「今週"伝説の新馬戦"が見られるかもしれない」

 日本ダービー(6月1日)が開催された翌週、6月7日からスタートした2歳新馬戦。来春のクラシックを目指す戦いはまだ始まったばかりだが、競馬ファンの間では早くもそんな噂が飛び交っている。

 はたして「伝説の......」と言われているのは、6月15日に東京競馬場で行なわれる新馬戦(芝1800m)である。出走予定馬を見ると、確かにこの時期の新馬戦にしては、好メンバーがズラリ。デビュー前から高い評価を受けている、素質馬、期待馬がこぞって参戦するのだ。

 これは、言うなれば「イスラボニータ・ショック」の余波ではないだろうか。

 そもそも2歳新馬戦では「大物」と評される馬は、おおよそ秋以降にデビューするのが一般的だった。その分、早い時期にデビューする馬は、素質的には一枚劣ると見られてきた。しかし、もはやそんな"常識"はなくなってしまった。なにしろ、昨年の新馬戦開幕週にデビュー(6月2日/東京・芝1600m)勝ちしたイスラボニータ(牡3歳)が、今年の皐月賞馬となり、ダービー2着に輝いているからだ。

 JRA(日本中央競馬会)が新馬戦の開始時期をダービーの翌週から、と早めたのは一昨年のこと。その目的は、2歳戦への注目度を高めることと、ダービーからダービーまでを競馬界の基本的なサイクルとして位置づける、というものだったが、まさかダービー翌週の新馬戦を勝った馬が、翌年のダービーで1番人気になろうとは、誰も予想していなかっただろう。

 その意味では、イスラボニータの"常識はずれ"の戦績は、多くの競馬関係者に「早い時期にデビューした馬でもダービーを狙える」という確信を与えた。それは、非常に画期的かつ衝撃的なことで、まさしく「イスラボニータ・ショック」と呼べるものだった。

 さらに、早期デビュー組の今春のクラシックでの活躍は、イスラボニータだけにとどまらなかった。ダービー3着馬のマイネルフロスト(牡3歳)がデビューしたのは、昨年の2歳戦スタートの翌週、6月9日の新馬戦(1着。東京・芝1800m)だった。牝馬でも、阪神ジュベナイルフィリーズ(2013年12月8日/阪神・芝1600m)でハープスター(牝3歳)を下し、桜花賞(4月13日/阪神・芝1600m)では2着に入ったレッドリヴェール(牝3歳)が、新馬戦開幕週の6月1日にデビュー(1着。阪神・芝1600m)。その後の快進撃につなげた。

 こうなると、クラシックで活躍するためには、より早くデビューすることがひとつの"トレンド"になったのではないかとさえ思えてくる。少なくとも「早めにデビューして、早々に結果を出そう」という戦略が、クラシックへの新たな道筋となったことは間違いない。早くも「伝説の......」と噂される新馬戦が行なわれるのも、そうした流れに沿ったものだろう。

 さて、その"噂の新馬戦"。中心となるのは、今年も種牡馬リーディングのトップ(6月12日現在。以下同)を走るディープインパクト産駒の、アヴニールマルシェ(牡2歳)。母ヴィートマルシェの母が名牝キョウエイマーチ(1997年桜花賞馬)という良血だ。しかも管理するのは、現在関東の調教師リーディングトップの藤沢和雄厩舎。同氏が「馬体、動き、性格、どれをとっても文句なし」とほれ込むほどの逸材だ。

 生産牧場は、日本競馬界をリードし、毎年多くの活躍馬を輩出しているノーザンファーム。その同期の中でも、アヴニールマルシェは育成段階から目立った存在だった。そんな馬だからこそ、藤沢氏もいまだ勝ったことのないダービー制覇を「今度こそ、この馬で」と、目論んでいるという。

 これに続くのは、ベルラップ(牡2歳)。レーティング(競走馬の能力を示す指数)世界一のジャスタウェイ(牡5歳)を管理し、今最も勢いのある須貝尚介厩舎が送り込む、評判馬だ。同馬も、ジャスタウェイと同じハーツクライ産駒で、近親には1995年安田記念を勝ったハートレイクがいる。関西の競馬専門紙トラックマンも、そんなベルラップの走りには、注目しているという。

「須貝調教師は、『(ベルラップは)ジャスタウェイに雰囲気が似ている』と言っています。まだ腰に甘さがあるようですが、それでも動きは水準以上。ここで勝ち負けするようなら、先々が楽しみになりますね」

 鞍上は、ワンアンドオンリー(牡3歳)で今年のダービーを制した横山典弘騎手。思えば、ワンアンドオンリーもハーツクライ産駒。ベルラップへの期待は高まるばかりだ。

 そしてもう一頭、忘れてはならないのが、ディープインパクト産駒のディープフォルツァ(牡2歳)。先述のノーザンファームと双璧をなす生産牧場の社台ファームが、早期デビュー組で「いちばん期待をかけている」という素質馬だ。先の専門紙トラックマンが語る。

「ディープフォルツァを管理する安田隆行調教師は、ロードカナロアなどでGIは何勝もしていますが、クラシックにはいまだに縁がない。そんな同師が、『この馬で何としてもクラシックを獲りたい』と意気込んでいます。馬体は、420kg台と小柄ですが、調教の動きは鋭いですし、初戦から勝負になると思います」

 鞍上には、全国リーディングジョッキートップの戸崎圭太騎手を早くから確保。そこからも、ディープフォルツァへの期待度の高さがうかがえる。

 以上、まさに勝てば一躍「クラシック候補」と言われるであろう大物がそろった新馬戦。「伝説」と呼ばれるに相応しいレースとなるのか、必見だ。

 実は、早々に「伝説」になりうるレースはこれだけではない。1週間後の6月22日に阪神競馬場で行なわれる新馬戦(芝1600m)にも、豪華なメンバーが顔をそろえそうなのだ。

 なかでも注目は、ディープインパクト産駒のポルトドートウィユ(牡2歳)。母ポルトフィーノの母が希代の名牝エアグルーヴ(主な勝ち鞍=1996年オークス、1997年天皇賞・秋)という超良血馬で、馬主のクラブ法人であるサンデーレーシングが1億2000万円で会員募集をした高額馬だ。

「ディープインパクト産駒の走る馬に見られる、特有のしなやかさがポルトドートウィユにもある。同世代では、常に別格の存在です」と、育成牧場での評価はピカイチ。専門紙トラックマンによれば、「稽古の動きも日に日によくなっている」とのこと。デビュー戦でどんな走りを見せてくるのか楽しみだ。

 ポルトドートウィユは、POG(ペーパーオーナーゲーム)ファンの間でも、1、2を争う人気馬。そんな大物が早くも登場する22日の新馬戦からも目が離せない。

新山藍朗●文 text by Niiyama Airo