主演のジュリアン役と監督を務めたマチュー・アマルリック/[c]JUNKO

写真拡大

俳優としては『潜水服は蝶の夢を見る』(07)、『007 慰めの報酬』(08)の悪役で、監督としては第63回カンヌ国際映画祭監督賞受賞作『さすらいの女神たち』(10)で知られるマチュー・アマリックが、監督・脚本を手がけた『La Chambre Bleue(原題)』をひっさげ、第52回ニューヨーク映画祭の記者会見にのぞんだ。

【写真を見る】ダブル不倫の末路を描いた『La Chambre Bleue(原題)』

昨年、第26回東京国際映画祭で来日した際に、「私にとっては監督をすることが一番大事なこと」と語っていたマチューが長編第5弾としてメガホンをとったのは、メグレ警部シリーズで知られる作家ジョルジュ・シムノンの小説「La Chambre Bleue(青の寝室)」の映画化作だ。田舎で事業に成功し、妻子とともに幸せな生活を送るジュリアン(マチュー)と、たまたま再会した幼なじみのエステーのダブル不倫の末路を描いた同作で、不倫相手のエステー役にはマチューが実生活で約10年間同棲しているパートナーのステファニー・クレオが扮している。

「3年間も脚本ができあがるのを待っているなんて、そんな不健康なことは僕には無理なんだ。当初はこんな悲劇的な作品だとは思わずに、『昨年の7月には撮りたいから、4月15日までに脚本が欲しい』ってお願いして、予算も時間もない中で、3週間で撮ろうと決めた。僕もステファニーも脚本に加わって、自分達らしさも取り入れたし、書きながら音楽も考えていた」と製作過程を語った。

同作は小説と同様に、最初はジュリアンとエステーの青の部屋でのセックスシーンから始まるが、「ここがまず肝だった。最初のセックスシーンはとても大切だからね。でも作品は、原作と違って物語が時系列を追っていない。あえてテンポを大切にするためにそうしたんだ。ステファニーを不倫相手に選んだのは、彼女と『10年間一緒に暮らしている私たちが、別の立場の男女を演じたら面白いかもね』って話していたのが最初だった。それと、ジュリアンの妻役もエステー役も女優だと、どうしても女優本人のイメージが強くなってしまい、いかにも映画という感じでリアリティーにかけてしまう。それを避けるために、エステー役は、見た人が『この人だれ?』って思うような人にしたかった」とキャスティング秘話を明かした。

主演だけの場合と、監督と主演を兼ねる場合で、演じることに難しさはあるのかという質問に対し、「そんなに違いは感じなかった。演じていない時もステファニーが近くにいてくれたし、スタッフには友人も多いから冗談をいいあっていた。そうじゃなかったら孤独だけどね。特に僕のヌードシーンでは、本来ならとても緊張してしまうが、かなり盛り上がっていたよ。僕が作品の中で妻とベッドに入るシーンで履いていたパンツは、昔ステファニーと一緒に買ったちょっとレトロなもので、突然ステファニーがクスクス笑い出したりしてアットホームな感じだった」と会場の笑いを誘ったかと思えば、「愛や情熱は危険だ。積み上げてきたものをすべて破壊してしまう力がある。人間は正しいと思うことをやっているつもりでも、人生はそううまくはいかないし、誰もが罪を犯す可能性を秘めている」と眼光鋭く熱弁していた。

「普遍的なテーマであることを表現するためにも、医師や弁護士、ホテルの受付、ベッドメイキングの女性など、本当にあの町で働いている人たちに出演してもらった。裁判の場面は、裁判官も本物だし、傍聴人は新聞で公募した一般の人たちなんだ。見終わった後に、皆でいろいろ話してもらえるような作品にしたかったので、エンディングにも疑問を残した。会話が盛り上がることを大いに期待しているよ」と語るマチューのくるくると変わる表情は、さすが演技派俳優と感心させられた。

さすがに冒頭のセックスシーンで大胆ヌードを見せているのはステファニーではなくボディダブルだそうだが、私生活をさらけ出した見返りはしっかり作品に生かされている。【取材・文/NY在住JUNKO】