「増産決定」「納車、7か月待ち」…などといった見出しが、メディアを賑わせているスズキのハスラー。ヒット商品として世間の耳目を集めている。とはいえ、決して販売台数がダントツ1位というわけではない。

 2月の軽自動車販売台数ランキング(速報値・全国軽自動車協会連合会)では11位、台数では5,368台だ。ちなみに、1位はダイハツのタントで23,166台に達する。

 ただ、これには理由がある。そもそも、ハスラーは1月8日に販売が開始され、当初の販売目標は5,000台/月であった。すなわち、生産台数もその程度しかないということだ。

 さらに、製造分が完売した後も受注が続き、2月上旬にはその累計が約3万5,000台になったといわれている。そこで2月21日に、同社は5月から月産1万4,000台体制を取ると発表したわけだ。

 要するに、製造が間に合っていないから実売数が伸びず、実績に現れなかっただけなのである。やはり、同モデルは大ヒット商品だったのだ。

 では、なぜハスラーが売れたのか。もちろん、これには軽自動車ブームや消費増税前の駆け込み需要といった、全体的な底上げムードも原因の一つであろう。しかし、それらは他の車種でも同じ条件下にあるわけだ。

 ハスラーは、これに加えて特徴づけに成功したことが大きいといえよう。近年、軽自動車は燃費や大きさ・広さばかりが打ち出され、やや食傷気味なところがある。とくに広さに関しては、それを謳うすべてのモデルが規格いっぱいに作っており、差別化ができているわけではない。

 これに対し、同モデルはクルマの新たな使い方を提案することで対抗した。すなわち、着眼点を変えたわけだ。完成度の高い内装や装備のバリエーションの広さに加え、配色やデザインにも凝っている。クルマに楽しく乗りたいと考えるドライバーであれば、老若男女を問わずに満足させられる仕上がりが魅力になっているわけだ。まさに、絶妙のマーケティングであったといえよう。

 問題は、この流れがスズキ全体に波及していないことである。確かに、ハスラーはヒットした。しかし、スズキ全体の販売増加数は同モデルの増加分程度に留まっている。このままでは、スズキ全体の底上げには程遠いといえよう。

 多くの受注残を抱えながら新たな注文が入っている同モデルの販売状況を見れば、4月の消費増税後に駆け込み需要の揺り戻しが心配される他社を横目に売れ続けるであろう。ただ、これを他社が黙って指をくわえて見ているなどということはない。各社ともに、スズキが目を付けた「クロスオーバーSUV」のカテゴリーに属する新車を、続々と登場させてくることになるだろう。

 ダイハツはSUVタイプのテリオス キッドを復活させ、ホンダはNシリーズのSUVタイプを新たにラインナップ、三菱はお蔵入りしているパジェロミニを引っ張りだそうとしているという。本年後半、スズキ・ハスラーが正念場をどう乗り切るのか、今からその戦いに目が離せない。