ドラマチック春競馬(8)

「混戦」と言われる今年の牡馬クラシック戦線(皐月賞→ダービー)。昨年末に行なわれた2歳GI朝日杯フューチュリティS以降、クラシックにつながるステップレースの勝ち馬がすべて異なっているのが、その要因だ。しかも、有力各馬は安定したレースを重ねて底を見せていない。素人目には、どの馬がいちばん強いのか、まったく見当もつかない。そこで今回、馬を見る目が確かな元ジョッキーの安藤勝己氏に、有力3歳牡馬の能力分析を依頼。安藤氏独自の視点で「番付」してもらった。

 今年の牡馬クラシックは、本当に混戦だね。勝ってもおかしくない馬が5〜6頭いて、それらのレベルも決して低くない。ズバ抜けた存在がいないから、レースの流れが脚質的に向いたとか、当日の馬場状態が合っていたとか、ちょっとしたことで着順が入れ替わっている。

 そうした流れは、クラシックでも変わらないんじゃないかな。だから、皐月賞(4月20日/中山・芝2000m)とダービー(6月1日/東京・芝2400m)では、おそらく勝ち馬が違ってくると思う。正直、そういう馬たちを評価して、現時点で順位づけするのは、競馬関係者でもかなり難しいことだよ。それでも、あえて「番付」をつけるならば、以下のような感じかな。


横綱:トゥザワールド(牡3歳)
(父キングカメハメハ/戦績:5戦4勝、2着1回)

 前哨戦の弥生賞で、最後は2着馬(ワンアンドオンリー)に詰め寄られたとはいえ、力勝負のレースを自分で作って、自ら動いて押し切った。やっぱり能力があるな、と思った。折り合いもつくし、皐月賞が行なわれる中山の(荒れた)馬場も合いそう。名牝トゥザヴィクトリーの子という、血統もいい。総合的に見て、皐月賞まではトゥザワールドが最上位の評価でいいと思う。

 レースを使う度に機敏さも出てきたし、乗りやすそうな馬。主戦の川田(将雅)騎手も「(トゥザワールドは)いろんな競馬ができるから、自信を持って乗れる」と言っていた。大舞台では、そういう騎手の心理はプラスに働くもの。弥生賞ではやや強引な競馬をしたけど、皐月賞に向けてはそれがいい経験になったと思うし、(皐月賞では)確実に3着までには来る雰囲気がある。


大関:トーセンスターダム(牡3歳)
(父ディープインパクト/戦績:3戦3勝)

 この馬は、トゥザワールドと同じ池江(泰寿)厩舎なんだけど、ここまでのレースの使い方を見てみると、トゥザワールドは皐月賞に、トーセンスターダムはダービーに、照準を合わせてきたように感じられる。そういう意味では、現時点では大関にしたけど、ダービーを考えたら横綱級の評価になるかも。

 実際、一度も負けていないし、レースぶりもいい。フットワークが大きくて、追い出すとだんだんとスピードに乗ってくる感じは、いかにも東京競馬場のような"大箱"向き。スケールの大きさからしても、ダービーがぴったり。逆に、中山のレースで忙しい競馬になったときに、スッと反応できるかどうかはわからない。その点、皐月賞は微妙。2月のきさらぎ賞から直行になるし、ダービーへの「布石」なのではないかと勘ぐってしまう。


大関:ワンアンドオンリー(牡3歳)
(父ハーツクライ/戦績:7戦2勝、2着3回、着外2回)

 トーセンスターダムとの比較で甲乙つけ難かったので、ワンアンドオンリーも大関としたい。そもそもラジオNIKKEI杯2歳Sの勝ち馬だけど、成績が安定してないから、評価が難しかった。それで、前走の弥生賞(2着)も半信半疑で見ていたんだけど、いい脚を使って強かった。決して騎手がうまく乗っていたようにも見えなかったのに、勝ったトゥザワールドにハナ差まで詰め寄ったからね。

 ハーツクライの子は、ジャスタウェイ(2013年天皇賞・秋で初のGI勝ちを収めると、2014年4月にはドバイのGIレースも制覇)がそうだったように、急にグーンとよくなる特徴がある。この馬も、そういうタイプだろうね。実際、調教の動きも以前とは変わって、すごくよくなってきているみたい。周囲が思っている以上に、力をつけてきているんじゃないかな。脚質的には、東京のほうが合っていそう。流れさえ向けば、皐月賞でも面白いけど、狙うならダービーかな。


関脇:ロサギガンティア(牡3歳)
(父フジキセキ/戦績:5戦3勝、2着1回、着外1回)

 快勝した前走のスプリングSは、強い競馬だった。この馬のいいところは、何より競馬がうまいというところ。いい位置につけられて、"ここ"という勝負どころまで我慢ができる。しかも、抜け出すときの脚が速い。前々走の500万下のレースでも、直線で前が詰まって馬群からなかなか出られなかったけど、前が開いた瞬間、ピュッと抜け出してきた。いい瞬発力を持っているよね。

 レースぶりからすると、ダービー向きな感じはするけど、本質的な距離適性からすると、皐月賞の2000mくらいが合っているのかな......。なんとも、どっちのレースがいいとは言い切れないね。結局、(クラシックを勝っていない)フジキセキの子だから、GIではワンパンチ足りないのかもしれない。


小結:イスラボニータ(牡3歳)
(父フジキセキ/戦績:5戦4勝、2着1回)

 イスラボニータもフジキセキの子で、ロサギガンティアと同じようにレースがうまい。これまで重賞をふたつ勝っていて、完成度という点ではこの馬が一番かもしれない。

 ただ、レースぶりにしても、馬の作りにしても、完成され過ぎているような気がする。その分、伸びしろという点で不足を感じる。競馬は上手だから、GIでも上位争いするだろうけど、勝ち負けとなるとどうだろうか。


前頭1枚目:アドマイヤデウス(牡3歳)
(父アドマイヤドン/戦績:6戦3勝、2着1回、3着2回)

 番付上位の馬と比べると、正直、能力的には一枚落ちる感があるのは否めない。それでも、前走の若葉Sを見る限り、ここに来て、馬がちょっと変わってきたような気がする。走りっぷりがよくなった。道中も折り合って、追ってからもしっかりと伸びていた。

 自分が現役時代、父親のアドマイヤドンに乗っていたのもあって応援したい気持ちもある。今の中山のような、ちょっと時計がかかる馬場も合いそう。皐月賞の、穴馬の一頭として挙げておきたい。


前頭2枚目:バンドワゴン(牡3歳)
(父ホワイトマズル/戦績:3戦2勝、2着1回)

 他の有力馬と違って"逃げる"という戦法があるのが強み。ホワイトマズルの子には、人気が落ちたときに気持ちよく逃げて、そのまま最後まで逃げ切ってしまう馬が結構いるけど、バンドワゴンはまさにそんなタイプ。ホワイトマズルの特徴がよく出ていて、自分の型にはまったらかなり強い。

 でも、基本的には不器用な部類。脚部不安で皐月賞は回避になってしまったけれども、どちらかと言えば、広い東京コースで行なわれるダービー向き。出走できれば面白い。有力馬が牽制し合ってくれたら、楽に逃げられて、大金星もあり得るね。

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 現時点で「番付」を作るとしたら、以上のような感じかな。もちろん、他にも有力馬はたくさんいる。春は全休するみたいだけど、サトノアラジン(牡3歳)なんか、能力的には前頭1枚目くらいに入れたい馬だった。それほど、新馬戦での強さはインパクトがあって、ダービーに出ていたら面白い存在だったと思う。

 また、3歳馬全体を見渡せば、最強馬は他にいる。そう、牝馬のハープスター(牝3歳)。新潟2歳Sで見たときから、牡馬を含めても、この馬はモノが違うと思っていた。オークスに行くみたいだけど、ダービーに出たとしても勝てるんじゃないかな。

安藤勝己(あんどう・かつみ)
1960年3月28日生まれ。愛知県出身。2003年、地方競馬・笠松競馬場から中央競馬(JRA)に移籍。鮮やかな手綱さばきでファンを魅了し、「アンカツ」の愛称で親しまれた。キングカメハメハをはじめ、ダイワメジャー、ダイワスカーレット、ブエナビスタなど、多くの名馬にも騎乗。数々のビッグタイトルを手にした。2013年1月31日、現役を引退。騎手生活通算4464勝、うちJRA通算1111勝(GI=22勝)。現在は競馬評論家として奔走している。

新山藍朗●構成 text by Niiyama Airo