沖合たこかご漁業の試験操業の様子(写真提供:福島県)

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魚好きなら「常磐もの」(じょうばんもの)を知っているだろう。常磐ものとは、福島県など常磐沿岸で水揚げされる魚介類のことで、ヒラメやカレイが代表的。原発事故以前は築地市場などでも高く評価されていたブランドだ。

いま、常磐ものの復活に向け、「試験操業」という取り組みが福島でなされているのをご存じだろうか? 先日、メディア向けにセミナーが開催され、漁業復興に向けた取り組みに関する説明があった。最新状況を紹介しよう。

■福島の魚はどのくらい安全なのか?
まず、一番気になるのは魚介類への放射性物質の影響だろう。福島の魚と聞くだけで、危険なのでは? と思う人もいるかもしれない。現在、県では県漁連などと協力し、毎週モニタリング検査を実施しており、その結果はすべて福島県が運営するサイト「ふくしま新発売。」で公表されている。

福島県水産試験場の漁場環境部長である藤田恒雄さんによれば、これまでに検査した海産魚のうち、100Bq/kgを超えたのは約1割。正確にいうと、178種類2万559件のうち、73種類2049件が100Bq/kgを超えたという。

1割と聞くと多いように感じるかもしれないが、これは2011年4月〜2014年8月まで全期間の数字であることに注意したい。100Bq/kg超えの割合は時間と共に低下しており、今では100件やって1件でるかどうかというところ。約8割は不検出だという。

もちろん、すべての魚介類が同じように低下しているのではない。低下が速いのは、シラスのように世代交代が早い魚や、キチジやメヒカリのような深いところに生息する魚など。一方で、スズキやヒラメなど、主に沿岸に生息し、定着性の強い魚は、今でもやや高い傾向にあるそうだ。

■海の魚はどうやってセシウムを体にとりこむのか?
一般的な魚は海水の塩分濃度よりも体の塩分濃度のほうが低いため、そのままでは塩漬けになってしまう。そのため、海水魚は海水を飲み続けており、もし海水が汚れていると、塩類として、飲む水からとりこんでしまうそうだ。

「われわれ人間が海で遭難したときに海水を飲むのは自殺行為といわれますが、海水魚は非常に適応しており、海水を飲んで真水だけを体に取り入れ、過剰な塩分をエラから排出しています」と藤田さん。
他に、汚染されたエサを食べるというルートもあるが、飲む海水の量が体重の20〜30%相当であるのに対し、エサはせいぜい1〜2%にすぎない。基本的に、セシウムはある程度の期間で体外に排出され、蓄積し続けるものではないため、魚の放射性セシウム濃度は海水の濃度に依存する。海水が汚れていればその影響は大きく、逆に海水がきれいになれば数値も低下するというわけだ。

■今後の課題は?
汚染水は現在も漏れ続けているが、そのインパクトは大きくなく、魚介類への新たな影響はほぼないと考えられている。水産庁の発表によれば2011年4月1日〜2011年4月6日の6日間で漏れた放射性セシウム-137はなんと約940兆ベクレル。それに対し、2011年5月からの約800日間に漏れたのは、1〜20兆ベクレル。いかに最初の6日間のインパクトが強かったかがわかる。

「だからといって、漏らし続けていいというわけではもちろんありません。まさに現在、問題となっている風評の原因となっているのが、“今も漏れ続けている”という報道であり一刻も早く完全にとめることが必要です」
安全の確保についてはある程度見通しがたってきたので、これからは安心の確保のために取り組んでいきたいとのこと。

「魚介類の汚染は着実に収束に向かっている。安全だけれども安心できないというのは、心の問題。それから情報不足もあると思います。これは非常に大きな問題ですが、風評対策として科学的な根拠に基づいてPRしていきたいと思います」と藤田さんも意欲をみせる。

■試験操業って何?
モニタリングによって安全が確認されている魚種もあることをうけ、2012年からは「試験操業」という、漁業復興に向けた取り組みが始まっている。これは、限定した魚種について、小規模な操業と販売を試験的に実施するもの。出荷先での評価を調査したり、福島の魚の安全性をアピールするのが目的だ。

獲った魚は相馬・双葉地区といわき地区にある機器でスクリーニング検査を実施している。本来は、基準値以内であれば出荷の対象となるが、福島県漁業協同組合連合会の常務理事である中田研二さんの説明によれば、検査は検出下限値が10Bq/kg前後になるよう設定しており、試験操業においては、県漁連独自の出荷方針として50Bq/kg以下出荷の自主基準を設けているとのこと。

試験操業の対象魚種は、スタート時はわずか3種だったが、2014年9月現在は51種にまで広がった。ちなみに、対象となる魚の種類や流通計画などは、かなり多くの段階を経て慎重に協議し、決定しているとのこと。試験操業による流通量は2014年6月現在で約390トン。震災前の2万5000トンには遠くおよばないものの、着実に増加はしつつある。

本格操業に向けては検査体制の整備などさまざまな課題もあるが、まずは私たち消費者が安全性や自主検査の取り組みについて正しく知ることも大切だろう。
(古屋江美子)