男性の生涯未婚率は20%を突破

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■「恋愛至上主義」が結婚の足かせに

女性誌を読んでいる人はモテないかと言われると、まず「卵が先か鶏が先か」という言葉が思い浮かびます。もともとモテないからそれを改善したくて女性誌を読んでいるのか、それともモテないから女性誌を卒業できないのか、どちらが先かはあいまいです。ただし、そこに「共犯関係」を指摘することはできそうです。つまり、女性誌を読むことでモテに対して努力をしているつもりになって、結局は前に踏み出せない――。

数年前には「できる女性がモテる」という言説が流行りました。2001年に出版された『おひとりさま』(岩下久美子著)は、ひとりが楽しめないとふたり(カップル)でも楽しめないという内容でしたし、08年の『勝間和代のインディペンデントな生き方実践ガイド』は、キャリアを積んだ女性は高収入男性とも近づきやすくなる、だからまずは年収600万円を稼げるようになろう、というものでした。でも、「できる」と「モテる」の両立は難しいことです。

戦後まもない時期からバブル崩壊前までは、若者が進学や就労に応じて農村部から都市部へと人口流入し、農業従事者の子どもが大卒ホワイトカラーになるという世代間の「社会移動」、つまり職業移動も容易に起こりました。しかし1990年代以降はこれが頭打ちとなり階層構造も固定化し、いわゆる「格差社会」となりつつあります。若者は別の階層にいる人と出会う機会が減り、女性は結婚に伴う階層上昇機会が減少することとなりました。

いま女性誌を熱心に読む層は「アラサー」や「アラフォー」だと聞きます。この世代の女性には、かつてのような結婚による階層上昇を強く願い、それを諦めきれない層がいる。女性誌はそんな人たちの「心の安定剤」になっている側面があるのでしょう。

社会学には「ロマンチックラブ・イデオロギー」という言葉があります。結婚と恋愛を強く結びつける価値観のことですが、いまでは結婚できない女性の最後の心の拠り所になっています。「本当に愛せる人がいない。だから結婚しない」というわけです。ところが、ここにはかけ違いがある。男性は「愛があれば、お金がなくても構わないだろう」と考えますが、女性は「私を愛しているのだから、お金のことで不自由はさせないはず」と思っているんですね。

現実問題として、若年男性の収入は減少傾向にあります。いわゆる「草食男子」はそうした経済構造の変化に対応した動きです。社会的な承認を交友関係や趣味で得ることができれば、「仕事」や「モテ」はそこそこでいい。そんな男性と、「私をお金のことで不自由させないで!」と願う女性の間に恋愛は生まれづらいでしょう。

ただ男性に比べて、女性の変化は遅いようです。現在20代の女性は、30〜50代よりも顕著に「専業主婦になりたい」という人が増加傾向にあり、この点は60代に近い価値観になっています。背景には、すぐ上の世代への反発があるようです。

男女雇用機会均等法の理想と異なり、バブル崩壊以降の日本で達成されたのは「後ろ向きの男女平等」でした。若年層を中心とした相対的な賃金低下や産業構成比の変化により、女性の社会的地位が向上したというよりも男性の既得権益が低減し、共働き世帯が多数派になりました。でも、いまなお仕事と家事を完璧に両立する「できる女性」になるのは困難です。

女性には「できる」と「モテる」のバランス感覚が求められています。一方で、女性誌がモテを連呼している一因は男性にもあります。女性はこれまで経済的自立を阻まれ、結婚が最大の生存手段でした。家庭は男性にとって安らぎの場ですが、女性は「男性に安らぎを与えなければ捨てられてしまう」という覚悟で結婚生活を戦っていた。でも今後は、夫婦で生活スタイルをすりあわせる努力も必要とされます。男女ともに、「一緒に人生を戦う」という気概が求められるのではないでしょうか。

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社会学者 
水無田気流
1970年生まれ。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。東京工業大学世界文明センター・フェロー。著書に『無頼化する女たち』などがある。

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(社会学者 水無田気流 構成=西森路代 撮影=佐藤 類)