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北海道の丼といえばまず、新鮮な海の幸てんこ盛りの海鮮丼が思い浮かぶが、忘れちゃあいけないのが豚丼だ。主に十勝地方・帯広(おびひろ)市の郷土料理として食されるこの丼料理は、肉をフライパンで焼いたり炭火で網焼きしたり幅広いバリエーションを有す。

○帯広市は豚丼発祥の地

事実、豚丼発祥の地とされる帯広市には豚丼を提供する店舗が10店舗以上あるが、肉をバラ、ヒレ、ロースから選べる店もあれば、つけダレ、かけダレの2種類を駆使してオリジナリティを追求している店もある。要は、調理した豚肉をご飯の上にのっけておいしく食べられたらOK! シンプルな定義だからこそ、各店の個性が際立つのだ。

その中から今回は、現地でも人気の店に取材して、豚丼のこぼれ話を拾ってきた。

○スタミナを目指した「うな丼」風

「十勝の豚丼は要するに、うな丼なんですよ」。のっけから「ええっ!?」と聞き返したくなるエピソードを話してくれたのは、昭和25年(1950)創業の「ドライブインいとう とかち清水本店」店主の伊藤英人さんだ。

伊藤さんは、開業前に仕事の関係でいくつかの老舗豚丼店と親交があり、豚丼草創期の話を聞いたことがあるという。それによると、かつて開拓団の人たちは疲労回復のためにうなぎを食べたかったが、北海道ではそれが叶わなかった。そのため開拓団には身近な豚を丼にして、うな丼風にアレンジしたというのだ。なるほど。豚丼のタレにニンニクと生姜が入っているのも、スタミナをつけて疲労回復させるためと思えば合点がいく。

いとうのタレも、ニンニクと生姜がたっぷり入っている。しかし、ニンニクと生姜が効きすぎているとただの焼肉のタレになってしまう。そこで、ふたつの食材の存在をいかにして目立たなくさせるかを考慮しながら、数年がかりでオリジナルのものを開発。ちなみにこの店は、タレ販売の草分け的存在だそうだ。

豚丼は肉の焼き方で、フライパン派と網焼き派の2派に分かれるという。いとうはフライパン派で、「フライパンで焼くと生肉の段階からタレと合わせるから、肉にタレがよく染み込みます。だから冷めても柔らかくておいしい。うちは弁当でも人気なのはそういう理由なんですよ」。

その「豚丼」は735円。じっくり煮詰められたタレが肉に染み、かぶりつくと口の中にじゅわっと味わいが広がる。

●infomation
ドライブインいとう とかち清水本店
清水町熊牛90

○特製タレにくぐらせながら網焼きに

お次は、網焼き派の店に行ってみよう、と足を運んだのは創業110年の老舗レストラン「お食事・ご宴会 ふじもり」だ。ここの「豚丼」(924円)は、「何年前から豚丼があるか、私にも分からないんですよ」と総務の平井雅彦さんが言うほどの、長い歴史を持つ。世代をまたぐ常連のファミリーも少なくないとか。

「豚肉は国産で上質のロース肉を使い、特製のタレに数回くぐらせながら網焼きにしています」と平井さん。網焼きは余計な脂が落ちるからヘルシーで、子供や年配の人もおいしく食べられるのだという。

実際、まず網焼きの香ばしさが食欲をそそるし、筋切りされた肉は厚切りでも柔らかく食べやすい。タレが意外とあっさりなのは、「時代の嗜好に配慮して、以前よりも甘さを控えているんです」と平井さん。あえてインパクトを弱めている分、毎日でも食べられる優しい味わいだ。

「豚丼は私も子供時代に家で母がよく作ってくれました。十勝の食文化には欠かせないものですね」と平井さん。これぞ長年守り続けられてきた十勝の味なのかもしれない。

●infomation
お食事・ご宴会 ふじもり
帯広市西2条南11-8

○豚にサンドされたとろ〜りチーズ

最後に、「変わり豚丼」を紹介したい。見た目のインパクト満点な「豚チーズ丼」(980円)を提供するのは、温泉ホテル内にあるレストラン「郷里ちゅうるい」だ。見てびっくり豚丼の上には、黄色い玉子がトロリと覆いかぶさっている。その下には、豚肉にサンドされるようにスライスチーズが隠れているのだ。

タマネギやシイタケといった野菜もたっぷり。食べてみると、十勝産豚バラ肉と山椒の香り高いあっさり和風ダレが合わさり、そこにチーズの味わいが渾然一体となる。まるで豚丼と洋食ドリアを足して2で割ったような、何ともいえない味わい。しかし、これはこれでクセになりそうなうまさだ。

●infomation
郷里ちゅうるい
中川郡幕別町忠類白銀町・ナウマン温泉ホテルアルコ236内

十勝帯広の豚丼店は、年々増え続けている。それ以外にも若者向けのがっつり系のご当地グルメなど、様々な新興勢力も台頭中だ。是非現地へ直接足を運んで、自分好みの丼モノを発見してほしい!

(OFFICE-SANGA)