ファンクラブ・マニア座談会(1)

 巨人の優勝が決まり、パ・リーグはソフトバンクとオリックスが熾烈な優勝争いを繰り広げるなど、ペナントレースも最終盤を迎えているが、東京・神田のとあるベースボール居酒屋では、ペナント以上の熱き討論が繰り広げられていた。集まった3人の男たちは、なんと全員がプロ野球12球団のファンクラブ(FC)全部に入会しているツワモノなのだ。
 メンバーはノンフィクションライターの長谷川晶一氏(書籍『プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた!』の著者・12球団FC歴10年)、デザイナーの鈴木ユキタカ氏(12球団FC歴3年)、そしてベースボール居酒屋の店長・高橋雅光氏(12球団FC歴2年)の3名。
 自身のファン球団のFCに入っているだけでも"なかなか"なことだが、彼らはなぜ、12球団全部のFCに入会したのだろうか!? 3人の熱狂的野球ファンを通じて、恐るべき(!?)「ファンクラブワールド」をのぞいてみよう。

―― 今日はお集まりいただきありがとうございます。みなさんが12球団全部のファンクラブに入るという"暴挙"に打って出たきっかけを教えてください。

長谷川:僕は幼い頃からヤクルトファンだったのですが、2004年の「球界再編騒動」を機に「ファンサービス」とは何なのか?と考えるようになって、それなら12球団のファンクラブ全部に入ってみるのが一番手っ取り早い......と思って入ったんです。我ながらいいアイデアだと、居酒屋でひとりニヤニヤ笑っていたのを今でも覚えています。

―― 完全に酔っ払ってるじゃないですか(笑)。

鈴木:僕は小さい頃からパ・リーグ党で、漠然と「全球団のFCに入ったら楽しいだろうなぁ」と考えていたんですけど、2011年に『野球小僧』(現在は『野球太郎』)という雑誌を読んだときに、目の前にいる長谷川さんが全球団のファンクラブに入っているという記事を見て「これはやられた!」と驚き半分、悔しさ半分で、自分もその次の年から全球団に入ることにしたんです。

―― そこで「やられた!」と思った鈴木さんがスゴイと思います(笑)。

高橋:僕の場合は完全に営利目的ですね(笑)。もともと楽天ファンですが、2013年にこの店を立ち上げた際、他のうい8野球居酒屋との差別化をどうしようと考えたときに「行けば色んな球団の情報が手に入る店」はいいなあと思って全球団のFCに入りました。

―― 三者三様ですね。実際に12球団のファンクラブ全部に入ってみて、良かったことはどんなことがありますか?

高橋:野球との関わりが変わりましたね。特典グッズや会報、メルマガなど「全球団から何かが届く」ことで、すべての球団に「身内感」を持てるようになったことですね。いまだに楽天ファンではあるんですけど、そのほかの11球団も他人ではない感覚というか。

長谷川:僕も一緒で、全球団と遠い親戚になった感覚ですよね。北海道から福岡まで、色々な球場に試合を見に行くようになったんですけど、「ちょっとご無沙汰しているおじさんに会いに行こう」とか、「今年もお墓参りに行かなくちゃな」っていう感覚に似てるんですよね(笑)。

鈴木:おっしゃる通り、僕も去年の楽天の日本一は心から嬉しかったですね。長谷川さんも著書の中でおっしゃっている「マザーテレサ」の心境ですね。あとは球団によってカラーがまるっきり違うので、そのあたりが見えてきたのは面白かったですね。グッズの発送ひとつとっても、ソフトバンクや巨人は無駄なく一括して発送してくるのに、どうしてヤクルトはいつも最初に会員カードだけ送ってきて、グッズは後からと効率が悪いんだろう...とか(笑)。

長谷川:そうそう。ヤクルトは毎年、カードだけ先なんだよねぇ。そんなに慌てなくてもいいのに(笑)。

―― なんだか皆さん、とても楽しそうですね。逆に12球団のファンクラブに入っていて、困ったことはありませんか?

高橋:僕はまだ2年目ですけど、強いていうなら、とにかく継続の更新手続きが意外と面倒くさいなと(笑)。球団ごとに手続き方法がまったく違うんで、どこを更新して、どこがまだ更新してないのかがまったくわからなくなるんですよね。

鈴木:ですよね。多くの球団がカードで自動決済できるのに、どうして広島だけコンビニじゃないと手続きできないんだとか(笑)。まぁ、このバラバラ感が面白いところでもあるんですけど。

長谷川:日本ハムは自動決済なんですけど、特に通知とかがないんで、本当に継続できているのかが最後までわからなくて、自分で「できてますか?」って電話しちゃいましたからね。あれは改善してほしいなぁ。

鈴木:あと、困ったことといえば全球団に登録してるんで、メルマガが鬼のように届くことですかね。

長谷川:特に広島の「1イニング速報」はすぐたまりますよね。

高橋:必ず最初の文面が「打ったのはストレート」ってやつで(笑)。あと阪神も試合終了後に必ず結果を送ってきますよね。

鈴木:きますね。僕はあれ解除しちゃいました(笑)。

長谷川:昔、ヤクルトは「試合結果」とか「イニング速報」とか「ホームラン」とか、欲しい情報が設定できたときがあって、ためしに「安打」で設定してみたら、もう迷惑メールのように絶え間なくケータイにメールが届いて大変でした(笑)。

高橋:巨人は球団のカラーを反映しているのか、メルマガもかなり豪華ですよね。カラー写真付きでかなり立派な作りになってるし。

長谷川:巨人の「あなたの選んだヒーローがお立ち台に立ちました」メールはちょっと嬉しい。選んだ選手がお立ち台に上がるとポイント(※)がたまるんですよね。
※ポイントがたまると様々なグッズ等と交換できる

鈴木:日本ハムは自分の誕生日に、自分が「好きな選手登録」でセレクトした一番メインの選手から「誕生日おめでとう」みたいな壁紙を送ってくれるんですよ。今年はケーキを持って、にこやかな表情の武田勝の写真が届きました(笑)。

長谷川:それいいですよね。今、誕生日にそういうのを送ってくれるのって日本ハムだけですかね? 横浜は昔、ハガキを送ってくれてたんです。僕はいつも「長谷川さん、誕生日おめでとう」って1歳年下の種田にお祝いされてました(笑)。

「12球団FCに入って困った話」がいつしか「嬉しかった話」に変わっているような気がしないでもないが、座談会はさらにヒートアップしていくのであった。
(つづく)

取材・撮影協力/ベースボール居酒屋リリーズ神田スタジアム

スポルティーバ●文 text by Sportiva