「無念を晴らす」というフレーズは、競馬界でもよく使われる。そして、そのような期待を背負って、多くの競走馬が大一番に挑む。

 トライアルの紫苑S(9月13日/新潟・芝2000m)を快勝し、本番の秋華賞(10月19日/京都・芝2000m)で伏兵視されているレーヴデトワール(牝3歳/父ゼンノロブロイ)は、まさしくそんな一頭である。

 半姉のレーヴディソール(父アグネスタキオン)は、2歳時にGI阪神ジュベナイルフィリーズ(以下、阪神JF。阪神・芝1600m)を制し、3歳になっても桜花賞トライアルのチューリップ賞(阪神・芝1600m)を圧勝。デビューから4戦4勝を飾って、一躍その名をとどろかせた。

 後方から他馬を圧するようにして伸びてくる末脚は、「超」のつく一級品だった。牝馬クラシックの一冠目となる桜花賞前(阪神・芝1600m)には、主戦の福永祐一騎手が「(桜花賞で)負けるイメージができない」と語っていたほどで、誰もが認める断然の"主役"だった。

 ところが、レース直前に故障。桜花賞は無念の回避となった。その後、秋になって復帰を果たしたが、圧巻の末脚がよみがえることはなかった。

 その姉の「無念を晴らす」ことを期待されて、牝馬三冠最後の一冠に臨むのが、レーヴデトワールだ。

 実際、関西の競馬専門紙トラックマンによれば、姉と同じDNAの持ち主であることを感じさせる場面があったという。

「松田博資厩舎の現3歳世代は素質馬ぞろいですが、なかでもレーヴデトワールは、デビュー前から調教の動きが際立っていました。その走りは、確かに姉(レーヴディソール)を思い起こさせるものがありました」

 そうは言っても、姉レーヴディソールは「10年に一頭」と言われた逸材。その姉と比べるのは、酷というものだった。

 レーヴデトワールは、デビュー戦こそ、姉を彷彿とさせる差し脚を見せて勝利したが、2戦目には早くも土がついて、姉が勝った阪神JFには駒を進めたものの、9着と惨敗した。3歳のクラシック戦線でも力及ばず、桜花賞は5着。オークス(東京・芝2400m)には出走することさえできなかった。

 周囲の評価も、阪神JFのときはまだ3番人気に推されていたが、桜花賞では7番人気まで下降。その段階ですでに、レーヴデトワールは「偉大な姉とは違う」と、多くのファンが見限っていた感がある。そして、桜花賞以降も凡走を重ねた結果、彼女は「期待はずれ」のレッテルを貼られてしまった。秋初戦の紫苑Sでさしたるメンバーがいない中、5番人気にとどまったのが、その証拠と言えるだろう。

「賢兄愚弟」ならぬ「賢姉愚妹」と言えばいいのか。あまりにも優れた姉を持ったゆえの、妹の悲哀である。けれどもこの妹、レーヴデトワールは実はそれほど「愚妹」ではなかった。下降線をたどる評価を横目に、夏の休養期間中に「なにくそ」とばかりに、確実に自力を強化していたのだ。

 迎えた紫苑S。当日の芝コースは、極悪の不良馬場だった。引っかかる気性で、そもそも2000mという距離には不安があったうえ、切れ味勝負の同馬にとって、その悪条件は大きなマイナスだった。しかも、2カ月半の休養明けながら、馬体は10kg減。ただでさえ「期待はずれ」の評価が増す中、不安要素がこれだけそろえば、人気が得られないのは当然のことだったのかもしれない。

 だが、レーヴデトワールはそうした"逆風"を見事にはね返した。道中、好位につけて追走すると、直線では2着ショウナンパンドラ(牝3歳)との壮絶な叩き合いを制した。それまでの走りとはひと味違って、ある種の奥深さを感じさせる競馬で勝ったのである。前述のトラックマンが言う。

「春当時のレーヴデトワールは、道中引っかかるし、勝負どころで苦しくなると、頭を上げる欠点がありました。それで(長い)距離が持たなかったんですが、紫苑Sではそうした課題がかなり克服されていましたね。最後、叩き合いをしのぎ切るという、勝負根性も見せました。減っていた馬体重も、輸送によるものですから、まったく心配ないでしょう。次(秋華賞)は体重も戻っていると思いますし、春に比べて成長しているのは、間違いありません」

 着実に力をつけてきたレーヴデトワール。秋華賞に向けて期待が膨らむが、懸念されるのは、レーヴデトワールが勝った紫苑Sをステップにして秋華賞を勝った馬がいないこと。過去10年で見ると、3着以内さえ一頭もいない。勝ち馬も、上位馬も、大半がトライアルのローズS(9月21日/阪神・芝1800m)組が締めているのだ。今年も大本命のオークス馬、ヌーヴォレコルト(牝3歳)をはじめ、有力馬のほとんどはローズS組である。

 だからといって、競馬はデータがすべてではない。京都の内回り2000mというトリッキーなコースでは、過去にも前例を覆(くつがえ)すような波乱が数多く起きている。距離は1600mだが、その京都内回りコースで2戦2勝という実績を持つレーヴデトワールが、その波乱の使者になってもおかしくない。再びトラックマンが語る。

「京都内回りのコース形態だと、レーヴデトワールはうまく脚をためられるのでしょう。コース適性がモノを言うレースで、それは大きな武器です。内枠をひいて、これまでのように脚をためることができれば、十分に勝ち負けできると思います」

 はたしてレーヴデトワールは、偉大なる姉が成し遂げられなかった夢をかなえることができるのか。大一番で、姉にも勝る末脚が炸裂することを期待したい。

新山藍朗●文 text by Niiyama Airo