『働かない息子・娘に親がすべき35のこと』二神能基、畠中雅子監修

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ニートといえば20代の若者が中心というイメージがあるけれど、最近では30代、40代も増え、中には50代に入ってしまった人もいるという。親の年金や仕送りで暮らし、居場所といえばネットのつながりのみ……。そういう状態のことを「孤立無業」というそうだが、本人はもちろん、親御さんにとっても行く末は不安だらけ。そんな中、「働かない」「家から出ない」「結婚しない」子どもを持つ親向けに、アース・スターエンターテイメントから『働かない息子・娘に親がすべき35のこと』という本が発売された。

著者の二神能基氏は、目標を喪失した日本の若者をイタリアに送るプロジェクトを94年から7年間展開した後、99年にニートを支援する「NPO法人ニュースタート事務局」を設立した。氏によれば、イタリアのある心理学者の言葉に「日本の親は子どもに向かって『飛べ』と言いながら、 足首をつかんで離さない」というのがあるそう。子どもの将来を心配し、身のまわりの世話を焼きながらも、「アルバイトや派遣ではなく、なんとか正社員になって欲しい」という根深い“正社員信仰”でわが子を悪気なく追い詰めているケースも多いのだ……。

二神氏は、「親の世代は時代がよかったから懐具合もよかったのです。決してお子さんより能力が高いから稼げたのではなく、生まれた時代の違いです」と言う。考えたら当たり前のことなのだが、わかってない親たちが案外多いのではないか。子どもの側も就職できなかったり、すぐに辞めてしまったりする原因を自分自身にあると考え、「努力が足りなかったから」「コミュ力が低いから」と自責の念にとらわれがち。この一節を読むだけで親も子も随分、気がラクになるのではないだろう。

氏が悩める親御さんたちに説くのは、「正社員になれ」よりも「幸せになれ」というアプローチ。そして、幸せの定義を車や家、買い物といった消費に置くのではなく、「縮小する経済に合わせ、食いぶち程度を稼ぎ、家族や仲間と人生を楽しむスタイル」が21世紀を生きるヒントになる、とアドバイス。結婚についても、「正社員となり、年収500〜600万はないとできない」とハードルを設定するのではなく、とりあえず「嫌ではない」仕事を長く続けることをめざし、共働きなら年収200万程度でも十分生きていけるのだから可能だという。さらに、日本の高度成長期、 親世代が能力以上に稼ぐことができたお金を、子どもが自立するための住宅費などにまわして支援すれば良い、と言うのである。

また、後半にはファイナンシャルプランナーの畠中雅子氏が登場し、ターニングポイントとなるのはズバリ、“40歳”だと説いている。これは厚生労働省が 管轄する就業支援が原則39歳までを対象としているのと、20代〜30代のうちは先が長過ぎることもあり、就業への望みは捨てないほうがいいというのが理由。そういう意味で子どもが40歳以上になっている方が、老後までをも視野に入れたサバイバルプランが立てやすいともいえるのだそうで……。
あくまでもひとつのめやすではあるが、持ち家があって、親御さんに2000万〜3000万円の貯蓄があれば、子どもが平均寿命くらいまで暮らしていけるプランが立てられるというのは驚きだ。本書ではそのための総資産の洗い出しや、家計の見直し、いざというときの遺言書の書き方(!)まで指南されているので実行するかはともかく、読んでみるだけでも、やみくもに心配だけしている状態よりはイイかもしれない。

出版社に企画のきっかけなどを伺ってみた。
「20歳から59歳の無職、未婚の方が160万人以上(2011年社会生活基本調査を基に算出)。まず、この数の多さに驚きました。もちろん、ニートという言葉は頻繁に耳にしますし、ニートが年々増えているということも知ってはいましたが、こんなに多いとは……というのが正直な感想でした。しかし、働いていないお子さんがいても、『いずれは働くようになるだろう』と考え、特に何もしていないということことが多かったようです。そこで、子どもの自立と、自立が難しい場合のライフプランを両方から提案した本を出すことで、お役に立てるのではないかと考えました」とのこと。

一方、二神氏は競争を嫌い、物欲がなく、見えを張らず、ボランティアなど「人の役に立つ」ことに価値を見いだす若者たちを「進化した人類」だと評し、実は期待もしているという。経済的には“黄昏の時代”かもしれないが、お金に依存しない幸せや価値を追求するという視点から見れば、未来は意外と明るいといえるのかもしれない。
(まめこ)