2014年06月09日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

僕はボクシングが大好きだ。体格的に中量級―つまりライト級、ウェルター級、ミドル級あたり(60〜70Kgのレンジ)に属するので、どうしてもそのクラスの試合を好んで観るが、やはりヘビー級の世界タイトルマッチは最大のイベントである。

一般的にヘビー級チャンピオンというとアメリカ―それも黒人チャンプという印象が強いと思うが、じつはここ数年アメリカ人のチャンピオンは皆無であり、ロシアやウクライナといった旧ソ連圏のボクサーたちが君臨しているというのが現状だ。

ところで、インターネットビジネスにおいては、いまだに聖地シリコンバレーを中心としたアメリカ系企業が中心であり、パワーシフトは起きていないのが現状だ。そこで、今回は注目をあびているヨーロッパ系ベンチャーをいくつか紹介しよう。

■Twago
ドイツ版クラウドワークスといったベンチャー企業だ。つまり、オンラインでフリーランスのクリエイターなどとクライアント企業をマッチングする。英語版は、Twago.comからアクセスできる。

オンラインでクリエイターと発注者を引き合わせて仕事を斡旋するクラウドソーシングは、基本的にオンラインのコミュニケーションのみで作業が完結する場合が多いが、オフラインでの打ち合わせや作業が混入するタイプの仕事もあるから、その国や地域という物理的・距離的な制約によって市場が決まる。その意味でEC市場に現状特化しているTwagoにはチャンスが大きいと思われる。

■Eyeem
Eyeemもドイツのベンチャーだ。サンフランシスコにもセールスオフィスがある。写真共有アプリの開発会社だが、ビジネスモデルは広告などではなく、撮影された写真のC2Cマーケットを目指しているらしい。日本でいえばPIXTAに近いモデルだ。

■MySugr
MySugrは、オーストリア発のベンチャーである。その名から推測できるかもしれないが、糖尿病患者をターゲットにした健康管理アプリを開発している。

糖尿病患者は潜在的な予備軍を加えると、日本国内にも2000万人以上いるといわれている。つまり、人口の17〜18%に相当する。なお世界的には3億人以上と見られている。MySugrは健康管理や糖質管理のアプリにゲーミフィケーション要素を持ち込み、毎日淡々と続く節制を楽しい習慣へと変える努力をしている。

■Jimdo
何回か紹介しているJimdoも、ドイツのベンチャーだ。Web構築・運営ツールを提供するクラウドサービスであり、日本においてもサービス展開している。

彼らに共通するのは、本拠地はヨーロッパに置いたまま、海外にもサービスを広げていることだ。たとえばJimdoは数年前からKDDIウェブコミュニケーションズと組んで日本にサービスを提供しているが、いまだに現地法人をつくるようなことはしていない。

ドイツやオーストリアといった非英語圏の国であるが、ECに加盟していることから、多言語・複合市場での事業展開を最初から念頭に置きやすいのだろう。

日本のスタートアップは、最初に日本語でサービスを開始するケースが非常に多い。人口1億人以上で経済的にもそれなりに大きな市場で事業を興せるメリットはあるが、そのぶん多言語や海外市場への進出速度が遅い。ヨーロッパの場合は個々の国の人口が多くなく、市場も小さく、つねに国外の市場を狙うという意識が出るが、ECというくくりで見ると人口は当然日本より大きいし、さらに多言語に対応するモチベーションが高まりやすい環境だ。中国やASEANの起業家もこれに近い環境にいるといえる。

日本は、なまじそれなりに大きな市場にいるがゆえに、内にこもりやすいという状況はなかなか変わらない。逆にいうと、その壁を乗り越えて海外進出をしようとすると、あまりに覚悟を決めすぎてすぐに海外オフィスをつくって本格的に乗り出そうとしてコストをかけ、失敗する例が多い。上述の欧州ベンチャーのような気軽さに欠けるのだ。


Twago
http://www.twago.com/


Eyeem
http://www.eyeem.com/


MySugr
http://mysugr.com/


Jimdo
http://www.jimdo.com/

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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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