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東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)、名古屋大学(名大)、国立天文台などの国際研究チームは、すばる望遠鏡に搭載されたファイバー多天体分光器「FMOS」による深宇宙観測の結果、100億年前の銀河で新しい星々が非常に活発に形成されている様子を捉えることに成功したと発表した。

同成果は、カブリIPMUのJohn.D.Silverman 特任助教、名大大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 博士課程前期課程2年の柏野大地氏、名大大学院理学研究科の教授で、カブリIPMU主任研究員でもある杉山直氏らによるもの。詳細の一部は、米国の「Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

宇宙の進化の歴史において大規模構造の環境が銀河の形成や進化にどのような影響を与えるのかを調べるプロジェクト「COSMOS(Cosmological Evolution Survey)」では、質量や成長率などの銀河そのものの性質と、その銀河が存在する場所の環境との関係を明らかにすることで、初期の宇宙から我々が住む現在の宇宙に、どのようにして変化してきたのかといった謎に挑んでいる。研究チームは今回、この研究の一部として、すばる望遠鏡に搭載されたファイバー多天体分光器「FMOS」を用いて 1000個以上の遠方銀河の観測を行い、100億年前の宇宙の地図を作るプロジェクトを進めてきた。

FMOSは光ファイバを用いた近赤外線の分光装置で、同時に400個の天体のスペクトルを得ることが可能なほか、夜光と呼ばれる地球大気が出す邪魔な光を遮断する装置が組み込まれており、これによってより遠方の淡い銀河を捉えることが可能となっており、対象とする銀河の星形成率(1年間にその銀河で新しく作られる星の総質量)を決定することができる。

今回の研究では、2012年3月以降の12夜の観測データの解析から、従来、我々の近傍の宇宙にある銀河の星形成率は、星を作る材料となる物質の総質量に伴って変化し、また宇宙初期から現在にかけて、星形成率が次第に低下していることが知られていたが、この法則が宇宙初期の銀河でも当てはまり、しかもその効率が現在よりも20倍以上高かったことが示された。この関係は、これまでの紫外線光度や遠赤外線光度といったほかの星形成率指標による観測から高赤方偏移についても確認されていたが、今回のFMOSによるHα輝線の観測結果によって、宇宙初期の星形成を測定し、近傍宇宙での同様の指標に基づいた観測結果と比べる場合に、一貫性のある正確な議論が可能になったと研究チームでは説明する。

また、観測を行った銀河の多くで、我々の近傍の同じ質量の銀河と比べて、星間ガスの重元素の含有量が少ないことも確認されたという。この結果は、激しい星形成の燃料となる原初のガスを大量に蓄えていて、これから成長する余地があるという宇宙初期の銀河像に一致するものだという。さらに、観測された中でも非常に重い銀河には大量のダストと重元素が蓄えられていることが判明。そうした重い銀河はすでに十分に成長し、我々の近傍にある完全に成熟し星形成を終えた銀河と似ていることを示す結果だという。

なお、FMOS-COSMOSサーベイはすでに1000個を超える銀河の観測を行っており、宇宙の大規模構造の地図を作るという目標の中間地点に到達したという。これまでに1平方度の範囲を観測しているが、今後は、その領域を広げるとともに、他の望遠鏡を用い、これまでの観測と比べて観測視野は狭い代わりに広い観測波長範囲と高い感度の観測を行う予定だと研究チームでは説明しており、そうした補完的観測を行うことで、近傍の宇宙に存在する成長した重い銀河団のような銀河の集まりが、宇宙の初期にもあったのかという問いに対する答えを見つけることに結び付けたいとコメントしている。