広い室内空間と低燃費、そして優遇された税制度。日本が作り上げた庶民の足、軽自動車に増税が忍び寄っている

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6日、かねてから検討されていた軽自動車税の増税に関する具体案が明らかになった。

総務省が提示したのは、現行の年7200円から1.5倍となる年1万800円、そして2倍となる年1万4400円の2案だ。2015年10月、消費税が10%に増税されるのに伴い、自動車取得税が廃止されることは決定済みで、その穴埋めとして軽自動車税の増税が実施される可能性が高い。

増税の理由としては、小型・普通自動車との格差是正が挙げられている。現在、小型乗用車の最少税額(排気量1000cc以下)は年2万9500円。それに対し軽自動車税は年7200円だ。総務省の見解では、「小型自動車と軽自動車は価格面でも車両重量でも大きな差がなくなってきているため、2万円以上の差はバランスを欠いている」というものだ。

だが、自動車メーカーや販売店が組織する業界団体、JAFなどのユーザー団体は「そもそも軽自動車の税金が安いのではなく、小型車や普通車の税金が高すぎる!」と主張する。今回の増税は、「軽自動車が売れているから増税して税収を増やす」という単純な発想ではないだろうか?

この税制面での優遇により、軽自動車は庶民の足となり、いまや全国で約2000万台が走っている。もし、軽自動車税が増税されたら、人々の生活や経済はどうなるのか? 第一生命経済研究所 主席エコノミストの永濱利廣氏が予想する。

「車両価格も安く、燃費がよく、何より維持費が安い軽自動車は、低所得者や地方の生活者の重要な足になっています。もし増税が行なわれて維持費が小型乗用車レベルまで引き上げられたら、そうした人々への影響は少なくないでしょう。代替の交通手段がない現状では、税金が上がっても対抗する手段はなく、軽自動車を手放すことは困難です。そのためほかの支出を切り詰めるなどするしかありません。地方の経済にも影響が出るのは間違いないでしょう」

軽自動車がなければ生活できない人たちを狙った、「弱者いじめの理念なき大増税」というほかない。

また、増税により軽自動車のメリットが小さくなれば、小型自動車を選ぶユーザーが増えるのは間違いない。すると、ここ20年以上堅調に成長を続けてきた軽自動車市場にも暗雲が立ち込めるかもしれない。

何しろ軽自動車市場では、コンパクトカーづくりにノウハウを持つ各メーカーが、できるだけ低廉なコストで良質なクルマをつくるべく、しのぎを削っている。もし販売台数が急減ということになれば、量産効果も薄れ、車両価格上昇の原因になりかねない。こうした価格上昇がいっそうの軽自動車離れにつながることになったら、最終的には軽自動車そのものが事実上消滅してしまう可能性だってゼロではないのだ。

若者のクルマ離れが進む現在、この軽自動車税増税が、さらに拍車をかけることは間違いないだろう。

(取材/植村祐介、撮影/岡倉禎志)