカーの最先端がどんなものであるかは知らなくてはいけない。しかし、もっと重要なことは、それを知ったうえで、日本代表が世界の舞台で勝てるスタイルを導き出すことだ。

 ヨーロッパや南米のスタイルを取り入れることがすべてではない。世界の強豪と互角以上に戦えるようになるために、同じスタイルや戦術を身につけることだけを考えていたら、いつまでたっても追いつけない。日本独自の路線も模索していくべきだろう。

 たとえば、浦和のペトロビッチ監督のスタイルは、「縦に速いサッカーは日本のスタイルとして適性なのか?」「なぜ自陣でボールを回してはいけないのか?」「ゆっくりボールを回すスタイルでもいいのではないか?」という考えをベースにチームを構築している。もちろん、ペトロビッチ監督も現在のトレンドを知っている。そのうえで、トレンドとは違ったアプローチでチームをつくりあげている。そして、Jリーグで結果を出しつつある。これもまた、ひとつのスタイルといえる。

 原点にあるのは、「同じことをやっていたら勝てない」ということ。私は、日本代表も、そこがスタート地点だと考えている。日本の世界での立ち位置がどこにあるかを考え、強化策を練ってみてもいいと思う。

 日本代表の特徴はどこにあって、勝つために何をすべきか。日本人の特性、いいところを、これからアギーレ監督に引き出してもらいたい。外国人でなければわからない日本の良さもあると思うので、どのようなストロングポイントがチームに備わっていくのか楽しみだ。

 日本の最大の長所は組織力だと私は思っている。それを生かして強豪国に勝つために何をすべきか。そのためには、日本人選手がどんな特徴を持っていて、どんなキャラクターで、どのような思考をするのかを、アギーレ監督が理解することも必要になってくるだろう。

 もちろん、強いチームをつくりあげ、W杯に出場していい成績を収めるという目標は、日本代表でもメキシコ代表でも一緒だ。ただ、それを達成するための日本に合った方法があるのではないか。今まで、アギーレ監督がスペインのクラブやメキシコ代表でやってきたマネジメントや指導法を、そのまま日本代表に持ち込むのではなく、日本人のキャラクターやものの考え方に合った強化策を模索していってほしい。

 たとえばオシム元監督は、代表監督に就任する前の4年間、Jリーグで指揮を執る経験があったことで、日本人とはこういう人たちなのか、と理解できたことが少なからずあったはずで、その経験を代表監督として活かせた部分があったと思う。アギーレ監督はいきなり日本代表監督に就任したので少し時間はかかるかもしれないが、日本人選手の特長を生かしたスタイルが確立されるかどうかに注目したい。

 ヨーロッパや南米の選手ができないこと、日本人だからこそできることとは何か。その突き詰めがあったうえで、個々の選手がレベルを上げていき、日本人ならではの良さも伸ばしていく。つまり、組織力を生かしてパスワークやオフザボールの連動も追求し、アギーレ監督が考える縦に速いスタイルと融合することで、さまざまなことに高いレベルで対応できる。そんな「引き出しの多い」逞しいチームに日本代表が成長していくことに期待している。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro