ドラマチック春競馬(4)

今年の牝馬クラシック(桜花賞、オークス)の最有力候補と言えば、ハープスター(牝3歳)である。牡馬さえ一蹴してしまう強烈な末脚を秘め、その強さは牡馬を含めても「世代No.1」という専門家さえいる。今回、そんなハープスターの主戦を務める川田将雅騎手を直撃。クラシック制覇への手応えを聞いた。

―― まずは、ハープスター(牝3歳)の年明け初戦となった、桜花賞トライアルのチューリップ賞(3月8日/阪神・芝1600m)について聞かせてください。結果は2着ヌーヴォレコルト(牝3歳)に2馬身半差の完勝でした。見た目は、その着差以上の強さを感じましたが、川田将雅騎手自身の手応えはいかがでしたか。

「確かに、楽な競馬でしたね。あの競馬なら(ハープスターにとっては)追い切りのほうが余程しんどかったと思いますよ。それくらいレースで(全力で)走っていませんし、走らせてもいません。それで、あの勝ち方ですから。内容的にも、これまでの4戦のうちで、今回(のチューリップ賞)がいちばんよかったと思います」

―― レース前は、どんなことを考えていたのでしょうか。

「勝ち負けに関しては、まったく意識していませんでした。(ハープスターが)負けることなんて、考えられないですから(笑)。とにかく、リズムよく走って、無事にレースを終えてくれれば、それでいいと。考えていたのは、それだけです。その点では、期待どおりでしたね」

―― ハープスターの前走は、昨年末の阪神ジュベナイルフィリーズ(以下、阪神JF。12月8日/阪神・芝1600m)。チューリップ賞は、それから約3カ月の休養を経ての競馬でした。休ませたことで「ここが成長したな」と感じるところはありましたか。

「道中の運びが非常にスムーズになったので、そこにいちばんの成長を感じましたね。レース中の位置取り的には、いつもどおりの(後方の)位置ではありましたけど、走っている内容が違っていました。気持ちの面ですごく前向きさがあって、体もよく動いていましたし、今まででいちばん安心して乗っていられました。そこは本当に、これまでとは違っていますね」

―― 川田騎手から見て、ハープスターは現段階で、持てる能力のどれくらいを発揮していると思いますか。

「桜花賞トライアルを、あんな楽な競馬で勝つわけですからね、どれくらいなんでしょう......。そもそも(ハープスターの能力の)マックスがどれくらいあるのか、ちょっと想像がつきません(笑)」

―― そうすると、なんとも不可解なのが、阪神JFの敗戦(2着。1着=レッドリヴェール)です。昨年夏の新潟2歳S(8月25日/新潟・芝1600m。牡馬相手に3馬身差の圧勝)や、今回のチューリップ賞の強さと比べると、別の馬だったのかとさえ思ってしまいます。

「僕の中では(あの敗因については)いろいろと分析して、解決しています。でもそれを、言葉にして説明するのは難しいし、口外すべきではないと思っています。負けたのはやはり、まったく(体が)動けていなかったから。それがいちばんの理由だと思いますが、最後はあの着差(ハナ差)まで詰めてきているわけですから、強い馬ですよ」

―― ところで、ハープスターのデビューは、昨年7月の中京でした(7月14日/中京・芝1400m)。当時から、これほど強い馬になるという予感はありましたか。

「実は、僕はハープスターの兄(ピュアソウル/牡5歳)にも乗せてもらっていたんです。彼はすごくテンションが高くて、前向き過ぎるタイプだったんですが、その妹であるハープスターは、同じディープインパクトの子なのに、まったくタイプが違います。おっとりしていて、調教でもなかなか前に進んでいこうとしませんでした。だけど、動かす(追う)と、終(しま)いはすごくいい脚を使う。それで、『この子(ハープスター)は走る』と思いましたね。実際、デビュー戦でも強かったですから。そうは言っても、ここまで強くなるとは、当時はまだ思っていませんでしたが」

―― すると、心底「この馬はすごい」と思ったのは、2戦目の新潟2歳Sだったのでしょうか。あの、後方一気のゴボウ抜きは、見ていて鳥肌が立ちました。道中は最後方でしたが、あの位置取りはレース前から考えていたことですか。

「デビュー戦もそうでしたが、2戦目の新潟2歳Sも(スタートしてから)まったく前に進んでいこうとしないので、自然にあの位置になっただけです。馬のリズムで、あまり(前の馬群から)置かれないようにと気をつけながら乗っていたら、たまたま、あそこだったということです。それぐらい(ハープスターは)前に進んでくれない子なんです(笑)。直線を向いたときも、まったく手応えがなかったほどですから。

 しかも、ひと口に『最後方』と言いますが、あのときは、前の馬群にいる最後方の馬から、さらに3馬身くらい離されていました。道中、仕掛けても、仕掛けても進まないし、全然ハミ(※)も取ってくれませんでした。一瞬、『今日はもうダメなのかな』なんて思っていましたよ。それが、(直線の)内回りのところ(内回りコースとの交差地点。ゴールまで約350m)まで来たら、急にやる気を出しまして(笑)。それからはもう、(前の馬群をさばくのは)あっという間でしたね。でも(馬群を)つかまえ始めてからの1ハロン(200m)くらいは真面目に走っていましたけど、つかまえ切ったあとは遊んで(走って)ましたね(笑)」

※馬の口に噛ませる棒状の金具のこと。それが騎乗者の手綱につながっていて、騎手はその手綱からハミを通じて馬を動かす。

―― 大きな舞台(GI)を意識したのは、やはりそのときでしたか。

「そうですね。稽古で動くので、かなり走るとは思っていましたけど、(本番の)競馬であそこまでエンジンがかかったのは初めてでしたからね。GIIIのレースでこれだけの競馬をして勝ってくれたのだから、次に目指すのは、当然GIだと思いました」

―― 新潟2歳Sの勝ち方は強烈でしたが、反面、先々のことを考えた場合、道中でスムーズさを欠いていたというのは、ひとつの課題になったとも言えるのではないでしょうか。

「そこは、確かに課題です。だからといって、無理に道中のスムーズさを求め過ぎてしまうと、(テンションが高い)兄のようになってしまうのではないか、という心配がありました。だから、道中をよりスムーズに進んでいくことを求めるよりも、(前向き過ぎる)兄のようにならない方策を優先してきました。要するに、無理強いをしないで、道中、進まないこともよしとしよう、と判断したわけです」

―― この話が、先ほどのチューリップ賞の話、川田騎手がハープスターの成長した点に挙げた「道中の運びがスムーズになった」という話につながるわけですね。新潟2歳S当時、唯一課題とされていたことが、今では解消されつつあると。

「チューリップ賞では、今まででいちばんいい走りができていましたからね。それは、ハープスターにとって、すごく前向きな材料になると思います」

―― ならば、もう怖いものなしですね。桜花賞では、断然の1番人気になると思いますが、プレッシャーは感じていますか。

「それは、ありません。ただ、昨年末にもふたつの2歳GI(阪神JFと朝日杯フューチュリティS)で、それぞれ1番人気の馬に乗って、両方とも負けていますからね(朝日杯ではアトムに騎乗して5着)。あれは、自分でも情けないと思いました。それだけに、この春のクラシックでは結果を出さなければいけないと思っています」

―― 桜花賞では、どんなレースをしたいと思っていますか。

「とにかく、ハープスターに『走りたい』と思ってもらうように乗る、それが最優先だと思っています。そうすれば、結果もついてくるはずです」

―― ライバルについてはいかがですか。阪神JFで敗れたレッドリヴェールの存在は意識していますか。

「ライバルは、特にいません。それよりも(ハープスターで)今年はひとつも負けたくないと思っているので、桜花賞でもハープスターの競馬をして、結果を出すだけです」

―― 最後に、オークス(5月25日/東京・芝2400m)のことも少し聞かせてください。ハープスターは、2400mという距離もこなせますか。

「これまで、1400m、1600mの、それもワンターン(コーナー通過が3〜4コーナーのみ)の競馬しかしたことがありませんからね。距離については、まったくの未知数です。とはいえ、3歳牝馬で2400mが得意という馬はそうそういませんから。ハープスターのリズムで走ることができれば、距離はこなしてくれると思うし、結果も出せると思っています」

川田将雅(かわだ・ゆうが)
1985年10月15日生まれ。佐賀県出身。近年メキメキと力をつけてきた中堅騎手。今年は現在(4月9日時点)全国リーディング1位(40勝)。JRA通算753勝。重賞29勝(うちGI3勝=2008年皐月賞:キャプテントゥーレ、2010年菊花賞:ビッグウィーク、2012年オークス:ジェンティルドンナ)

新山藍朗●構成 text by Niiyama Airo