牛丼チェーン店「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングスは2020年2月5日、吉野家における2020年1月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その内容によると既存店ベースでの売上高は、前年同月比でプラス9.5%となった。これは前回月から継続する形で、11か月連続のプラスとなる。牛丼御三家と呼ばれる日本国内の主要牛丼チェーン店3社のうち吉野屋以外の企業の状況を確認すると、松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」の同年1月における売上前年同月比はプラス8.0%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はプラス1.9%との値が発表された。今回月は売上高では全社がプラスを示す形となった(【吉野家月次発表ページ】)。

前年同月比、そして前々年同月比試算で各社現状を精査


牛丼御三家の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項が無い限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。


↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前年同月比)(2020年1月)

このグラフで概況をまとめた上で、まず最初に吉野家の状況の確認を行うことにする。前年同月(2019年1月分)の記事、データを基に営業成績を比較すると、一年前の前年同月比の客数はマイナス4.5%、客単価はプラス1.3%、売上高はマイナス3.3%。よって今回月では客単価でマイナス、客数と売上高においてプラスの補正がかかることになる。

今回月においては2020年1月8日から牛丼の注文様式で「ねぎだく」を開始、1月29日からは定食の拡充施策を実施し、牛丼以外の集客アイテムの強化を始めている。結果として客数はプラス6.2%、客単価はプラス3.1%となり、売上はプラス9.5%を示した。

昨今の動向を視点を変えて眺めると、興味深い結果も導き出せる。昨今では吉野家に限らず各社とも客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることもあり、反動による前年同月比の変化の影響が多分に生じている。その影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年にわたった変化率であることから、ここから年平均を求めるにはルート換算をすればよい。例えば吉野家なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると2.9%のプラスとなる。松屋なら5.1%のプラス。


↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前々年同月比)(2020年1月)

2年越しに見れば吉野家の今回月の営業成績は、客単価はそこそこ好調、客数・売上高は好調であることがうかがえる。

前年同月比だけでなく、前々年同月比で見ても、3社が主力商品の値上げによって客単価の引き上げを行い、客数の減少を補い(あるいは客数減少を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上高を維持しているようすが把握できる。中でも松屋は2年前同月比でも売上でプラスを示し続けており、調整を終えた感は強い。すき家は松屋に続く形で2年前同月比での売上プラスを示し続けている。すき家も調整終了と見てよいだろう。さらに吉野家も松屋に遅れる形ではあるが2018年11月以降、2年前同月比でプラスを示していることから、

続いて松屋。今件記事、あるいは店舗数などを精査する連動記事などでも触れている通り、松屋が運用するとんかつ系の店舗松のや・松乃家・チキン亭の専用公式サイトを2016年7月末にオープンして本腰の入れ具合を改めてアピールする一方で(今記事における松屋の既存店のデータに関しては、2008年4月以降はとんかつ事業、鮨事業、その他業態の既存店は除いてある)、今回月では2019年末に品切れにより一時販売休止状態だった「ビーフシチュー定食」について2020年1月7日から販売再開、同日からは「うまとろ豚たま牛めし」、1月28日からは「選べる小鉢のプルコギ定食」の販売を開始している。さらに1月14日からは何かと話題に上った「シュクメルリ鍋定食」の全店舗での販売を始めている。

結果として2020年1月の業績は客数がプラス6.3%、客単価はプラス3.5%となり、売上はプラス8.0%に。2年前同月比では売上はプラス10.4%と好調な結果に。

最後にすき家。2020年1月22日からは「とろうま豚中華丼」「仙草ゼリー」の販売を開始している。さらに1月1日からは繰り返し牛丼・カレーなどが割引できる「Sukipass」の第19弾の販売を開始。短期間に繰り返し使えるチケットの販売でリピーターを確保する手法がトレンドのようだ。単価アップによる客数減を補う方法論としては悪くはない。もっともすき家はここ数か月、毎月のように「Sukipass」を販売しており、常用化している感はある。実際、2020年2月1日からは第20弾の発売を始めている。

結果として客数はプラス0.9%、客単価はプラス1.0%となり、売上はプラス1.9%を示した。2年前同月比では売上高はプラス5.7%。


↑ 牛丼御三家売上高(既存店、前年同月比)

売上高の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外はおおよそ横ばいに推移している。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。ここ1年ばかりは松屋とすき家は売上でおおよそプラスを維持しており、先に言及した調整終了感を覚えさせる。

吉野家に限ると(鍋以外でも)単月で大きくぶれる傾向があり、全体的にもマイナスの領域にいる機会が多かった。2017年10月のように台風のようなイレギュラー的起因に加えて前年同月における特需の反動があり、目立つ形での大幅減が生じるようなパターンが少なくない。経営施策の上で安定感にやや欠けると解釈することもできる。それゆえに、2018年2月のプラス30%超え(ソフトバンクとのコラボ企画「SUPER FRIDAY」によるもの)がひときわ目立つのもまた吉野家らしいところではある。

もっとも2017年11月以降は(前年同月のマイナスからの反動も一因だが)売上高をプラスのままで維持し続けており、ようやく安定感が見えてきたかな、という感はあった。それゆえに2018年10月以降の客数と売上高のマイナスが継続したのは、意外さを覚えざるを得ない。2019年3月では売上・客数ともに、4月以降は客数こそマイナスの月もあるが売上はプラスと示しているのに加え、上記で示したように売上高の2年前同月比では2018年11月分以降プラスを継続しているので、杞憂かもしれないが。

客数の減少・客単価の増加は戦略転換によるものに違いなく


次に示すのは各社の客数動向。ここ数年において何度か生じている小規模な跳ね方は、何らかのイベントによるもの。2015年10月の松屋とすき家は牛めし・牛丼の期間限定の値引き、2016年10月と2018年2月の吉野家の急上昇はソフトバンクとのタイアップ企画の成果によるもの。取得できている2006年1月分以降に限れば、客数の前年同月比が5割以上のプラスを示したのは2018年2月が初めて。


↑ 牛丼御三家客数(既存店、前年同月比)

低迷していた客数が前年同月比でプラスに戻り始めたのは、松屋では2015年10月からとなっている。2017年秋以降は前年同月の反動からわずかなマイナスに転じているのが気になるところだが、これは2年前同月比の動向からも分かる通り、絶対数として安定期に入ったとの解釈もできる。あるいは単価を引き上げつつ売上高を維持する過程での調整時期なのか。それゆえに、2018年9月以降プラスがおおよそ続いているのは好ましい傾向ではある。

他方すき家は2016年においては上げ下げが続いており不安定感は否めなかったが、2017年に入ってからはプラス圏へと浮上の機会をうかがう動き。2018年後半以降はすっかりプラスでの安定感を見せている。

吉野家は2016年2月からプラス圏に顔を見せ始めたが、2016年の後半以降は大きな上下を繰り返しており、2017年頭からはほぼマイナス圏に沈んだ。2018年初頭以降のプラス圏入りは前年同月の反動によるところが大きく、復調したか否かはもう少しようすを見極める必要がある。

中期的な流れを見ると、単純な前年同月比だけでなく、2年前同月比の試算結果でも、各社とも規模、結果に違いがあれど、客単価増・客数減となる方向性を示して「いた」。客数だけを見ればゼロ以下の薄いオレンジ色の領域にある機会が多かったことから「低迷していた」との判断に至るが、売上は横ばい、客単価は上昇との情報を併せみると、新たな側面、具体的には客数と客単価における新たなバランスへのシフトの動きも見えてくる。

松屋は2015年の末ぐらいから、客数・客単価ともに大きな幅では無いもののおおよそプラスを示し続けている。マイナス圏でもほんのわずかで誤差の領域・2年前同月比を試算すると反動の範囲内。1年以上も経過していることから単なる反動の領域はすでに超えている。「バランス調整」を終え安定期に入り、次なるステップに歩みを進めているように見える。すき家も松屋に続き、その流れにシフトしたと解釈してよさそうだ。すき家の2017年11月における値上げはその調整終了を見越した上でのものである可能性も否定できず、松屋が2018年4月からの値上げをしたのも、それが遠因と解釈することもできる。つまり「次なるステップ」は商品価格の引き上げとする見方だ(それがメインなのか、あるいは別の施策のための土台作りなのかは不明だが)。

ただし最近は松屋では前年の反動の部分があるとはいえ、2017年9月から2018年8月まで連続して客数が前年同月比でマイナスを見せ、焦りを覚えて何か客入りを期待できる施策を打ち出してくる予兆が見受けられた。【松屋でついに牛鍋膳が登場】でも伝えたが、鍋メニューの「牛鍋膳」を原則全店舗で展開し、さらに続々と新しい鍋膳を展開し始めたのも、これが要因かもしれない。2018年9月以降はおおよそプラスに転じているのが幸いだが。

そして松屋に関しては【松屋の省マンパワー化】や【松屋フーズが堅調らしい】にある通り、運用スタイルをセルフサービス型にシフトしつつあり、これが好調な成績を収めているとのこと。客のストレス減少や回転率の向上が、客数の増加につながっているのであれば、大いに注目すべき動きに違いない。あるいはこのセルフサービス型店舗の浸透が、松屋の「次なるステップ」だった可能性はある。今回月も含めたここ数か月の客数の伸びのよさも、これが影響している可能性はある。結局のところお客が牛丼店に求めているものは何なのか、それを突き詰めた結果としての回答の一つがセルフサービス型の店舗なのかもしれない。

吉野家は客数の変動が大きく、客単価と客数のバランス調整に苦慮しているようだ。相次ぐ大型タイアップ企画に代表されるように、何とかリカバリーをしようと多彩なイベントを繰り出している感は強い。先の「特撰 すきやき重」の大成功、特に客数の底上げという実情を見るに、吉野家らしさを残したインパクトのある商品展開で、確かな集客効果を得られるとの学習をした可能性はある。

また昨今の新商品やサービス展開を見るに、牛丼にイメージしがちな安かろう・悪かろう的な非健康的印象を払拭し、健康的な食生活の中に牛丼を据えさせようとの意図も見受けられる。2017年9月からスタートした「晩ごはん」や、矢継ぎ早に提供している機能性表示食品などが好例。その施策が的を射たものとなるか否かは今後の業績次第。2020年1月から始まった大規模な定食へのテコ入れ・拡充策を見るに、牛丼だけの推進力に限界を感じ、牛丼以外のメニューに本腰を入れるつもりなのかもしれない。今後さらに増えるであろう利用客予備層となる中年から高齢層向けには、牛丼よりも定食の方がウケはよいだろう。

卵が先か鶏が先かの問題に近いものだが、震災以降顕著化している消費者の消費性向の変化に伴う、廉価スタイルの外食産業全般からの客足の遠のきに対し、各社とも価格面で一歩上のステージに上がることにより、時代の変化に対応しようとしている。これまで同様に廉価外食店の様式では客数が減るばかりで、客単価がそのまま維持されたのでは、当然厳しさを増してくる。ならば客数の減少が一時的に加速化しようとも、営業様式の格付けをアップし、売上の点で帳尻を合わせようとするものである。逆に品質の高いブランド化が果たせれば、新規層の開拓につながる可能性もある。

客単価の引き上げで客数の減りをカバーして売上、利益を維持する場合、これまでの「薄利多売」と比べて客数が減った時の売上の減退リスクは大きくなる(同じ人数が減った時の、売上の減少額が大きくなる)。しかし店員の接客時における負担は軽減される(単純な人数減少以外に、客単価が高い方が客のマナーはよくなる傾向がある)。間接的にサービスの品質向上も期待できる。商品在庫のリスクや物流コストも圧縮されうる。

類似業界としてよく比較されるハンバーガーチェーン店では、かつて方向性の確定に苦慮していたマクドナルドが苦戦を強いられていた。最近では独自色の軸(具体的には定番メニューを廉価で提供するとともに、高単価で魅力的な期間限定メニューを相次ぎ投入する)を確立し、迷走を終え、自らの個性を磨きながら強い歩みを見せている。

店舗数動向においても、松屋では牛丼専門店はほぼ横ばいのまま、フライ系店舗を漸増させており、店舗業態の上でも多様化の方向性にあるようにみえる。あるいはフライ系店舗など牛丼以外の業態店舗への注力増加こそが、次なる施策なのかもしれない。また牛丼店舗におけるセルフサービス化も、割り切りによる業務の効率化の観点では、まさに「次なる施策」の一つに違いない。

カードといえばすき家の「Sukipass」が大いに効果を発揮しているようで、利益はまた別の話だが、少なくとも売上の点では堅調な値を示していることもあり、2020年2月で20回の発売をしている。吉野家もLINEを用いた連続クーポンの発行を開始したり、OrigamiPayの導入を始め、同様の施策を探っている感はある。「お得感を所有させる」戦略は常連客の形成には手っ取り早い方法であり、それは同時に囲い込みをも意味するからだ。