イスラボニータが3歳馬として史上3頭目となるGI天皇賞・秋(11月1日/東京・芝2000メートル)に挑む。最後に3歳馬がこのレースを勝利したのは2002年にシンボリクリスエスによるもの。干支でいえば、ちょうどひと回り、同じくウマ年の出来事だった。

 1987年に天皇賞・秋が3歳(2000年までの表記では4歳)馬にも再解放(1937年の第1回は3歳馬も出走可能だった)されて以来、28頭の3歳馬が古馬相手に挑戦してきた。通算成績は[2−2−2−19](左から1着−2着−3着−4着以下)というもので、完成度において、古馬(4歳以上)が有利といわれる。

1着
96年 バブルガムフェロー
02年 シンボリクリスエス
2着
88年 オグリキャップ
95年 ジェニュイン
02年 ダンスインザムード
10年 ペルーサ
12年 フェノーメノ
3着
06年 アドマイヤムーン
07年 ディープスカイ

 好成績を残してきた3歳馬に共通するのが、春の時点で相応の好成績を残してきているということだろう。具体的には1600メートルの以上のGI勝ち馬か、2000メートル以上のGII勝ち馬で、ペルーサとオグリキャップを除けば、連対馬はみなGIで連対実績がある。実績面では、ジェニュインと同じく、皐月賞を勝ち、ダービー2着のイスラボニータはこれらに引けはとらない。

 逆に1600メートル以上のGI勝ちや、2000メートル以上のGIIを勝った経験がありながら、4着以下に敗れたのは、99年のスティンガー(4着)、00年のイーグルカフェ(4着)、04年のダイワメジャー(17着)、05年のキングストレイル(16着)、12年のカレンブラックヒル(5着)の5頭。GI勝ちのないキングストレイルと、ノド鳴りを悪化させたダイワメジャーを除けばいずれも掲示板圏内に健闘している。

 また、99年はスペシャルウィーク、00年はテイエムオペラオー、12年はエイシンフラッシュが勝った(12年は同じ3歳でも、カレンブラックヒルよりも距離適性に勝るフェノーメノが2着に好走している)ときで、いずれも2000〜2400メートルのGI勝ちをしている歴戦の古馬。翻(ひるがえ)って、今年はというと、イスラボニータ以外では、ジェンティルドンナとトーセンジョーダンしか該当馬がおらず、2頭ともに宝塚記念以来のぶっつけで、昨年も同じローテーションだったジェンティルドンナはジャスタウェイに千切られ、トーセンジョーダンはすでに8歳でピークを超えた感が強い。天皇賞・春を連覇しているフェノーメノや昨年度の菊花賞馬エピファネイアもおり、決して平均以下のメンバーではないが、スペシャルウィークやテイエムオペラオー級は不在で、タイプとしてもイスラボニータはカレンブラックヒルよりはフェノーメノに近いだけに、データ面では好走が約束されたようなものだ。

 レースを4日後に控えた29日早朝、美浦トレーニングセンターのウッドチップコースで追い切られたイスラボニータは、新コンビを組むクリストフ・ルメール騎手を初めて背に乗せ、豪快な動きを披露した。僚馬のトウカイチャーム(6歳500万下条件)を8馬身ほど先行させて追いかける形でスタート。3コーナーで徐々に加速を始め、ゴールまで残り200メートルのところでゴーサインが出ると、あっという間に僚馬を交わしてフィニッシュ。軽く仕掛けただけの最後の200メートルは推定12秒1で、この日の最速ラップとなった。

「ベリーハッピー!」

 イスラボニータとともに引き上げてきたルメール騎手は、待っていた栗田博憲調教師に開口一番、笑顔で感想を口にした。

「すごく乗りやすいし、馬が何をすべきか分かっている。走り方がディープインパクトにも似ている」

 ルメール騎手といえば、世界で唯一、ディープインパクトに2度先着したジョッキーだが、かつての好敵手を例にしてイスラボニータの動きを絶賛する。また、04年に2着となった3歳馬のダンスインザムードの手綱を取っていたのもルメール騎手だ。外国人騎手は過去5年で3勝を挙げている。戦い方を熟知しているのも、大きなアドバンテージだろう。

 ただ一方で、今年の3歳馬自体のレベルに疑問符を投げかける声もある。

「今年の3歳の牡馬、特に春からの既存勢力はそれほど高いレベルではないのかもしれません。ダービー馬ワンアンドオンリーも神戸新聞杯は辛勝しましたが、菊花賞はあの内容の9着。トーセンスターダムは8着、トゥザワールドに至っては16着でした」

 そう語るのはスポーツ報知の美浦担当の牧野博光記者だ。

「イスラボニータは確かに今の3歳牡馬の中では抜けて強いと思いますけど、じゃあこのメンバーの古馬に入ってどうか? という不安はあります。2歳時の新潟2歳ステークスでイスラボニータはハープスターにあっさり差し切られました。当時のハープスター自体が絶好調というわけではなかったと聞いています。それを考えると、ヘタをすれば、今年は3歳ではハープスターが一番上かもしれません。実際に古馬相手のGII札幌記念(8月24日/札幌・芝2000メートル)を圧勝していますしね」

 今年の3歳で、現時点で古馬相手に芝1600メートル以上でオープン特別ないし重賞を勝っているのは、前出のハープスター、GIII富士ステークス(10月25日/東京・芝1600メートル)のステファノス、アイルランドトロフィー(10月19日/東京・芝2000メートル)のエイシンヒカリの3頭のみ。2着まで対象を拡げてもポートアイランドステークス(10月5日/阪神・芝1600メートル)のアズマシャトルぐらいだ。

 例えば、フェノーメノが2着になった12年は、重賞だけでもGIIIクイーンS(札幌・芝1800メートル牝馬限定)をアイムユアーズ、GIII京成杯オータムハンデ(中山・芝1600メートル)をレオアクティブ、GII毎日王冠(東京・芝1800メートル)をカレンブラックヒル、GIII富士ステークスをクラレントがそれぞれ3歳で制しており、毎日王冠と富士ステークスは2着馬も3歳馬で、古馬相手に好走している。

「もうひとつ、今日の追い切りで確かに時計は出ていますけど、動き自体はそれほど素晴らしいとは思えませんでした。先行したトウカイチャームも、いっぱいいっぱいに追って抵抗していたのではなく、敢えてイスラボニータに抜かさせるような動きに見えました。

 何より、イスラボニータの主戦だった蛯名正義騎手が今回はフェノーメノに騎乗。知り尽くしているだけに、うまく良さを出させないようにしてくると思いますよ」(牧野氏)

 さらに木曜日に発表された枠順でも、イスラボニータは15番枠と試練を突きつけられた。東京2000メートルで外枠は不利とされており、多頭数になりやすいこのレースではそれが顕著で、15番よりも外の枠は、過去10年では勝ち馬はおろか2着馬も出ておらず、06年のアドマイヤムーン(15番枠)が3着になった程度。好走歴は03年に18番枠から勝ったシンボリクリスエスまで遡(さかのぼ)る必要がある。

 相反するデータを背景に楯獲りに挑むイスラボニータ。勝利の女神はどちらのデータに微笑むか。

土屋真光●取材・文 text by Tsuchiya Masamitsu