2014年09月26日
TEXT:片岡義明

WebサイトやEコマースの分野における次世代サービスが一堂に会したイベント「THE WEB EC SUMMIT 2014」が25日、東京・港区の品川コクヨホールにて開催された。

同サミットは今年で初の開催となるイベントで、ネットショップ構築ツール「BASE」を運営するBASE株式会社、オンラインストア作成サービス「STORES.jp」を提供する株式会社ブラケット、Web制作ツールのクラウド版「BiNDクラウド」を提供する株式会社デジタルステージ、ハンドメイド作品の展示・売買サービス「minne」を提供するGMOペパボ株式会社、Web作成サービス「Jimdo」を提供する株式会社KDDIウェブコミュニケーションズの5社が参加しており、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が共催している。

同イベントでは、「明日から使える成功するためのヒント」を各サービスの責任者が伝えることにより、サービス提供側だからこそわかるWebサイトやECサイトを使って成功するためのカギを持ち帰ってもらうことをコンセプトとしており、WebクリエイターやEC事業者、小売店など、Webビジネスにかかわるさまざまな人が集まった。参加者数は290人。


会場となったコクヨホール


公式サイト
http://www.webecsummit.com/

当日は13時からスタート。前半はスピーカーがひとりずつ登壇し、Webビジネスの展望や自社の取り組みを紹介した。以下に講演内容を紹介する。

■「オンラインビジネスにおける『成功』とは?」
スピーカー:中小機構 販路開拓支援アドバイザー 河野吉雄氏

最初にインターネット市場拡大とサービスの変遷を紹介。ECサイトは90年代後半に登場し、当初ユーザーは「調べる・利用する」という用途で使っていたが、そこからSNSや掲示板により、「参加する・つながる」という体験ができるようになった。そして今は「発信する・生み出す」という時代になっており、ユーザーはつながりの中で新しい価値を発信したがっている。そのような環境におけるネットビジネスの成功の定義として、河野氏は「ネットショップで売上げアップ」「海外への販路拡大」「ファンとの交流&顧客の囲い込み」「時間と場所を気にせず顧客サポート」を挙げた。いずれも共通しているのは「ユーザーファースト、顧客目線でのWeb目線」であり、それらを実現していくためのポイントとして、「顧客との接触機会をたくさんもつ」「顧客のメリットを具体的に伝える」「顧客を楽しませて、ファンにする」の3点を挙げた。その上で、今日のイベントで紹介する各社のツールやサービスは、単なるWebサイト構築ツールではなく、顧客をもてなすための接客ツールである、と締めくくった。


中小機構の河野氏



■「小さな可能性を大きな力へ 〜 BASE 〜」
スピーカー:BASE株式会社 COO 進浩人氏

進氏は冒頭で、ネット構築ツール「BASE」を利用してECサイトを立ち上げた人たちのコメントを紹介。ECにおける成功の秘訣については、テクニックは数多くあり、それはそれで大事だが、「今は『誰から買うか』が大切になってきており、そのためにはショップをはじめた“きっかけ”や“思い”を大切にしてほしい」と語った。顧客はそのような店の思いに共感し、ショップに訪れ、ファンになって購入してもらえるのであり、BASEを利用して開設した店舗の中で長く生き残っているのは、やはりそのような“ストーリー”を伝えるために、自分たちに合ったツールをうまく使っている店だという。そしてBASEもまたそうでありたいと思っており、「誰もが簡単に無料で開設できるネットショップ構築サービスを提供したい」という最初の思いを忘れずに、プラットフォーマーとして、ネットショップオーナーの思いを伝えていきたいと語った。さらに、BASEのサービスについて詳しく解説するとともに、ネットショップ解説・運営・販促のノウハウを紹介する相談窓口「BASE U」についても紹介した。


BASEの進氏



■「STORES.jpでできること」
スピーカー:株式会社ブラケット デザイナー 河原香奈子氏

河原氏は、「STORES.jp」のユーザー体験をどのようにデザインしているかを解説。「STORES.jp」のサービスを紹介した上で、同サービスで可能になることとして、「ECサイト制作の知識がなくても、簡単にオンラインストアをつくれる」「ニュース機能やシール機能、オーダーCSV、年齢制限など、さまざまな機能を必要なときに必要なぶんだけ付け足すことができる」「スイッチをONにするだけで商品を宣伝できるプロモーション機能」「ストアのオーナーや顧客がオンラインストアをフォローすることができる」といった利点を挙げた。さらに、同サービスは「ブログのオンラインストア版」というコンセプトで、「ひとり1オンラインストアをもっている文化」をつくることを目指しており、今後もシンプル・簡単・自由というコンセプトで取り組んでいきたいと語った。


ブラケットの河原氏



■「BiNDクラウドが掲げるWebの未来」
スピーカー:
株式会社デジタルステージ 代表取締役 熊崎隆人氏
株式会社デジタルステージ プロジェクトマネージャー 弓削伸弘氏

初めに熊崎氏が、8月にサービスを開始したばかりの「BiND クラウド」について紹介。「8年前にBiNDをつくったときからクラウド化は考えていたが、ようやく技術が追い付いてきた。BiNDクラウドはインストール不要で、完全にブラウザ上で利用できる」とアピールした上で、誰でも簡単に使える「Smart Mode」やスライドショー作成機能「SHiFT」、画像編集機能「SiGN」、外部Webサービス連携「SYNC」、ショピングカート機能の「BiND Cart」、素材提供サービス「materials」などについて紹介した。また、メール機能やレンタルサーバ機能を備えているほか、デザインオーダーにこだわったテンプレートを揃えていて、自由にカスタマイズできることをも紹介した。

続いて弓削氏が、開発者としてBiNDクラウドの機能を実演し、今後の展望を語った。弓削氏はWebの未来を意識した機能として、「他社Webサービスと連携」「スマートフォンデバイスとの親和性」「Webアプリの利点を生かす」「BiNDクラウドデータの連携」の4点を挙げた。そして同社が考える未来として、「Web上でコンテンツを集めて、さらなる魅力を引き出してホームページへと発展させ、そこに人を集めていく。そのようなツールになっていけたらいいと思う」と語った。


デジタルステージの熊崎氏(左)と弓削氏(右)



■「売りたいものではなく知りたいことを提供」
スピーカー:株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ SMB事業本部 本部長 神森勉氏

「Webサイト運営者が伝えるべきこととはなにか」というテーマについて語った神森氏。「Webサイトにおいて重要なことは、ユーザーに売りたいものではなく、ユーザーが欲しい情報を提供すること」と語った。その上で、Jimdoのコンセプトは「文字が打てれば作成できる」「すべての人にホームページを」であり、専門用語やスキルは不要、編集はブラウザだけで完結することなどをアピールした。スマートフォンにも対応しており、専用アプリで編集できることや、無料からの3プランが用意されていることなどを紹介した。また、成功しているユーザー事例として、仏師がつくったECサイトを例に挙げて、FacebookやYouTubeとリンクさせることにより、海外から注文が来たり、女性からの問い合わせや検索エンジンからの受注が増えたりするなど、従来の顧客層と異なる層にリーチできたことを紹介。ホームページまでの道筋をつくってランディングページへ誘導することの大切さを強調した。


株式会社KDDIウェブコミュニケーションズの神森氏



第2部ではパネルディスカッションがふたつ開催された。第1部の登壇者に加えて新たなパネリストも加わり、ECサービスやWeb作成サービスの現状や未来について活発な議論が繰り広げられた。

■パネルディスカッション1
「オンラインビジネス成功のためのツールとは?」

パネリスト:
株式会社デジタルステージ 代表取締役 熊崎隆人氏
株式会社ブラケット 取締役 塚原文奈氏
株式会社KDDIウェブ コミュニケーションズ 取締役副社長 高畑哲平氏

モデレーター:株式会社東洋経済新報社 東洋経済オンライン編集長 山田俊浩氏


(左から)山田氏、熊崎氏、塚原氏、高畑氏

最初のテーマは「大手サービスに依存せず、さまざまなサービスを使ったメリット」。熊崎氏は、「ITは多様化しており、どれだけ差別化していくかが重要。BiNDクラウドはソリューションでありながらオリジナリティをどれだけ出せるかという点をがんばっており、そこに利用する意味がある」とコメント。塚原氏は「モノを販売している人は『自分たちの商品を知ってほしい』という強い思いをもっているので、自分たちで独立した店をもつことで表現の幅が広がる」。高畑氏は「大手のECサイトの落とし穴は、ユーザーに店の名を覚えてもらいにくく、価格競争にも巻き込まれやすいこと。ファンとのコミュニケーションを大切にして、それを購買活動につなげていこうという場合は、むしろ個人店のほうが接しやすいと思うし、逆に価格競争で勝つ自信があるのならば、大手のほうがトラフィックが圧倒的に多いので、そういう場で勝負するのもありだと思う」と語った。

「PCとモバイル、それぞれの特性」というテーマについては、「私たちはモバイル・ファーストという考え方でシステムを作っている。iPhone 6/6 Plusをはじめとしたモバイルデバイスは画面サイズがまちまちで操作感も違うのでUIの設計が難しい。PCとまったく同じボリュームのものをそのまま投入すると文字がぎっしりになってしまう。BiNDクラウドも今度レスポンシブ対応になるが、すべて共通にするか、画面サイズごとに最適値を選ぶかをチョイスする時代になる」と熊崎氏。一方、塚原氏は、「私たちは誰でも簡単に使えることをテーマにしているので、PCかスマートフォンかという選択肢を取り除いている。それぞれ型があって、どちらも勝手に自動化される仕組みになっているので、ストアオーナーはなにも考えなくてすむ。そうは言ってもiPhone 6で大きさが変わっているという状況もあるので、どれくらい最適化させるのか、どこを標準にしていくのかというのはまだこれからだと思う」と語った。

高畑氏は「画面サイズの問題だけではなく、スマートフォンは地域によっても使われ方がまったく違う。多くの人が電車の中でスマートフォンを見ているのは東京くらいで、たとえばシドニーではだれも車内で携帯は見ておらず、外の景色を眺めている。日本の地方都市でも、車で移動している人は移動中にスマートフォンを操作できない。そのような多様な使われ方がある中で、それぞれの利用シーンを正確に考えられる人はページをカスタマイズしたほうがいいけど、そうでない人はツールがもっている自動最適化機能に任せてしまうほうがいいと思う。ただ、それだけだとすくいきれない人も出てくるので、PCモードに切り替えるボタンを用意することも必要」と語った。

さらに、「SNSの効果的な使い方」というテーマでは、熊崎氏は「SNSは使われるサービスが時代によって変わっていくので、ユーザーが現状でなにを使っているか、時代を読んで、それぞれのメディア特性を考えて販促手段を見極める力が必要」とコメント。塚原氏は、「SNSはどれも基本的にコミュニケーションツールなので、顧客とのコミュニケーションを取るためのツールとして使うことが大切。顧客に興味をもってもらうコンテンツを流したり、たくさんのファンを増やすような施策として使うのがいいと思う」と語った。高畑氏は、「ソーシャルメディアはファンとのコミュニケーションツールであり、そこで無理に売り込もうとすると失敗するので、8〜9割はコミュニケーションに当てて、残りの1割でWebサイトに引っ張ってくる、これがうまい使い方だと思う」と語った。

「おすすめの販促手段」としては、熊崎氏は「会社でいちばん力を入れているのはメール。HTMLメールの到達率、開封率を上げるのはどうしたらいいのか、生きたメールアドレスを取得するにはどうすればいいのか、訴求力の高いHTMLメールをいかに簡単に送ることができるかが成功の秘訣だと思う。メールに8割くらい力を入れるのがおすすめで、今はメールがもっともコンバージョンが取れる」と語った。塚原氏は、「写真がきれいであればあるほど売上は上がりやすい。STORES.jpは無料でプロに写真を撮ってもらうサービスを提供していて、これを利用することで売上が2倍になった店もあるし、そうでなくても商品の一覧ページから詳細ページに移るアクション率も向上する」。高畑氏は、「いちばん重要視していただきたいのが、見出しやタイトル。長い文章は誰でも読まないので、見出しを本気で考える、商品について短くて簡潔に書くだけで一気にコンバージョンが変わっていくので、新聞やネットメディアを参考にすることが大切」と語った。

■パネルディスカッション 2
「ネットショップの変遷から見る、ネットショップ成功のカギ」

パネリスト:
GMOペパボ株式会社 代表取締役社長 佐藤健太郎氏
BASE株式会社 代表取締役 鶴岡裕太氏

モデレーター:株式会社技術評論社 クロスメディア事業部 電子出版推進室 室長 馮富久氏


(左から)馮氏、佐藤氏、鶴岡氏

馮氏はこれまでのEコマースの進化を振り返った上で、現在はECのサービスが日本だけでなく海外に広がっていることについて言及。海外への対応について佐藤氏は、「明らかに中国とアメリカのほうが人口が多くて、それだけモノを買う人の数が多い。そうした中で海外への販路を広める場合に、いきなり現地に行くのはたいへんなので、まずはECからはじめて攻めていこう、という人が最近増えている」と語った。一方、鶴岡氏は、「海外対応はやりたいが、言語や法律などが違うので、中途半端ではダメかなと。いまは少しずつ取り組んでいる状況だが、いずれはきちんとやると思う」と抱負を語った。

「ECサービスを利用するメリット」というテーマについては、「GMOペパボの場合は属性によってECサービスをわけているが、これこそECならではのメリットではないか」という馮氏の問いかけに対して佐藤氏は、「ネットは表現ツールであり、その表現の仕方には色々なものがあって、たとえば縛られていたほうがおもしろいものができる場合もある。ECについても“ハンドメイドがいい”とか“海外に売りたい”とか縛ることによってターゲットを絞ることにより可能性が広がる」とコメント。鶴岡氏は、「BASEは“ぼくの母親でもつくれる”というのをコンセプトにしていて、そういうユーザーさんには最適化されていると思っている」と語った。

さらに、これからECをはじめる人たちに向けたメッセージとして、鶴岡氏は「リアルだと場所や技術などの環境に制限されるので、そういう概念を無くせるような世界をつくりたい。インターネットは環境に左右されず、あらゆる人が平等にすべての仕組みを使って、自分のつくり出しているすばらしいプロダクトを世界中の人に売れるのがメリットで、そこに尽きると思う」と語った。一方、佐藤氏は、「オンライン上だと自分が売っている店のファンをつくりやすい。リアルだとブログやメールがないので、コミュニケーションを1対1でつくるのは時間がかかってしまうし、うまくファンづくりができるのはECのメリットで、成功している人たちはそういうことを意識している」と語った。

■URL
THE WEB EC SUMMIT 2014
URL:http://www.webecsummit.com/
2014/09/26