市長のお陰で一躍世界中で有名になったソチのゲイクラブ「キャバレー マヤック」

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ソチオリンピック。連日選手たちが超人的美技を繰り広げる裏では、なにかとトホホな話題が尽きません。開会前から宿泊施設の準備の遅れや野良犬のことは日本でも話題になっていましたが、Twitter上でも「SochiProblems」というアカウントが開設され、現地入りしている欧米の報道陣や選手を中心に残念な情報がツイートされています。

しかしトホホでは済まされないのが「同性愛プロパガンダ禁止法」。「非伝統的な性的関係」を未成年に広めることを禁じたこの法律が昨年の6月末に可決されると、欧米各国は同性愛者への深刻な人権侵害だと一斉に非難。ついにはオバマ米大統領をはじめ欧米主要国の首脳がオリンピックの開会式への出席を見送る事態にまで発展したのです。

ロシア政府は火消しに躍起になったのですが、そこに油を注いでしまったのがソチのパホモフ市長。今年の1月英BBC放送のインタビューに答えて「ソチにゲイはいない」と言ってしまったので大変です。

反発は国際社会からだけではなく、ロシア国内からも起きました。野党右派勢力同盟のネムツォフ代表が「ソチには私が知るだけでもいくつかのゲイクラブがあるのに、それらはどうしてつぶれないんだろうね」と痛烈に皮肉ったのです。

市長がゲイはいないというソチに果たしてゲイバーはあるのでしょうか?

「ソチには3軒あると聞いています」

そう教えてくれたのは国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のLGBT(レズ・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)に関する活動を支援する「LGBTの人権アクティビスト」の柳沢正和さん。柳沢さんによると金融業界のLGBT当事者で作る世界的ネットワークがソチ市長の発言後独自に調査した結果、少なくとも3軒のゲイバーが確認できたというのです。

そこでさらに調べてみると、やはり気になるのか海外の主要メディアもこの問題を取り上げていました。英フィナンシャル・タイムズ紙がいち早く反応。ソチに2軒のゲイクラブがあると報じた。米CNNやUSA TODAY紙、英ガーディアン紙もそれぞれの切り口でソチのゲイバー「キャバレー マヤック」を写真付きで取り上げています。

ソチには間違いなくゲイバーがあるようで、ソチ市長も対応に追われててんやわんやしていることでしょう。しかしこれは決して対岸の火事ではないと前出の柳沢さんは言います。

「従業員数百人規模の企業の人事担当者でも、自分の会社にはLGBTはいないという方がいらっしゃいます。しかし電通総研が5万人に行ったアンケートを始め、さまざまな調査の結果日本のLGBTは大体人口の5%程度いると言われています。社員が数百人いればLGBTがいる可能性は高いのではないかと思います」

日本にはカミングアウトできない人も多い中、正しい認識を持たないため軽率にLGBTを揶揄(やゆ)するジョークを言い、同僚を知らぬ間に傷つけていることも考えられるのです。

また多様性について不寛容な社会は、LGBTだけでなく障害者など他の社会的弱者に対しても不寛容だと柳沢さんは言います。

「日本でも2020年には東京オリンピックが開催され、世界中からさまざまな人たちを迎え入れることになります。そのとき寛容な国として彼らをウェルカムするのか、不寛容な国として受け入れるのかは今後数年の取り組みにかかっているのではないでしょうか」

アメリカでは昨年結婚を男女間に限ると規定した「結婚防衛法(DOMA)」が違憲だという判決を最高裁が下し、今年の音楽の祭典グラミー賞でもLGBTを支援するアーティストや楽曲が大きな注目を集めました。それはマイノリティーであるオバマ氏が大統領に就任した影響が大きいのではないかと柳沢さんは指摘します。

折しも2020年のオリンピック開催地の東京でも新しいリーダーが決まったばかり。みんながハッピーになれる社会を実現してほしいものです。
(鶴賀太郎)