ポイント1 要点解説!相続大増税でどうなる?

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税金アップに、売れない家、借金の後始末……。サラリーマンであっても、もはや相続税とは無縁でいられない。家族内のトラブル回避法から節税テクニックまでを紹介する。

これまで相続対策といえば、税金対策よりも「争族対策」のほうが重要だといわれてきた。相続が発生しても、相続税の課税対象となるのは、ほんの一握りの人たちだからだ。

国税庁が公表している相続税の申告事績によると、2010年に死亡した人は約120万人。うち相続税の課税対象になったのは、約5万人だ。被相続人100人中96人の相続においては、相続税と無縁だったことになる。

社会保障と税の一体改革で消費税の増税が決まったのは、ご存じの通り。相続税の増税については、先送りされていたが、2013年に改正が決まった。15年1月から増税になる。

改正の中身は、図のポイントの通りだ。なかでも影響が大きいのが基礎控除の引き下げ。現在、相続が発生し、相続人が母親と子ども2人であれば、資産8000万円(正味の遺産額)までなら、税金がかからない。これが改正後には、4800万円超で課税の対象になる。

すでに、増税が実施されたものもある。「小規模宅地等の特例」だ。

都市部に自宅があるだけで相続税課税の可能性が高まっている。もはやサラリーマンでも、相続税と無縁ではない。対策を伝授しよう。

■うちの財産カンペキ把握シート

相続対策を考えるのであれば、まずは、相続税がかかるのか、かからないのか、もしかかるとすれば、どの程度の税金が発生するのか、大雑把にでも把握する必要がある。次ページ以降で解説する3つのステップで記入していくと、相続税の額がおおよそ計算できるのでやってみていただきたい。

計算するには、まず、相続税評価額を見極めなければならない。相続税評価額は、財産によって異なるからだ。たとえば、1000万円の現金・預金などであれは、額面通り100%である1000万円が相続税評価額となる。

一方で不動産などは、1000万円で購入した不動産がそのまま1000万円と評価されるわけではない。通常は実勢価格(取引価格)より低い価格が相続税評価額となる。その理由は、相続税の納税のために、不動産が安く買いたたかれることを防ぐため、あるいは、実勢価格を基準にすると評価額にばらつきが出るため、などだ。

実際の手順を見てみよう。

ステップ1では、保有財産の相続税評価額はどの程度になるか見極めよう。財産の種類ごとに、表の計算法などを参考に計算していただきたい。

不動産のうち宅地は、国税庁が毎年、7月1日に公表する路線価を基準に評価額を計算。路線価とは、道路に面した標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額のこと。国税庁の「路線価図・評価倍率表」サイトで確認できる。

実際の相続税評価では、土地の形状や道路からの奥行きなどの条件によって、調整が行われる。たとえば宅地が2本の道路に面している場合は、利便性がよく、より高く評価される。ここでは、計算を簡略化するため、それらは考慮しない。

なお、路線価が公表されていない郊外の宅地や田畑、山林などは、倍率方式で計算する。これは、固定資産税の計算の基準となる固定資産税評価額に評価倍率を掛けて計算する。評価倍率は、財産評価基準書に記載されており、国税庁のサイトなどで閲覧できる。

■借金やローンは相続財産から差し引く

すべての財産の評価金額が計算できたら、合計する。これがプラスの財産の総評価額となる。

ステップ2では、相続税がかかるかどうかを計算する。ステップ1で計算したプラスの財産の総評価額から、借金やローンなどを差し引き、さらに基礎控除を差し引いた金額がプラスになれば、相続税の対象となる。

ステップ3では、税額を計算する。

相続税の税額は2段階で計算する。まずは、法定相続人それぞれが法定相続分を受け取ったと仮定して、個々に税額を計算する。

たとえば、基礎控除後の課税遺産総額が4000万円で相続人が母親と子ども2人の場合、法定相続分は母親が2000万円(2分の1)、子どもが1000万円(4分の1)ずつとなる。

これを税率表に当てはめると、母親分が2000万円×15%−50万円=250万円。子どもがそれぞれ1000万円×10%=100万円で相続税の合計額は450万円となる。

これが家族全体の納税額だ。納税の際には、実際に受け取った遺産額に応じて、税金を負担する。このとき、母親には配偶者控除があり、法定相続分以内で1億6000万円までなら無税。先の例で法定相続分通り相続したとすると、母親は無税、子どもは450万円×4分の1で112万5000円ずつの納税となる。

いかがだっただろうか。計算の結果、相続税がかからなければ「争族対策」に専念できる。相続税がかかるのなら、相続税対策も必要だ。

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東京弁護士法律事務所 代表パートナー、弁護士・税理士 長谷川裕雅
早稲田大学卒業後、朝日新聞記者に。その後、弁護士に転身。著書『磯野家の相続』(すばる舎)は、相続関連の図書としては異例の大ヒット。テレビ、雑誌などの出演多数。

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(東京弁護士法律事務所 代表パートナー、弁護士・税理士 長谷川裕雅 編集・構成=向山勇 撮影=小倉和徳)