ドラマチック春競馬(9)
「3強物語」トゥザワールド編

今年は有力馬が目白押しの牡馬クラシック(皐月賞→ダービー)戦線。それでも、主役候補として高い評価を受けているのは、目下4連勝中のトゥザワールドだ。主戦を務めるのは、ハープスターで桜花賞を制した川田将雅騎手。今回は彼に、トゥザワールドで挑む牡馬クラシックへの手応えを語ってもらった。

―― デビュー戦(2013年9月28日/阪神・芝1800m)は2着でしたが、その後は4連勝のトゥザワールド。まさに破竹の勢いで、前走は皐月賞(4月20日/中山・芝2000m)トライアルの弥生賞(3月9日/中山・芝2000m)を制しました。2着ワンアンドオンリー(牡3歳)とハナ差の接戦になったことは、正直、ヒヤッとさせられましたが、同レースについてはどう評価していますか。

「連勝中と言っても、重賞級の強いメンバーと対戦するのは、弥生賞が初めて。枠順も7枠(10番)と外枠でした。それで、普通に競馬をしてみて、トゥザワールドがどれだけやれるのか、見てみたいと思っていました。最後は(2着馬に)あそこまで詰め寄られて苦しい競馬になりましたけど、結果的には勝ち切りましたからね。内容としては、よかったと思っています」

―― 強い勝ち方を期待していたファンは、やや物足りなさを感じたと思いますが、川田騎手自身は、十分評価できる内容だったと見ているわけですね。

「道中、前(の馬群)が遅かったので、(ペースを速めようと)それを動かしにいって、動かしてから一旦待ったり、4コーナーでは戸崎(圭太)さんの馬(アデイインザライフ=3着)の手応えがよかったので、それを締め(牽制し)にいったり、僕自身、(トゥザワールドには)あえて無駄な動きをたくさんさせましたからね。ひたすら脚をためて、楽に乗って、最後に詰め寄られたわけではないですから。それで、結果を出したことは評価できると思います。ただ本当は、無駄なことをさせても楽に勝てると思っていたんですけどね。そこまでは、甘くなかったということです。それに、2着に来た馬が、僕が思っていた以上に強かった。そこが、やや想定外でした」

―― 一見、辛勝に見えたものの、本番(皐月賞)前のトライアルとしては、十分に意味があったということですね。

「これまでトゥザワールドは、楽なレースばかりして勝ってきていましたから、皐月賞前には一度、きつい競馬をさせて、目一杯走らせなければいけないな、と思っていたんです。それが、弥生賞でできましたからね。他にも、いろいろと得るものがあったし、ハナ差とはいえ、結果を出すこともできました。トライアルが本番に向けて何を得るか、というレースだとすれば、非常に意味のあるレースだったと思いますね」

―― 巷では、川田騎手は「競り合いに強い」と言われています。弥生賞でも、その特徴が出たように見えました。

「『負けたくない』という思いは、他の人より強いとは思いますけど、競ったら強いかどうか、というのはどうなんでしょう(笑)。もしそうなら、阪神ジュベナイルフィリーズ(2013年12月8日/阪神・芝1600m)で負けてなかったと思いますよ(1番人気ハープスターに騎乗してハナ差2着)」

―― ところで、トゥザワールドがいずれクラシックを狙える器だと意識したのは、いつ頃でしょうか。

「これだけの血統馬(名牝トゥザヴィクトリーの子。父はキングカメハメハ)で、デビュー前からいい動きをしていました。だから、当時からいずれクラシックに乗る馬、というより、乗っていなければいけない馬だと思っていました」

―― しかしデビュー戦では、勝ったバンドワゴン(牡3歳)から6馬身も離された2着。あのとき、期待がしぼんだということはなかったですか。

「確かにデビュー戦では(勝ち馬に)ちぎられましたね(笑)。でも、バンドワゴンも強い馬ですから、1回の負けで大きなショックを受けることはありませんでした。また、あのレースでは、僕は(福永)祐一さんの馬(ドラゴンストリート=5着)ばかり意識していて、『この馬にさえ勝てば、このレースは負けない』と思っていたんです。道中も、直線を向いてからも、ずっとそうやって意識してしまって......。そうしたら、実はそのはるか先にバンドワゴンがいた、という感じでした(笑)。

 だからといって、トゥザワールドはその新馬戦ひとつだけ勝てばいい、というレベルの馬ではありませんからね。無理をして、バンドワゴンを負かしにいこうとは思いませんでした。結果として負けたことは残念でしたが、あの時点で優先すべきは、勝ち負けよりも、いい内容のレースをして、無事に(ゴールして)戻ってくることでした。その点では、内容のある新馬戦だったと思います」

―― その当時と比べて、トゥザワールドがもっとも成長しているな、と感じている部分はどこですか。

「何よりも、レースで動けるようになったこと。(馬体重500kgを超える)あれだけ大きな馬ですから、なかなか思うように体を使えないということが多いのですが、レースを経験しながら、徐々に体を使えるようになってきた。その分、レースでも自在に動けるようになりました。そこに、一番の成長を感じますね」

―― デビュー戦の馬体重が508kg。弥生賞のときは、518kgでした。さらに体が大きくなっていても、動きはよくなっているんですね。

「馬体重は増えているけど、太ってきたわけではなくて、(体の)中身は逆に締まってきているんです。その点でも、成長を感じます」

―― トゥザワールドのもっとも優れている点を挙げるとしたら、どの辺りになりますか。

「"賢い"ところですね。普段も、レースにおいても、無駄なことをしない。いつもどっしりと構えていて、性格も穏やか。それが、競馬になると、ピリッとする。オンとオフの使い分けがしっかりとできているんです。しかも、レースの流れがどうなっても、きちんと対応できる。本当に賢い馬だと思います」

―― 皐月賞では、おそらく本命視されると思いますが、勝算はありますか。

「有力馬がとても多くて、厳しい競馬になると思いますが、トゥザワールドは競馬が上手で、前からでも後ろからでも、どんな競馬もできますからね。勝算というより、結果を出さなければいけない馬だと思っています」

―― 皐月賞のあと、ダービーに向けてはいかがですか。

「どんなレースにも対応して、これだけうまく走れる馬ですから、距離が延びるのは、問題ないと思っています。それに、一戦、一戦、課題をクリアしてここまで来ましたからね。僕にとっても、今年は(ダービージョッキーになる)大きなチャンス。それだけの馬に乗せていただいていると思っています」

―― それにしても、今年は牝馬のハープスター、牡馬のトゥザワールドと、牡牝ともに世代トップを争う強い馬が、川田騎手のパートナーになりました。期待が膨らみますね。

「これほどの馬たちに、新馬からずっと乗せていただくというのは初めてのことなので、とても光栄で、ありがたいことだと思っています。ただ、僕も今年で(騎手生活)11年目。これまでボーッと過ごしてきたわけではありません。ひとつ、ひとつ、一生懸命やってきた結果が、今につながっているのだと思います。かといって、現在が頂点というわけでもありません。さらに上に行くためには、もっともっと結果を出し続けなければいけないし、その意味でも、こうしていい馬に乗せていただいている今が、すごく大事だと思っています」

―― ありがとうございました。川田騎手のご健闘を祈っています。

川田将雅(かわだ・ゆうが)
1985年10月15日生まれ。佐賀県出身。近年メキメキと力をつけてきた中堅騎手。今年は現在(4月14日時点)全国リーディング1位(43勝)。JRA通算756勝。重賞30勝(うちGI4勝=2008年皐月賞:キャプテントゥーレ、2010年菊花賞:ビッグウィーク、2012年オークス:ジェンティルドンナ、2014年桜花賞:ハープスター)

新山藍朗●構成 text by Niiyama Airo