いよいよ本格的な秋の競馬シーズンに突入します。その幕開けを告げるのは、短距離ナンバー1を決めるGIスプリンターズS(10月5日/新潟・芝1200m)です。

  ロードカナロアというスプリント界の絶対的王者が引退した今年、「ポスト・ロードカナロア」の一番手と見られていたのは、ハクサンムーン(牡5歳)。本格 化したロードカナロアに唯一土をつけ(セントウルS/2013年9月8日/阪神・芝1200m)、直後のスプリンターズS(2着。2013年9月29日/ 中山・芝1200m)でもロードカナロアと激戦を演じた強者でした。

 ところが今春の復帰戦、オーシャンS(3月8日/中山・芝 1200m)で13着と凡走し、高松宮記念(3月30日/中京・芝1200m)でも大きく出負けして5着に敗れてしまいました。そして、前哨戦のセントウ ルS(9月14日)では、本来の逃げる競馬ではなく、控える競馬でまずまずの結果(2着)を出したものの、スタートではまたも出遅れ。大外枠だったため、 事なきを得ましたが、真ん中あたりの枠だったらどうなっていたことか......。スムーズに先行して、自分の競馬ができれば最右翼の存在と言えますが、絶対視で きるかというと、微妙なところです。

 高松宮記念を制した春のスプリント王、コパノリチャード(牡4歳)にも同じようなことが言えます。勝 つときは強い競馬で他馬を圧倒しますが、前走の京王杯SC(7着。5月17日/東京・芝1400m)のように、負けるときは見せ場もなくあっさりと大敗し てしまいます。そういうときは、おおよそスタートが今ひとつに終わって、スムーズさを欠いています。

 この2頭に共通するのは、馬込みへの 懸念です。おそらく、ともに他の馬を気にする面があって、外から被(かぶ)されたり、馬込みの中で揉(も)まれたりすると、戦意を失ってしまうのでしょ う。それぞれ、大敗を喫したときはそうした競馬を強いられています。つまり、ハクサンムーンとコパノリチャードが好結果を出すには、「スタート次第」で 「揉まれない競馬」という条件が満たされなければなりません。ゆえに、絶対的な信頼を置くには心許ないのです。

 ところで、今年は中山競馬 場が改修工事のため、新潟競馬場での開催となります。最後の直線は内回りコースでも50mほど中山より長いのですが、平坦の新潟に比べて、急坂のある中山 のほうが、乗り役としては厳しい印象があります。馬場の荒れ方にもよりますが、そうした条件を考えると、やはり先行馬に有利なコースと言えると思います。

 とすると、後方一気の追い込み馬は苦しくなりますね。逆に優位なのは、どんな競馬にも対応できて、器用な脚を持った馬でしょう。好位につけて、馬込みも難なくさばけることができれば申し分ありません。

 その候補に挙げられるのは、ストレイトガール(牝5歳)です。前走の函館SS(6月22日/函館・芝1200m)は不利があって11着に敗れましたが、昨年の夏以降、500万条件から一気にオープンまで駆け上がってきた実力馬。年明けのシルクロードS(2月2日/京都・芝1200m)で重賞初制覇を果たすと、その勢いのまま高松宮記念では1番人気に推されました。

 結果的には3着に終わりましたが、直前の大雨で極悪馬場になったことが、450kgそこそこの牝馬にとっては厳しい条件でした。正直、もし良馬場だったら、勝っていてもおかしくなかったと思います。そのことをより実感できたのが、次走のヴィクトリアマイル(5月18日/東京・芝1600m)でした。結果は3着も、距離を意識したのか、明らかに脚を余していました。最初から勝ちに行く競馬をしていれば、流れひとつ、展開ひとつで、十分に差し切れていたのではないでしょうか。

 このレースを見て、俄然「この馬はGIで勝てる器」だと思いましたね。函館SSは不運な結果となりましたが、その鬱憤と、春の無念をスプリンターズSで晴らしてもおかしくありません。

 さて、このレースの「ヒモ穴馬」には、アイビスSD(8月3日/新潟・芝1000m)を快勝したセイコーライコウ(牡7歳)を取り上げたいと思います。

 前走のアイビスSDはとにかく強い競馬でした。レース半分を過ぎても中団に控えていましたが、残り200mになってから仕掛けると、そのまま一気に突き抜けていきました。いくら得意の舞台とはいえ、千直(直線の芝1000mのレースのこと)のレースで1番人気を背負っていたら、普通あそこまで追い出しを我慢することはありません。鞍上の柴田善臣騎手は、それだけ自信を持っていたのでしょう。

 相手が弱かった、という見方も確かにあります。ただし、千直は能力差がもっとも出にくいコースです。それを踏まえて考えれば、たとえ相手が弱かったとしても、評価できる結果だったと思います。

 7歳馬と高齢ですが、セイコーライコウは4歳の夏からおよそ2年近く休養しています。そのため、まだ24戦しか消化しておらず、スプリンターズSが25戦目。馬体を見ても老いた雰囲気はまったく感じられず、とても若々しいです。

 まさしく今が全盛期。前走時の調子を維持していれば、大いにチャンスはあると思います。

大西直宏●解説