「抜本的」なのか、「骨抜き」にされたのか──。TPPの早期締結を目指す政府は「農協改革」を持ち出し、強大な“圧力団体”に揺さぶりをかけた。受けて立つ農協のドンは‥‥。生産者不在の「農協解体バトル」に、当の農家からは怒りの声が上がっているのだ。

「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)でうまくいかないから、こちら(農協改革)で取り返そうとしているのでは‥‥」

「何を言っているんだ、小僧!」

 6月10日、自民党農林関係合同部会で罵声が飛び交った。皮肉めいた批判を口にした木村義雄参院議員に対し、TPP推進派の西川公也衆院議員が「小僧」と応戦したのだ。

 木村氏が66歳、西川氏は71歳である。両者ともに「小僧」呼ばわりされる年齢でもなければ、公の場で「小僧」と罵るような無分別な年頃でもない。そこまで白熱したのは理由がある。「農協解体」を巡る議論であったためだ。

 これは、いわば「安倍vs農協」の代理戦争である。TPPの締結を目指す政府は、国内農業の競争力を高めるべく、規制改革会議が農協改革案をまとめた。その案は各地域のJAを指導するJA全中(全国農業協同組合中央会)の“廃止”を含む、「農協解体」を迫る厳しい内容である。

 当然、JA全中の万歳章会長は、「改革はみずからの意思で行うものであり、自主自立は協同組合の大原則」と、グループ解体に応じるつもりはないとばかりに猛反論。冒頭のように、農協派と安倍派に分かれて、自民党内で大激論が交わされたのだった。

 しかし、安倍晋三総理(59)が農協解体を目指す目的は、競争力強化だけではない。経済評論家の荻原博子氏がこう話す。

「JA全中の硬直化した体質にメスを入れたいという思いもあるのでしょうが、TPPに強硬に反対している農協に揺さぶりをかけるのが狙いだと思います」

 つまり、TPPにいつまでも反対していると、「潰しちゃうよ」という“脅し”だというのだ。とはいえ、農協は自民党の大票田。そんなことをして大丈夫なのか。政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏はこう言う。

「JA全中に以前のような組織力はなく、選挙で農家を動員できなくなっている。前回の参院選でも、ある地方では非自民系候補を応援したJAもあったほどですからね。安倍総理はTPPが第一義でありますが、今回の農協改革には全中の組織力低下も遠因としてあるのでしょう」

 やはり、しょせんは“脅し”であった。6月13日に、自民党部会を経て規制改革会議が答申を安倍総理に示した。総理は「岩盤規制に踏み込んだ」と胸を張ったが、JA全中の廃止は消滅していた。代わりに、5年間を集中改革期間として、JA全中の役割見直しにとどまった。農協の既得権は守られ、政府も米国に対して改革している格好はついた。実に中途半端で、両者ともに農家のことなど頭にないことを露呈したのだった。