有馬記念「3強」の勝算(1)
ゴールドシップ

 12月22日に行なわれる有馬記念(中山・芝2500m)。暮れの大一番を前に、昨年の覇者ゴールドシップがもがいている。

 今年の上半期は、天皇賞・春(4月28日/京都・芝3200m)こそ5着に敗れたものの、続く宝塚記念(6月23日/阪神・芝2200m)では、先行して抜け出す競馬で快勝。これまでにない理想的なレース運びで、自身4つ目のGIタイトルを獲得した。

 ゴールドシップの歯車が狂ったのは、夏を越えてからだった。始動戦のGII京都大賞典(10月6日/京都・芝2400m)で、1番人気を裏切り5着に敗退すると、続くジャパンカップ(11月24日/東京・芝2400m)ではまさかの15着大敗。早い時計が出る東京競馬場の芝への適性や、苦手とするスローペースからの瞬発力勝負になったことなど、敗因はいくつか挙げられた。が、それにしても能力を考えれば負け過ぎ。まるで馬自身の"気持ち"が切れたような敗戦だった。

 ここ2戦の敗戦が、ゴールドシップの気持ちによるものだとしても不思議はない。その気難しい性格は、これまでも随所に表れていたからだ。例えばスタート直後、騎手が気合をつけてもダッシュせず、後方からレースを進めるそのスタイルは、我の強さの表れ。レース前の入場でも、たびたび暴れて騎手を手こずらせた。調教においては、スタッフの指示を頑として受け入れず、立ち止まることがあるという。

 気難しいゴールドシップが復活する可能性はあるのだろうか。それを考えるには、ゴールドシップの性格をもっと深く知る必要がある。

 ゴールドシップの生まれ故郷である出口牧場(北海道日高町)。同牧場の出口俊一氏は、同馬の幼少期について、その印象をこう語る。

「とにかく体が大きいというイメージで、性格はおとなしかったですね。ほんの少し我の強いところはありましたが、特に手を焼くことはありませんでした。母のポイントフラッグは神経質なところが多少ありましたが、ゴールドシップはそういった面を見せませんでしたし、父ステイゴールドの特徴である気の強さもそれほど感じませんでしたね」

 レース前や調教の際に見せる荒々しい姿とは、明らかに違う印象だ。

 同様のイメージをゴールドシップに抱いている人は、他にもいた。同馬の育成(※デビュー前に基礎的なトレーニングを積む過程)や、休養時の管理を行なってきた吉澤ステーブル本場(北海道浦河町)の場長・広島剛氏だ。

「(ゴールドシップは)おとなしい、という印象が強いです。ゴネたり、人の指示に逆らったりということはほとんどありません。デビュー前の様子もわりと優等生で、順調にトレーニングを消化したため、かえって目立たない存在だったほどです。今も北海道に帰ってきて休養するときは、静かで利口ですね」

 しかしレースが近くなり、より本格的なトレーニングを積むために吉澤ステーブルWEST(滋賀県甲賀市)へと移ると、毎回ゴールドシップの様子は大きく変わるという。「急に立ち上がったり、逆に止まって動かなくなったりする」ことが多く、競馬場で見る荒々しい姿に近づくようだ。

「ゴールドシップは、すごく頭の良い馬なのかもしれません。北海道の本場にいるときはレースが近くないことをわかっていておとなしい。しかし滋賀のWESTに行くと、レースが近いことを察知し戦闘モードになる。それで振る舞いが変わってくるのだと思います」(広島氏)

 吉澤ステーブルの本場とWESTで見せる、ふたつのゴールドシップ像。その変化に「頭の良さ」を感じるからこそ、広島氏は前走ジャパンカップでの大敗からも、こんなことを感じていた。

「ジャパンカップは、ゴールドシップが自分で(レースを)諦めてしまったような気がするんです。直線に入って一瞬伸びかけたんですけど、その瞬間に『今日は無理かな......』と感じてしまったような。頭が良い馬だからこそ、それが本当でも不思議はないように思えるんです」

 ジャパンカップでゴールドシップが喫した屈辱的な敗北。常識的に考えれば、それから1カ月後の有馬記念で復活するのは簡単ではない。しかし、前走の凡走が自身の闘争心によるものなら、ここで一変する可能性がないとも言えない。頭の良いゴールドシップだからこそ、何かをきっかけにもう一度戦う姿勢を取り戻すこともあるはずだ。

「中山競馬場は、GIを2勝(皐月賞、有馬記念)している得意コース。ゴールドシップが復活するには、一番の舞台だと思うんです。私たち吉澤ステーブルにとっても、ゴールドシップは大切な馬。得意の舞台で復活することを、スタッフみんなで祈っています」(広島氏)

 生まれ故郷の出口牧場も、強いゴールドシップが戻ってくることを望んでいる。

「最初はGIをひとつ勝ったことだけですごいと思っていたのが、すでにGIを4勝。ゴールドシップはもう十分過ぎるほど活躍してくれました。それでも、やはり少しでも長く活躍してもらいたいのが本音。ゴールドシップが勝ってくれると、日高地方の牧場も活気づきますから。有馬記念当日は、『復活してほしい』という一心で声援を送ります」(出口氏)

 小さな牧場で生まれ、GI4勝の名馬となったゴールドシップ。その馬に携わってきた多くの人が、そして全国のファンが「もう一度強さを取り戻してほしい」と願っている。その願いが届くことを期待して、12月22日の決戦を待ちたい。

河合力●文 text by Kawai Chikara